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01望まない異世界召喚とハズレ聖女の烙印

「わたしたちの国、日本では、だらしなく太ってブサイクな女をデブスって言うんですよ王子」


可憐な美少女がわたしのほうを見てクスッと笑った。

その顔には明らかに悪意が浮かんでいる。


 庇護欲をそそる愛らしい顔に大きなダークブラウンの瞳。ピンクアッシュに染められた髪は肩上の長さで緩いウェーブがかかっていて、小柄な体に白いセーラー服がよく似合っていた。美少女は細い指で王子の服の端をつかむと、しなだれかかるように第一王子にくっついた。


 聖女に相応しいのはこういう美少女よね、うん、デブでブスな私じゃない。


 デブスの説明よりも、ここがどこで、どうして私がこんな場所に無理矢理に召喚されたのかを説明して欲しい。そんなことを思いながら、わたしは目の前で繰り広げられている光景をただぼんやりと見ていた。



◇◇◇



 わたし、東雲ゆの21歳がこの国に、いやこの異世界に召喚されたのは数十分前のことだ


 駅のトイレの個室を出ると、目の前にある手洗い場はメイク直しをしている制服姿の女子高生の二人に占領されていた。


 手だけ洗いたいんだけどなぁ・・・


 時間には余裕をもって家を出たが、今日は待ちに待った教師デビューの日!、学校には早めに到着しておきたい。

 そう思った直後のことだった。突然トイレの床に魔法陣が現れ激しい光を放った。眩しさに目を開けていられずに閉じ、再び開いたときにはもう、この王宮のような煌びやかな場所に立っていた。



◇◇◇



「なんと!三人もの聖女召喚に成功するとは!」


 中世ヨーロッパ風の豪華絢爛な王宮。その広間では王族風の衣装をきた人々の歓声で沸き立っていた。広間の中央の床には、召喚の魔法陣がまだ淡く光っていて、そこにわたしと美少女たちは立っていた。


「異世界召喚!王子ハーレムキター!」

「トラ転じゃないから召喚だよね!」


 呆然とするわたしの隣で、制服姿の女子高生の美少女が、手を取り合って楽しそうに盛り上がっている。どうやら魔法陣が床で光ったときにトイレにいた、美少女たちと私の三人が召喚されてしまったらしい。


 アッシュピンクの髪色をした美少女は白のセーラー服を着ていた。あれはお嬢様学校で有名な聖華女子学院の制服だ。もう一人の美少女は特徴のあるエンブレムが付いたブレザーを着ている。あの制服は確か桜帝高校の制服だな


 そして、落ち着いた色のリクルートスーツに眼鏡。腰まである少し癖のある長い黒髪を後ろで一つに結んでいるデブでブスな女性、それがわたし、東雲ゆのだ。


「でかしたぞ枢機卿!。して何の力をもった聖女なのだ?治癒か浄化か豊穣か?」

「しばしお待ちください国王陛下、すぐに鑑定致します」


 煌びやかな広間の前方にある数段高くなっている玉座から、王が身を乗り出すようにして声をかけた。


 王は豪奢な金髪に緑の瞳を持ったイケオジだった。オジサンでこれだけ美形なら、若い時はさぞかしイケメンだったのだろう。その隣には、銀髪に青の瞳の王妃らしき品のある美しい女性がいて、王を諫めるように何かを耳元にささやいていた。


 玉座がある場所の階段下には、4人の王子らしき人達がいた。成人していそうな美形で長身の王子が二人と、まだ幼い少年の王子が二人。

 少年の王子たちの一人は、丸くてぽっちゃりしていて、なんだか親近感がわいた。 


 王子様らしきキラキラした人にエスコートされ、何やら楽しそうに頬を染めて話しながら、王の前へと連れて行かれる美少女たち。

 枢機卿と呼ばれたおじさんは一言二言、美少女たちに説明すると、水晶と宝石が付いた高そうなサークレットを順番に額につけていく。

 額に当てた瞬間、サークレットは眩い光を放った。どうやらサークレットが鑑定の道具らしい。


「国王陛下!、それぞれの聖女様に治癒と浄化の能力がありました!」


 枢機卿が誇らしげな顔で報告する。


「国王陛下、佐藤まゆりと申します。わたしには浄化の能力がありました」


 ブレザータイプの制服を着た女子高生が、胸に手を当て、物怖じしない態度でそう言った。


「田中愛花と申します。わたしには聖女の治癒能力があったので、きっとこの国のお役に立てると思います」


 田中愛花と名乗った美少女は、白のセーラー服の裾を優雅な仕草でつまむと、とても綺麗なカーテシーを披露した。可憐な笑顔で微笑む美少女聖女たちの登場に、王宮の広間にいた人々は歓声をあげた。

 愛花と名乗った美少女は、エスコートしてくれた第一王子を見つめると、微笑み視線を絡めた。すると、可憐な可愛さに悩殺されたのか、第一王子は頬を染め口元を押さえた。


 人々が前方に注目している間に、わたしはそろりそろりと移動していた。魔法陣のある召喚された広間の中央から、端のほうへと。


「私は国王のカイゼル・ライゼバルトだ。我がライゼバルト国では代々、異世界から召喚した聖女を王の妃にしている。聖女アイカに、聖女マユリ、そなたたちにはぜひ王子の婚約者となり、共にこの国を繁栄させていってほしい」


「大変光栄に存じます」


 王の言葉に丁寧に頭をさげる聖女アイカと聖女マユリ。すると、一人の王子が聖女マユリの前へと進み出た。

 

「私は第二王子のキョウ・ライゼバルトと申します。王国騎士団長をしており、魔物と日夜戦っています。聖女マユリ様の浄化の力をぜひ貸て頂きたいのです。どうぞ私の婚約者になってください」


 優雅な仕草で跪き、聖女マユリの手に口付けをする第二王子。銀髪に深い青の瞳、よく鍛えられた長身の体に、知的そうだがどこか影のある美形だ。


 まゆりと名乗った美少女は、顔を真っ赤に染めて、きゅんきゅんした表情で、こくこくと頷いた。


「そうだな、第二王子の婚約者には、浄化の聖女のほうがよかろう」


 そう頷いて、了承する国王陛下。


 そんなカップリングが行われている間、私はというと、後ろのほうへ隅のほうへとジリジリと移動していた。

「わたしは空気、誰も私に気づかないで・・・」そう心の中で呟きながら。

 あと少し、もう少しで柱の陰に隠れられる、そう思った次の瞬間。枢機卿がとんでもないことを言い出した。


「では後は年齢順に、一番年齢の高そうなあちらの聖女様を、第一王子の婚約者に。聖女アイカ様を第四王子の婚約者ではいかがでしょうか?」


 枢機卿が手が、わたしのほうを示したせいで、みんなが一斉にわたしのほうに振り向いた。シーンと静まり返り微妙な雰囲気になる広間。

 わたしは居たたまれない気持ちでいっぱいになり、だらだらと脂汗をかいた。


「冗談じゃない!この私に、この醜くくてデブな女を妃にしろというのか!。私はこの国の第一王子なんだぞ!」


 第一王子の怒りに満ちた声が沈黙を破った。


「この国に代々伝わる聖女しか通れない魔法陣で聖女召喚されたのです、デブでブスでも聖女様に間違いありません。すごい力をお持ちかもしれませんし・・・」


 激おこぷんぷんしてる第一王子をなだめるように声をかける枢機卿。


 枢機卿というぐらいだから、このおじさんは教会関係者なんだろうか?


 枢機卿は、緋色の聖職者服を身にまとった恰幅のいいおじさんだ。デブにデブと言われると、なんか微妙な気持ちになる・・・。


 枢機卿はくるりと私のほうを振り返えると、声をかけた。


「そういえば聖女検証がまだでしたね、三人目の聖・・・」


 わたしの顔をマジマジとみた枢機卿は、「聖女様」と言おうとして、笑いをこらえきれなくてブフゥー!と盛大に吹いた。


 その光景を見ていた王宮の広間にいた貴族らしい人々から、失笑が次々と巻き起こった。

枢機卿は咳払いを一つすると気を取り直し、わたしに名前を尋ねた。サークレットを私の額にはめようとする枢機卿。


「さぁ検証を致しましょう、聖じょ・・・」


 聖女様と言おうとして、言葉を詰まらせる。また盛大に吹くのかと思ったら、枢機卿が困惑した声をあげた。


「・・・国王陛下、聖女検証の魔道具のサークレットが、額にはまりません・・・」


 王宮の広間に、どっと大爆笑が巻き起こった。


「なら、水晶部分を押し当ててみてはどうだ?」


 腹を抱えて苦しそうに笑いながら答える王。


 逃亡に失敗したわたしは、すっかり注目の的になってしまっていた。まるで珍獣でも眺めるかのような不躾な視線と嘲笑の的に。


 ・・・ああ、こうなる前に、目立つ場所からこっそりと逃げ出そうとしたのに。


 枢機卿の手で、ゴツンと勢いよく額にサークレットの水晶部分をぶつけられ、地味に痛い。ゴツゴツと何度か額に打ち付けられる水晶。だが水晶が光ることはなかった。


「聖女ユノ・シノノメ様には、治癒・浄化・豊穣、歴代の聖女様方がお持ちのような能力が、何もありません・・・」


 枢機卿は申し訳なさそうな表情になり、王に報告した。


 そんなわたしのほうを見て、聖女アイカと聖女マユリは何か二人でコソコソと密談し、悪意のある表情を浮かべクスクス笑っている。


 聖女アイカは物凄い形相で一瞬わたしを睨むと、次の瞬間には可憐な笑顔を浮かべ、こう言い放った。


「私たちの国、日本では、だらしなく太ってブサイクな女を「デブス」って言うんですよハルト王子」


「なるほど、アイカは物知りだな」


 頷いている第一王子のハルト王子。


 …え!?、このタイミングでその日本語の説明いるの?。


「ほぉ~デブス」って何で、枢機卿や貴族っぽい人たちみんなで複唱してんのよ!。


「さっきからデブスが凄い形相で睨んできて怖いです~ハルト王子」


 聖女アイカは細い指で王子の服の端をつかむと、まるで虐められたヒロインのように瞳を潤ませ悲しげな顔をした。


 え!?睨んでないよわたし!、顔芸かよ!ってぐらいものすっごい形相で睨んだのはそっちじゃない。


 でも王子と話すときは可憐な顔にパッと戻るから、誰も聖女アイカの醜悪な顔には気づいていなかったようだ。


「安心しろ聖女アイカ、アイカは私が守るから」

「ハルト王子・・・」


 第一王子はそういうと、聖女アイカを自分のほうへ抱き寄せた。


 日本にいたときも、ブサイクというだけで悪意を向けてくる人達がいた。彼らに迷惑をかけたわけでも、何か酷いことをしたわけでもない。ただひっそりと隅っこで息をしているだけでも、彼らの攻撃対象にされてしまうのだ。


「あ~、この子たちは『仲良くできないほうの女子』だな~」って、この瞬間ピンときた。

なんだか嫌な予感がビンビンする。これはヤバイ流れだ・・・


「デブスな上に聖女の能力が無いとはとんだハズレ聖女だな!。私は聖女アイカを婚約者とする!、お前のようなデブスはお断りだ!」


 あっ、さっそくデブスって使ってるよ第一王子


 聖女の力がないとか、デブでブスだとか論点そこじゃないでしょ!。駄目だわ、もうこれ以上黙っていられない・・・。


 「聖女じゃなくて結構!婚約も結構です。本人の意思を無視した召喚は誘拐ですよね?今すぐ元の場所に帰してください」


 わたしは顔を上げ、毅然とした態度で言い返した。


「聖女召喚は一方通行の魔法、還す方法はない」


 ハズレ聖女にすっかり興味を無くした様子の王は、わたしを見もせずに短く答えた。そして、「こちらの都合でこの世界に呼んだのだ、一応、王宮内に保護しておけ」と、わたしの処遇を家臣に丸投げポイした。


 嘲りと嘲笑の中、わたしは両足に力を入れて踏ん張り、毅然として顔を上げ立っていた。

下を向いたら泣きそうだったのもあるが、「悔しいから、絶対に俯くもんか!」と思い、キッと顔面に力を入れた。


  ・・・わたしの異世界生活は、丸腰でスタートし、ヤバイ予感しかしなかった。

初投稿です。読んでくださりありがとうございます。

1話めは「プロローグ+1話」なので長め、2話からはもう少し短くなります。

興味を持って頂けたら、評価して頂けると励みになります(*´ω`*)。

よろしくお願いいたします。

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