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06ハズレ聖女と美少女聖女

 王宮の広間では聖女の力のお披露目が催されていた。

 国王陛下、そして王妃と第四王子、枢機卿と重臣たちが見守る中。それぞれの婚約者の聖女をエスコートしている第一王子と第二王子。

 第三王子と聖女ユノの姿がないことを除けば、聖女召喚の日と変わらない顔ぶれだった。


 広間の中央では、透明なガラスケースに入れられたモンスターの子供から、禍々しい紫色の瘴気が溢れ出している。聖女マユリが手をかざし呪文を唱えると、その掌から溢れんばかりの眩い派手なエフェクトが立ち上り、キラキラと輝きながら広間全体を覆った。


「おおおおおぉ~!瘴気が一瞬で消えたぞ!?さすが浄化の聖女マユリ様だ!」


 瘴気を払い終え、ドヤ顔になりそうな顔を押さえ、綺麗な笑顔を浮かべ微笑む聖女マユリ。すぐ隣に控えていた第二王子が聖女マユリに手を差し伸べ、労いの言葉をかける。


「エリアハイヒール!」


 片手を上に掲げて、呪文を唱える聖女アイカ。

すると一際派手なキラキラした光のエフェクトが渦のように沸き起こる。そして、広間の高い天井をぐるりと駆け巡ると、怪我をした兵士たちの上に降り注いだ。


「なんと神々しい・・・金色の光が部屋いっぱいに!」


 キラキラとした金色の柔らかな光の粒が降ってくる。白い聖女服を身に纏った聖女アイカの可憐な美しさと、その神々しさに誰もが声を失った。


「うぉおおおー!、傷が跡形もなく消えたぞ!?」

「これだけの怪我人を一度に治すなんて!奇跡だ!」


 魔物討伐で怪我を負っていた傷が跡形もなく消えて、興奮し驚いている兵士たちの姿。


「まさか、二人の聖女がこれほどまでの力とは・・」


 驚きと喜びのあまり、言葉を詰まらせる国王陛下。

その愛らしい顔に汗とやり切った感を浮かべ、ふぅと息を吐く疲れた顔の聖女アイカ。


「凄いぞアイカ!さすが私の聖女だ。ああ、アイカを婚約者にできて幸せだ。あんなデブス聖女を押し付けられなくて本当によかった」

「まぁハルト王子ったら」


 キャッキャウフフし、ラブラブ空気を出しまくっている聖女アイカと第一王子。




「第一王子付きの騎士は、優先して聖女様の治療を受けられて、ついてたなハンス」


 騎士服を着た男が、同僚のハンスに声をかけた。


「でも、なんだか腕に微妙に違和感があるような気がして・・」

 声をかけられた男、ハンスは治療された右腕を動かして、微妙な顔になる。


「どうかしましたか?」

「あっ、いえ、先ほどは治療してくださってありがとうございました聖女アイカ様」


 聖女アイカに背後から声をかけられ。驚いて恐縮して頭を下げる、ハンスと騎士服を着たその同僚。


「怪我は治療しましたが、失った血や体力まで回復したわけではないので、安静にしてよく体を休めてくださいね」

 

 そう言って可憐に微笑むと、その場から優雅に歩き去っていく聖女アイカ。


「聖女様に治療してもらえるなんて羨ましいぜハンス。俺なんか軍医にポーション少しかけられただけだぜ」

「フフン、いいだろ。騎士団に復帰したらみんなにも、たっぷり自慢してやるぜ」

 

 小さな違和感はあるが気のせいだろう、ハンスは一人そう納得すると、騎士服を着た同僚に笑い返した。

 

 治療した騎士たちの様子を一通りみて回り、自分の人気を確認した聖女アイカは、騎士たちから離れると、小声で呟いた。


「ふふっ、乙女ゲーム様様ね、セリフ丸パクリすれば聖女らしい言葉をかけるのにも困らないし、呪文もそれらしいの適当に叫んだら、なんとかなったわ。ああ、やっぱり私の人生は異世界でもイージー・モードで楽勝だわ」


 最近の絶好調な毎日に浮かれ、口から心の声を駄々洩れさせながら、ドヤ顔になる聖女アイカ。



◇◇◇

 


 へぷしっ!。第三王子が住む屋敷。その一室にある自分の部屋で、ユノは豪快にクシャミをしていた。


「・・・う~ん、スキル『心眼』が何系統の魔法なのかわからない・・・」


 わたしはせっかく発動したスキル『心眼』につまずいていた。『攻撃魔法』はそれなりに発動できた、室内だからまだ威力は試せてないけどね。


 ゲームみたいに、スキル『心眼』独自の呪文があるのかな?。だとしたら、ヤバイお手上げだ・・・。治癒なら「ヒール」とか呪文が浮かぶけど、『心眼』は何も浮かばない・・・


 どんな影響があるかわからない力だ。しっかり検証してからじゃないと、人に向かって(自分も含む)に安易に使うわけにはいかない。

 私は試しに窓辺の置いてある鉢植えに向けて、「心眼」を使ってみた。・・が何の変化もなかった。


「うん、わかってたよ、私には豊穣の力はないね・・・」


 そよそよ~とあざ笑うかのように、鉢植えの葉が揺れた。わたしはだんだんヤケクソになり、右手を前に出して、中二病っぽい格好で、空中に向けて、思いつく限りの呪文を叫び始めた。


「魔法の練習をしているのですか?。異世界の魔法を使うポーズは独特なのですね」


 背後からレン王子の声が聞こえてきた。開いたドアの前で、ものすっごいキラキラした瞳でこっちを見ている。あっ、この子間違いなく魔法大好きっ子だ、わたしは恥ずかしさに悶えながら、そう直観した。


「そうだ!私の書斎にきませんか?魔法の蔵書ならたくさんあるのです!」

「魔法の本!みたいです、ぜひ!!」


 いつになくテンションの高いレン王子のお誘いに、わたしは藁にも縋る思いで、食いついた。


 「うわぁ!」所狭しと並ぶ本に、わたしは思わず声をあげた。床から天井まで埋め尽くす勢いで本がある。一体この王子はどれだけ勉強したのだろう・・レン王子の努力に頭が下がった。


「ユノは本は好きですか?」

「好きですよ、これでも教職員免許もってますから、勉強はたくさんしました」


「キョウショクインメンキョですか?」

「えっと、わたしの国、日本で先生になる資格のことです」

「なんと、ユノは教育係だったのですか!?」


 きょとんとした顔のレン王子にそう説明すると。今度は、尊敬のキラキラした瞳で見つめられた。


「はい。教師就任日にこちらへきてしまったから、厳密にはまだ・・なんですけど」

「・・・そうだったのですね」

 

 一瞬すまなそうな顔になり、すぐに何か思案する表情になるレン王子。


「渡り人とこの国の人間の魔法は、厳密には違うと言われています。どこまで役立つかわかりませんが、このあたりの本は読みやすいですよ」

「ありがとうございます」

 

 数冊の本を本棚から取り、ユノに手渡すレン王子。


「わたしは魔力が無いので、残念ながら理論しかお教えできませんが・・・」


 少し寂しげに言うレン王子。


 おばさん侍女の変装で、王宮の洗濯侍女を手伝っていた頃に、第三王子の蔑称を知った。

 魔力無しの無能、4人の王子の中で、容姿も頭脳も魔力も全てが劣っている『無能豚王子』と・・・。


 魔力がないレン王子が、どれだけ魔法に憧れているのが、この部屋を見たらよくわかって、胸の奥がズキンと傷んだ。



「レン王子、歴代聖女の魔法は治癒・浄化・豊穣、以外にも何かありましたか?」


「もしかして・・何か聖女の能力に目覚めたのですか!?、あの、もし差支えなければ・・・」


 興味津々な様子で、でも、それを抑えるようにレン王子が聞いてきた。


「あまり聖女っぽくない能力なんですが・・・攻撃魔法が・・・」


「それはおめでとうございます!よかったですね!!」


 まるで自分のことのように、私の手を取ってとても嬉しそうに喜ぶレン王子。

 その純粋な笑顔を見てたら、レン王子には隠したくないなと、そう思った。


「それともう一つ『心眼』というスキルが」


「心眼・・ですか?、歴代聖女の魔法に心眼というのはありませんね」

「そうですか・・・」

 

 間髪なくそう返され、わたしはしょんぼりと項垂れた。するとレン王子は、深く思案する表情になった後、口を開いた。


「そうですね、でも建国神話に「心眼の女神」の話ならありますよ」


「心眼の女神!なにそれ、もっと詳しく教えて!!」


 わたしはクワッと目を見開き、思わず叫んだ。


 なんだか、最近、困ったときのレン王子頼みになってない?私、いい大人なのに。しかも大飯食らいで役立たず・・・。一家に一台レン王子、ヤバイ王子を手放せなくなりそう!。


 待っててくださいねレン王子、スキルを使いこなせるように頑張って、「役立つ元デブ」になりますから!。スキル心眼の解決の糸口になりそうな情報に、私のテンションは跳上がった。


お読みいただきありがとうございます。

☆週に1~2話ほど更新していきます。全体で35話程度を予定しています。

不定期更新なので、更新したら活動報告でお知らせさせて頂きますね(=^・ω・^=)。

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