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11出立と北の砦への追放

「お帰りなさいませレン王子、ユノ様、神殿はいかがでしたか?」


 わたしが勢いよく屋敷の玄関ドアを開けると、侍女のアメリが出迎えてくれた。


「ユノはなんと、女神様と会って神託を賜ったそうだ」

「まぁ!なんて素晴らしいのでしょう、それでは」


 レン王子がそう説明すると、侍女のアメリは驚いて声をあげ、期待に満ちた目をわたしに向けた。


「お待たせアメリ!、これからレン王子を診察するわ」



◇◇◇



「上着を脱いでベットに横になってもらえますか?」

「これでいいか?」


 レン王子の寝室。少し緊張した顔で、わたしに言われた通りにベットに横になるレン王子。小さなぽっちゃりとした身体の形に、柔らかなベットが沈み込む。


 レン王子を診察したい、そう念じると、脳内に呪文が浮かんだ。二つの世界の言葉が紐づいたせいだろう、この世界の言語と日本語と両方で浮かんだ。


 うん、呪文を唱え間違えたら怖いので、使い慣れた日本語のほうにしよう…


「マグネティック レゾナンス マギスキャン」


 わたしはレン王子のほうへ手を伸ばし呪文を唱えた。すると体の上にMRIのようなコンピュータ画像が表示されたウィンドウがいくつも現れた。人体を輪切りにしたような断面画像や、立体的な画像を想像してもらうと、わかりやすいだろうか。


 成長が遅く魔力が無いってアメリは言ってたけど、うん?魔力総量がとても高いんですけど?


 目を凝らして体中隈なく診察し、わたしは首をかしげた。


「あっでも循環してない、魔力が外にでてこられないんだわ。…この赤い点は何を表しているのかしら?」


 ウィンドウの画面の所々に赤い点のようなものが見え、わたしは思わず疑問を声に出した。すると突然、脳内に機械音声が響き、会話ウインドウが開いた。


『心眼回答:魔力の循環が悪く詰まっている箇所。魔力血栓ができて詰まり、全身に十分な魔力を送ることができない状態。酷くなるとなると身体の成長を阻害し、魔力中毒で激太りする』


「おおおおおお~!心眼!なんて出来る子なの!、まるでOK Googleみたいだわ」


 どうやら『心眼』には質問すると回答してくれるシステムが付いているようだ。嬉しくなったわたしは調子に乗ってどんどん質問した。それに答えてくれる頼もしい心眼。


「そろそろ、何かわかったのか教えてもらってもいいだろうか?」

「はっ…!?はい!」


 申し訳なさそうに声をかけるレン王子。その声にわたしはハッとして我に返った。調子に乗りまくっていたわたしを、ずっと待っていてくれたようだ、ごめんなさいレン王子…。


「魔力血栓ができているせいで、魔力が循環できずに体の内側に溜まった状態になっています。それさえ取り除ければ、魔力量も成長阻害も治るかもしれません」

「本当か!?私も魔法を使えるようになるのだろうか?」


 診察した結果を伝えると、レン王子は物凄く驚いた顔になった。期待に満ちた目が真っすぐにわたしに向けられる。


「はい、レン王子は魔力無しなんかじゃありませんよ」


 それを聞いたレン王子がようやく破顔した。喜ぶ姿を見て嬉しくなり、わたしも微笑んだ。



◇◇◇



 城門前の広場に並ぶ馬車の列。追い出されるように慌ただしく準備に追われ、レン王子の治療もままならないまま、北の砦への出立の日となった。


「王様と王妃様は見送りには来ないのかしら?」

「そのようですね…」


 北の砦は王都から遠く離れた僻地だ、城を出れば簡単には会えない。それでも餞別の言葉すらかけにこない王様と王妃に、わたしとアメリは憤っていた。だがネグレクト塩対応には慣れているのか、レン王子は何も言わなかった。

 そこへ、意外にも三人の王子たちが姿を見せた。


 第一王子は怒ったような拗ねたような表情でこちらをチラチラ見ている。だが少し離れた場所にいて、なぜかレン王子のほうへ見送りの挨拶には来なかった。


 あのオツムが残念な第一王子は何をしに来たのかしら…?


 不思議に思ったが、それ以上興味がなかったので捨て置くことにした。すると、第四王子が前に進み出てきた。


「レン兄上、どうぞお元気で。これは餞別です」

「ああ、ありがとう」


 そう言うと、銀髪に緑の瞳の美ショタの第四王子は、リボンのかかった綺麗にラッピングされた包みを、レン王子に手渡した。


 第四王子は確かスイ王子よね、聖女召喚のときに一度見たことがあるわ。身長はレン王子と同じぐらい、うーんレン王子のほうがほんの少し低いかしら?


「こちらは聖女ユノ様に」

「まぁ!?、ありがとうございます」


 餞別を渡す様子を微笑ましそうにみていたら、なんと第四王子はわたしにまで小さな包みをくれた。そして渡し終えると、足早にちょこちょことした足取りで戻っていった。


「ふふっ甘い香り、お菓子でも入ってそうな可愛い包みね」


 わたしは袋をのほほ~んと眺めていた。するとレン王子は、「アメリ!」と声をかけ、餞別で貰った包みを侍女のアメリに手渡した。


「はい、心得ております!」


 侍女のアメリは包みを開けもせずに、慣れた手つきで袋に短剣を数回素早く突き刺すと、傍にあった箱に素早くしまった。箱の中を覗くと、ナイフで切れた袋の隙間から毒々しい色の蛇が見えて、わたしはヒィと声をあげた。


「第四王子は血と解剖が好きな毒マニアです。贈り物は受け取っても、決して食べてはいけませんよユノ様」

「…はい」


 小声で耳打ちする侍女のアメリに、わたしは青ざめた顔で返事をした。


「キョウ兄上!見送りに来てくださったのですか」


 今度はそこへ第二王子が現れた。見送りにきた第二王子を見て嬉しそうな顔になるレン王子。


 わたしは第二王子とはあまり接触がなかった。だが「第二王子のキョウ兄上だけは一緒に公務に行ってくれたり、話をしたりしてくれるのだ」と以前レン王子がそう話してくれた。


 でもなんか第二王子のキラキラした優しい笑顔は胡散臭いんだよね…


「レン、お前がいなくなるのは寂しいよ」

「キョウ兄上…」


 レン王子を抱きしめて涙ぐむ第二王子。すると第二王子は、レン王子と私にしか聞こえないようなボリュームで囁きだした。


「お前が隣に並ぶと、私の美しさが引き立った。無能豚王子にも分け隔てなく接する兄王子の姿を民が見て、私の人気が上がった。お前はこれ以上ないくらい優秀な引き立て役だったよ」


 抱擁していた腕を解くと、笑顔で去って行く第二王子。ショックで呆然と立ち尽くレン王子。


「不出来な弟にも分け隔てなく愛情を注ぐ慈愛に満ちたあの笑顔、第二王子はなんてお優しいんだ」

「それに比べてなんだ第三王子の態度は、挨拶も碌にできないなんて」


 王子たちと一緒に見送りに来ていた重臣たちから、ヒソヒソと囁き声がきこえる。


 第二王子の外面が良すぎてみんな騙されているんだわ。レン王子を気にかけているのは私利私欲からで、本心は蔑み馬鹿にしている。だからあの笑顔を怖く感じたんだ…


 お前ら、うちのレン王子になにしてくれとるんじゃあ~!、わたしの心の中は沸騰していた。ブルブルと怒りにで身体が震えた。すぐ傍にいたアメリも同じ気持ちのようで、顔が般若のようになっている。

 わたしは隣にいるレン王子の手を無言で握った。だが手を握られても、レン王子は俯いたままだった。


 デブが俯くと奴らは喜ぶ、デブが泣くと奴らは歓喜する、デブが病気になったり死にそうになっても奴らは心配しない。心配するのはせいぜい己の身ぐらい。「苛めすぎてデブが死んで、自分が罪に問われたら嫌だな~」気にするのはそれぐらいだ。不意に頭の中に、そんな昔のことがよぎった。


「うつむいたらクソ王子たちを余計に喜こばすだけですよ」


 わたしは背後から両頬をつかみ、レン王子の顔をグイッと上に向けさせた。


「さぁ思いっきりメンチ切ってください、あっ、睨みつけてください、こんな感じで」


 そう言うとわたしは、クソ王子たちにガンを飛ばした。


「ユノはどんな顔をしていても可愛いが、その顔は美人が台無しになってるぞ」


 そう言うと少しだけ笑い、一緒にガンを飛ばしてくれるレン王子。

 

「ほんと清々しいぐらいにレン王子以外はみんなクソ王子ね…。でも、おかげで腹が決まったわ」


 わたしは少し離れた場所にいるクソ王子たちがいるほうに向けて、スッと右手を前に出し伸ばした。そして照準を合わせるように片目をつむった。長い黒髪が風でふわりと巻き上がりはためく。わたしが攻撃魔法をぶっ放すと思ったのか、それを見たレン王子とアメリがギョッとした顔になる。


「今はお控えくださいユノ様!、さすがに庇いきれませんわ、レン王子もろとも捕まります」

「ユノ…取り合えず落ち着こう!」


 アメリが必至な顔で止めてくる。レン王子も心配そうにわたしを見て、アメリの言葉にコクコクと頷いている。二人とも失礼ね、いくら考え無しのわたしでもいきなりぶっ放したりしないわよ、我慢できるわよ多分…。


「ねぇアメリ、『今は』ってことは、あのクソ王子たちに攻撃魔法をぶっ放す機会が、今後あるのね?」

「ええ、王位ランク戦の公式の場でしたら」


 気になる言葉に、わたしはアメリに訊ねた。返答を聞いて、ようやくわたしは右手を下ろした。


「決めた!、全力でレン王子を幸せにする!王子を必ず成り上がらせてみせるわ!」


 これが私にできるレン王子への恩返しよ。王子を幸せにすることで恩を返していこう!、とそう心に強く誓い、この日わたしは自重を捨てた。


「今に見てろよクソ王子ども!後で吠え面かくなよ。次に会ったときは、もう我慢しない!自重なんかしない!、二度とレン王子を傷つけさせるもんか!」


 その様子を忌々しそうに遠くから見ている第二王子。獲物をロックオンしたように食い入るように見つめる瞳、形のいい唇がにやりと弧を描いた。

 だがこの時、エキサイトしていたわたしは勿論、レン王子もその視線にまったく気づいていなかった。

お読みいただきありがとうございます。

感想、ブクマ、評価をありがとうございました~(*´ω`*)。


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