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26領地異変とアキンド聖女①

 最近、レン王子が戦闘訓練を頑張っている、いや頑張りすぎている…


 たった今も、鬼気迫る様子でレン王子がソーマ騎士団長と訓練している最中だ。こういう瞳をしているときのレン王子は、何をいっても止まらない。一見穏やかそうに見えるが結構頑固だからね…。


「負ければすべて取り上げられるか、わかってはいても改めて指摘されると、痛いものだな…」

「要は負けなきゃいいんですよ、王子!」


 訓練を終えたレン王子とソーマ騎士団長が、何やら親し気に話している。だがタオルと果実水を持ってわたしが近づいたときには、二人の会話の語尾しか聞こえなかった。


「レン王子! どこが痛いの!? 怪我なら見せて!」


 わたしはチラッとソーマ騎士団長のほうを睨んだ。


「いや違うぞユノ、どこも怪我はしていないから…」

「俺も怪我なんてさせてませんから…!」


 すると、レン王子とソーマ騎士団長が息の合った様子で否定してきた。


「なら、いいんですけど…。この間みたくレン王子に大量に魔剣を錬金させて、バテさせたらど突きますよ!」


 わたしは言い聞かせるように、にんまりとした笑顔で微笑んでみせた。


 レン王子の錬金魔法の力が広まったせいか、最近領内のいろんなところで頼みごとをされているようなのだ。目を離すと、レン王子は頑張りすぎてしまうので、心配で仕方がない…


「ユノ様ー!、頼まれた品を購入してきたのですが、どちらに運びますか?」


 ふいに背後から、商いから戻ってきた商人のネギルさんに声をかけられた。


「柑橘類の木や甜菜や大量の種類を購入できたのですが、運ぶ過程でどれも弱ってしまって…」


 ネギルさんが申し訳なさそうに顔を曇らせた。


「ありがとう、大丈夫よ! 新しい土地に上手く根ずかせるから」


 わたしは馬車の荷台から、購入してきてもらった物を空間収納に一度収納した。そしてそれを空間収納から畑へと、一瞬で植え変える。


 空間収納を一度通した作物は、生き生き艶々として最上級に健康な状態になっている。それを見たネギルさんが「おお~!」と感嘆の声をあげた。


 空間収納のレベルが最近上がって、状態保存ではなく「活性化機能」が追加されたのだ。


 北の領地は初夏になった。頬を撫でる風が心地よくて過ごしやすい。

 領地に来たのは春の終わりだったが、畑と水田の作付けはなんとか間に合った。塩を売ったお金で食料を買って、実りの秋まで凌げば農業面は軌道にのるはずだ。


「目下の課題は、レン王子の負担を少なくして「錬金」で領地を豊かにする方法だなぁ…。何か対策を考えないと」


 無理を止めることができないなら、せめて体調管理に気をつけようと思い、眠る前に毎日診察している。もちろん日課のマッサージも続けていた。


 でも、心配なものは心配なのだ…


 

◇◇◇



 領館の執務室。わたしとレン王子は、最近こっそりと教育していた侍女候補の子供たちを、アメリに紹介した。

 四人の子供たちは、下は12歳から上は16歳。それぞれスキル持ちなので、育てばきっと即戦力になるはずだ。


「基本的な教育が済んだらアメリに引き渡すから、そしたら侍女教育をお願いね」


 わたしがそう言うと、アメリは首を横に振った。


「この子達は今日から私が教育します。ユノ様は、ユノ様にしか出来ないことに時間をお使いください」


 アメリは若草色の瞳に優しい笑みを浮かべると、わたしをふわりと抱きしめた。


「レン王子もですが、ユノ様もあまりご無理なさりませんように。温泉などいろんなことが途中なのでしょう」


 わたしは自分よりも少し背の高いアメリに、ぎゅうっと抱き着き返した。すると赤茶色の髪を後ろで一つに結いあげたアメリから、いい匂いがした。


「アメリが頼りになってカッコいい! 惚れちゃいそうだよ…アメリ、大好き!」


 アメリはこの異世界での頼れるお姉さんのような存在だ。レン王子に保護されたときに、いろんなことを教えてくれたのもアメリだった。日本には雪姉がいるが、天然でどちらかというとわたしが守る立場だったからね


「そのお言葉は、私ではなくもっと別の方(・・・)に言って欲しいのですけどね…」

「へっ?」


 ポカーンとするわたしをよそに、アメリはそう言うと優しい綺麗な笑顔で微笑んだ。


「レン王子! この空いた時間にマンション作りの続きを試しましょう!」


 わたしは執務室の机で書類仕事をするレン王子のほうを、勢いよく振り返った。


「ああ、そうしよう!」


 するとレン王子は、笑いを堪えるように苦笑して即答してくれた。



◇◇◇



「マンションというのは集合住宅のことでよいのか?」

「そうです、冬が来る前に住民の住まいを整えたくて…」


 わたしとレン王子は冬が来る前に、民の「衣」と「住」環境を整えることを目指している。

 雪が降る前に、集合住宅と温泉施設と温水ビニールハウスはせめて作りたい。温かい南の領地とは違うのだ、それを間に合わせなければ、領民は冬を快適に越せないだろう…。


 だが錬金でレン王子が全て作るのでは負担が大きい…。それにレン王子には、万が一に備えて砦の要塞化防衛の設備を作って貰っているのだ


 勿論、何事もなければそれが一番いい。だが何かあったときに、この北の領地単独でも生き残れる、そんな強い領地をわたしは作りたい!


 レン王子を守るためには、そのぐらい必要になると思うんだよね…


「なら冬では遅い、秋だな…、北の砦の冬は雪深くて厳しいからな…」

「う~ん、普通に作ったんじゃ間に合いませんね…」


 レン王子に1棟作ってもらったマンション。コンクリートでマンションの基本部分を錬金で作ってもらい、職人にドアや窓や内装を整えてもらったサンプルがようやく上がってきた。

 広場に置かれたサンプルを見上げながら、わたしはふと閃いて、サンプルを一度、空間収納にしまった。


「どうしたのだユノ?」


 広場からサンプルの大型マンションが1棟消えたのを見て、レン王子が驚いて声をかけた。


「ねぇ『心眼』、空間収納でこれを複製コピーできないかな? あと配列もしたいんだけど?」


『心眼回答:レベルが上がったので、空間収納に必要な材料を入れれば複製は可能です。ですが魔力は大量に消費しますよ…』

「大丈夫! 材料なら空間収納にいっぱい入れてるから」


 わたしはテンション高く答えると、即実行してみることにした。


「空間収納からマンションAタイプを複製コピー!、正面の道路を挟んで均等配列配置!」


 ズワッと魔力が身体から捥ぎ取られ、立ち眩みが起こった。そしてその次の瞬間、目の前には数十棟のマンションが一瞬で建ち並んだ。


「やりましたレン王子! コピーできましたよ!」

「まさか…複製可能なのか!?」


 驚きの声をあげるレン王子。嬉しくてテンションが上がったわたしは、気がつくとレン王子をぎゅうっと抱きしめていた。


 やったぁ! 錬金×空間収納コピー! これで、レン王子にもう無理させなくて済むね!


「大変です! 第三王子! ユノ様!」


 背後から若い騎士団員の一人が、大慌てで走ってくるのが見えた。

 騎士団員のほうを振り返るわたしとレン王子に緊張が走る。


「瘴気が出て、通行止めで…人がたくさん押し寄せて来ました…!?」


 若い騎士団員は、ゼイゼイ肩で息をしながら、しどろもどろに不穏な知らせを口にした。


更新が滞り、ほんとうにすみませんでした(m´・ω・`)m 。

本日から更新を再開します、よろしくお願いします。


「27話 領地異変とアキンド聖女②」は明日、配信します。

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