閑話 第一王子は今日も眠れない
私はこの国の第一王子のハルト・ライゼバルトだ。誰もが羨む美貌と高い魔力量を誇り、次期国王に最も近いと自負している
長身で精悍な体つき、整った顔に金髪に翡翠の瞳。この私に見つめられて、ときめかない女性はいない。これまでも選り取りみどり食べ放題だった。もちろん、聖女アイカも私にゾッコンだ
なのに…あの女、聖女ユノだけが違った
地下牢までわざわざ会いに行ってやったのに、私にまるで興味がないような態度を取ったのだ。
しかも、会いに行った私の顔を見た、開口一番がアレだ。
「ご飯じゃない…」そう呟くと、この私を見てがっかりした顔をしたのだ。
なぜ私を見てがっかりするのだ!?世の女性たちは私を見て、頬を染めるというのに!反応がおかしいだろ!
しかも、この私が側室にしてやると誘っても、まったく喜んだ様子がない。それどころか話すら聞いていない様子だった。それでいて、弟の第三王子のことばかり心配していた。
あの無能で醜い弟の第三王子に、私は劣るところなど一つもない!
これは余談だが、『無能豚王子』のあだ名は私が考えたのだ。私のナイスなネーミングセンスを皆が使うようになり、瞬く間に広がっていった。フッ、私は何をやっても優秀なのだ。
なのに、この私を無視する聖女ユノに段々と腹が立ってきた。私はなんとかあの女の視界に入ろうと、腕を掴み、もう片方の手で顎を掴み上に持ち上げた。すると、怒りを含んだ濡れ羽色の美しい瞳が、ようやく私のほうを向いた。顔が近くなり、ピンク色の唇がすぐ目の前にあった。
私はその唇に吸い寄せられるように、顔を近づけた。と、その時だった。背後から私を咎める、生意気な弟の第三王子の声が聞こえてきた。しかも牢の中まで入ってきて、私の手を払いのけたのだ。
いつも下を向いてふるふると震えていた無能豚王子のくせに、生意気な!
弟の第三王子の態度に腹が立った私は、咄嗟に腰にある剣の柄に手をかけた。そして、見てしまったのだ。
「レン王子!」と花がほころぶように美しい笑顔になるあの女を…。私はその綺麗な笑顔に釘付けになった。心臓を掴まれたように、息もできなくなり、固まった。
私には残念な者を見るような、まるで汚物でも見るような視線しか向けてこない女が、醜い弟の第三王子には微笑みかけている。そして何やら楽しそうに二人で話しだした。
なぜだ?なぜ、私にはその笑顔を向けてくれないのだ?、私は物凄いショックを受けた。顔を見ればいつも弟の第三王子を虐めてやるのだが、今日はもう何もする気になれなかった…。あの女、聖女ユノが他の男に笑いかけるのを、これ以上見ていたくなかった…。私は舌打ちすると、牢屋から逃げるように足早に飛び出した。
「はぁ…眠れない…、一体どうしたと言うのだ私は!」
寝室の豪華なベットの上で、私はゴロゴロと寝がえりを打った。目を閉じると、聖女ユノの顔が浮かんでくる。それは寝ても覚めても消えることがなかった。
「…もしかして、聖女召喚の日に、私が聖女アイカを最初に選んでしまったことに腹を立てているのか? だから、この私につれない態度を取っていたのか?」
私はふと考えられる可能性を口に出した。
そもそも痩せたのは食事制限をした私のおかげではないのか? 感謝されることはあっても、恨まれることはないはずだ。そう、私はいつも正しいのだ!
「そうだ!教育係を取り上げたように、何か理由をつけて、聖女ユノもあの弟の第三王子から取り上げてやろう!」
私は嬉々としてベットから飛び起きると、ルンルン気分で計画を練り始めた。
「第一王子」の閑話になります。閑話まで読んでくださりありがとうございます。
次話からは、また本編になります。
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