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05無能豚王子は謝罪する

「わざわざ来てもらってすまないな。遠慮せずに話しながら食べてくれ」


 レン王子の部屋に入ると、侍女のアメリがお茶が淹れてくれた。机の上のベルをレン王子が鳴らすと、若い侍女が、お菓子とフルーツと軽食が所狭しと山盛りにされたトレーをどんどん運んできた。きっと話が長くなると思って気を使ってくれたのだろう。

 

 うん、デブはすぐお腹すくからね。あっ、今は元デブだった。う~ん、なんだかまだ痩せたことに慣れないわね。それにしても、この王子、すごく気遣いのできるいい子だわ。私は遠慮せず頂くことにした。もぐもぐ。


「レン王子、こんなにわたしに食べさせてどうするつもりですか?デブスに戻りますよ」


 あまりにじっと見つめられて恥ずかしかったので、わたしは茶化すようにそう言い、ケーキを頬張った。するとレン王子から「戻っても、私はかまわないぞ」と、すごく男前な返事が返ってきた。


 ちょっと、奥さん!お聞きになりました?。

結婚してから太ったら「詐欺」だの、結婚して太ったら「離婚」だの言ってる、世の旦那様にぜひ聞かせたいセリフですわ。


 ユノが脳内で、奥様たちの井戸端会議ごっこをしていた頃。レン王子は、先ほど侍女のアメリから耳打ちされたことを思い出していた。 


「鏡をみて泣いていたとは、どういうことだアメリ!?」

「どうやら、お痩せになったお顔が、ユノ様の姉君と妹君に瓜二つのようでして・・・ご家族を思い出していたご様子でした・・・」


「なら、また太ればいいのだ。そうすれば、きっと少しは悲しみが減るかもしれない」、レン王子は心の中でそんなことを考えながら、美味しそうに焼き菓子を頬張るユノの姿を愛おしそうに見つめていた。


 そういえば、金髪碧眼なのはレン王子だけなのね。


 向かいのソファに座るレン王子をみながら、ぼんやりとそんなことを考え、サンドイッチを頬張るユノ。わたしがモリモリと食べている間。レン王子はお茶を口にしただけで、ほとんど食べ物には手を付けていなかった。


 第一王子も金髪だが、落ち着いたくすんだ金髪だ。第二王子は銀髪碧眼で王妃様似だし、第四王子は銀髪に緑の瞳だった。レン王子と第四王子は年子なのか?、異世界召喚された王宮で二人が並んでいるのを見たが、同じくらいの身長だった。ちょうど小学生ぐらいの背丈にみえた。


「王様譲りの豪奢な金髪に、王妃様譲りの宝石のような青の瞳。レン王子は、お二人の色を一番よく受け継いでいますね」


 心からそう思って呟いたのだが、レン王子はピキリと固まり、侍女のアメリは淹れていた紅茶のポットを手から滑らせ床に落とした。ガラガラカッシャーン。


 えっ!、なんかマズイこと言った・・・?、微妙な空気になってしまい、オロオロするわたし。


「私の容姿をそんな風に言う者はいなかったので、少し驚いただけだ」


 そんなわたしをフォローするように、レン王子はそう言った。


「やはりユノは、私が想像していた通りの人のようだな」


 少し照れて、はにかむように微笑むレン王子。


「召喚された日のユノは、とても堂々と凛としていた。見た目をあざ笑う視線にも悪意のある言葉にも、瞳には強い意志を宿し毅然と顔を上げていた。悪意のある言葉に耳を塞ぎ、俯いて生きる自分とはまるで違い、顔だけ綺麗で媚びるような他の聖女よりも、ずっと綺麗だと思ったのだ」


 わたしとの初対面の印象を熱く語るレン王子。美化されすぎじゃない?、褒められなれてなくて、なんだかこそばゆくて、「えっ!?王子デブ専ですか?」と思わず茶化してしまった。


「デブセン?がどのようなモノかよくわからぬが、私の乳母はとてもふくよかで優しい人だったぞ」


「それがデブ専・・」フガッ!

「ユノ様、どうぞこちらもお召し上がりください!」


 それがデブ専というのでは、そう言いかけた瞬間。目にも止まらぬ速さで、侍女のアメリがわたしの口にマカロンを大量に突っ込んだ。マカロンは好物だけど、もぐもぐ。わたしは一つずつ味わって食べる派なのよ!。

 これまでの態度でなんとなくわかっていたが、この侍女はレン王子命で!、王子への冒涜は誰であろうと一切許す気はないらしい。うん、今後は気をつけよう・・・。


「人の悪意って呪いみたいなもので浴びると弱ります。でも私には家族がいたから」


「ゆのは生きていてくれるだけでいい」そう言って、激甘に浴びるように愛情を与えて育ててくれた両親に、ちょっと天然で心配性な姉と妹を思い出し、切ない表情になるユノ。


「本人の意思を無視して、見ず知らずの場所へ一方通行な召喚をするのは人攫いと同じだ。辛い思いをさせてしまい・・・本当に申し訳ない・・・。この国を代表して謝罪する」


 レン王子はソファから立ち上がると、とても綺麗な所作で深々と頭を下げ続けた。


「こんなことでは謝罪にならないだろうが、ここを自分の家だと思って暮らしてほしい。不自由なくここで暮らせるようにユノのことは私が守る」


 この国の王族はクソだと思っていたけど・・・、レン王子のような人間もいるのね


 勝手に召喚して、勝手に無能の烙印を押された。もう二度と家族の元に帰れないのに・・・謝罪の一言もない。すぐにこの世界に適応した美少女聖女たちが普通で、わたしがおかしいの・・・?、ずっとそんな風にモヤモヤを抱えていた。

でもそうじゃなかった。異世界に召喚されてから初めて自分と同じ価値観を持った人に出会えた。レン王子と話しているうちに、なんだか少しだけ救われた気持ちになれた。


「レン王子のせいじゃないですよ。頭をあげてください」


 わたしは自分よりもずっと背の低いレン王子の頭をポンポンと撫でた。綺麗な金髪は想像していたよりもずっと柔らかくスベスベで、撫でている手を止められくて、気がつくと両手で頭をなでなでしていた。

 毛並みのいい猫を撫でると、撫でている手の平が気持ちよくて、ナデナデをやめられない、あんな感じだ。


「レン王子、異世界と手紙をやり取りできるような魔法は、この世界にはないでしょうか?」

「異世界へか・・難しいな」

「きっと家族はいなくなった私を探し続けると思うんです。だから一言元気で生きてるって、いつか伝えたいんです」

「魔法では難しいが、伝達の魔道具なら可能性はあるかもしれない」


 知的な大人びた表情で思案する幼いレン王子。その姿を見ていたら、「体は子供、頭脳は大人」がキャッチフレーズの某有名アニメのワンシーンが、なぜか頭に浮かんだ。


「わかった。時間はかかるかもしれないが、そのような魔道具がないか、私のほうでも調べてみよう」

「ありがとうございます!。レン王子は小さいのに、とても賢くていい子ですね」


 わたしは嬉しさのあまり、頭を撫でていた手を肩に回し、ぎゅうっとレン王子を抱きしめた。


「誰かに褒められたのは初めてだ。無能だの豚王子としか、言われたことがなかったから・・・」


 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているレン王子。


「王子の優秀さを見抜けない奴らが無能なんです。今度、レン王子を馬鹿にする奴がいたら、私がぶん殴ってやりますよ」

 

 わたしがそう言いながらファイティングポーズを取ると、レン王子は可笑しそうに破顔した。

読んでくださってありがとうございます。

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