23自己評価が低い聖女様①
「少し熱っぽいですね…」
領館にあるレン王子の寝室。一通り診察を終えたわたしは、心配になりレン王子の額に手を当てた。
頬の傷は心眼の治療で綺麗に治せた、傷口から雑菌が入ったわけではない。だが熱が上がってしまっていた。
「ごめんなさいレン王子…、大量に錬金を使わせてしまったせいかも…」
「私がやると言ったんだ、それに魔力だってまだ残っていて余裕だった」
ベットに横になったまま答えるレン王子。タオルが額にのせられ、その顔は熱で薄っすらとピンク色になっている。
そんな弱った様子をみていたら、わたしの心は心配と反省の嵐でいっぱいになった。侍女のアメリも心配そうに後ろで控えている。
『心眼回答:魔力疲労状態、休養を推奨します。図太く鋼のような聖女ユノと、最近、魔力を使い始めた繊細な王子を一緒にしないように!』
「うっ…」
ますます人間臭くなってきた『心眼』に、何気に失礼なこと言われてるが、反論できない…。今回は全面的にわたしが悪いからだ…
騎士団の件が一段落した後、領地に道路を敷き、城壁を錬金してもらった。大型魔物が北の砦側に来ないように、魔の森の中央に鉄塔型の杭の設置も。材料が手に入ったからといって、ここ最近、調子に乗ってお願いし過ぎたかもしれない…。
「そんなことより、眠れないので一緒に寝て欲しい」
自分が眠る広いベットの端を、ポンポンと叩くレン王子の手。甘えるように言う、その仕草が可愛くて、不謹慎にも顔が緩んでしまった。
「ユノと同じ部屋で休むほうが、護衛の人数も少なくて済むのだが…ダメか?」
わたしの部屋はレン王子と続き部屋になっている隣室だ。今晩はもとより傍についているつもりだった。だがそのことを伝えていなかったせいか、熱心にレン王子がおねだりしてきた。
「確かにそれもそうね、いいですよ」
傍にいればいざというときに守れるし、体調変化にも対応できる。わたしは今晩だけのことだろうと思い軽い気持ちでOKした。
「そうだ、ならアメリも一緒に…」
「まぁ大変! 私、用事の途中だったのを忘れてましたわ!?」
『どうせなら皆で同じ部屋で休めばいいんじゃないの』とわたしは声をかけようとしたが、アメリはそそくさと部屋から出て行ってしまった。
「砦に来てアメリの仕事が増えて忙しいのね…、そろそろ侍女候補も育成したほうがいいわね」
「そうだな、アメリには長いこと無理をさせているからな」
う~ん、育成もまたアメリの負担よね。でも長い目で見たら信頼のできる侍女は必要だし…。そうだ、北の砦の健康診断でスキルのあった子供たちにしよう!
基本的な部分はわたしが育て、侍女の専門的仕事だけアメリに指導してもらおう。そうすればアメリの負担軽減になるはずだ。わたしは閃いた良案ににんまりした。
「レン王子は、まずは体調を治しましょうね」
わたしがレン王子の金髪を撫でると、青い瞳が嬉しそうに細められた。そしてレン王子がわたしのほうへ片手を伸ばしてきた。
「ユノにこんなに心配してもらえるなら、病気も悪くないな」
その手をわたしが握ると、安心したのか直にレン王子の寝息が聞こえてきた。
かなり疲労していたのね…。無理もないわ、小さな体で領地の改革もして剣と魔法の訓練も欠かさずしているんだもの…
わたしはベットのレン王子の隣に横になり、早朝まで起きていた。そして熱が下がったの確認して、ほっとして眠りについた。
朝起きると、わたしを抱き枕のように抱きしめて、レン王子がスヤスヤと眠っていた。
「何この可愛い生き物!?」
萌えと眼福のコラボレーションに、起きるのが勿体なくて、思わず二度寝してしまった。なんだか領地に来てから元々多かったレン王子とのスキンシップが増えた気がする。
『一緒に寝て欲しい』は病気で心細くて一晩だけのことだと思っていたのだが、レン王子的にはこれから毎晩のつもりだったのだそうだ。
甘えてくるレン王子が可愛いくて、断れなくなったわたしは、この日を境に一緒に眠るようになった。
◇◇◇
「第三王子、ユノ様、私たちも訓練に参加させてください!」
数日後の騎士団の練習場。わたしがレン王子と訓練していると、騎士団員たちが自ら練習の参加を申し出てきた。
「勿論、かまわないぞ」
気さくに騎士団員たちに答えるレン王子。
「王子は俺とだ、今日は稽古をつけてやる!」
「私もソーマ騎士団長とは、もう一度戦いたかった!」
すっかりイケオジになったソーマ騎士団長が、レン王子を戦闘訓練に誘った。レン王子も好戦的な瞳でそれに答えていた。そして二人で広い練習場に中央のほうへ行ってしまった。
「じゃあ、わたしはバルザーと…」
わたしは期待を込めた瞳で、老兵グレイル・バルザーのほうへ、くるりと振り向いた。
「手加減が苦手なので、ユノ殿のお相手はご容赦を…」
「ワシらは老体なのでユノ様のお相手にはなぁ…」
だが老兵グレイル・バルザーと老兵団のお爺ちゃんたちに、速攻で断られてしまった。
「誰か模擬戦の相手になってくれないかなぁ~」
わたしは騎士団の練習場をぐるりと見回した。ところが、団員たちにことごとく目を剃らされた。
模擬戦の勘を忘れないうちに、タイマンで戦闘訓練をしたかったのに…
団員たちは二人一組で訓練していて、なぜか誰も練習相手になってくれなかった…。一人で訓練してるのはアスランぐらいだ。仕方がないので練習場の隅のほうへ行き、ぼっちで自主練を始めることにした。
練習用の的があったので、それを第一王子や第二王子と想定して魔法練習することにした。だがすぐに爆裂音を轟かせて、的を木っ端みじんの消し炭にしてしまった。
「王位ランク戦は試合なのに、相手を消し炭にしてどうすんのよ…。はぁ~、やっぱり対人で訓練したいな…」
練習用の的だった残骸から上がる黒煙を見て、わたしは一人ツッコミを入れ溜息をついた。
「俺、聖女様と戦うの…怖いわ」
「ああ、ユノ様は可愛いけど、俺も戦うのは怖くて嫌だわ…」
遠巻きに聖女ユノを見ながら、ひそひそと呟く団員たち。
「大丈夫だ! こうやって二人一組で訓練していれば、相手に指名されることはないはずだ」
聖女ユノの練習相手にされないために、一致団結し黙々と剣の訓練する騎士団員たち。
◇◇◇
「ソーマ騎士団長、稽古ではなくこの間の模擬戦の続きを行いたいのだが?」
「俺はかまいませんが、ユノ様が乱入してきてフルボッコにされるのは嫌ですよ…」
練習場に中央に剣を構え相対する第三王子と騎士団長。第三王子の提案を聞いて、騎士団長が肩をすくめて苦笑した。
「今日はそんなことにはさせない、大丈夫だ」
練習場の隅にいる聖女ユノの姿をちらりと遠目にみながら、そう答える第三王子。
「模擬戦にこだわるのは、王子に『聖女に守られているお姫様には従いたくありません』って言ったことを根に持ってます?」
「うっ…その通りだ」
騎士団長にハッキリと言われ、罰が悪そうに言葉に詰まる第三王子。
「いいでしょう、王子と模擬戦になったのは「その言葉を取り消せ!」と言われたのが発端ですしね…」
騎士団長はそう言うと、第三王子の返事を待つことなく剣を打ち込んだ。その剣先をかわす第三王子。
「俺から一本でも取れたら取り消します。ですが俺に勝つまでは忠誠は捧げませんよ」
「ああ、それでかまわない」
合図なく戦闘を始めた二人は、そのまま激しい剣戟へと雪崩れ込んだ。
更新が遅くなり申し訳ありません。
24話「自己評価が低い聖女様②」は近日中に配信予定です。
※更新滞り中にも関わらず、ブクマや評価下さり、ありがとうございました。とても励みになってます感謝です(*´ω`*) 。




