初項の出会い
彼は月明かりが差す教室で一人手すりの上に座って外を眺めていた。
そんな彼についていこうと思ったわけではなかったが塾の帰りにフラフラと歩いている彼を見て興味を持った。何をしに行くのだろう。そう思いついてきたがまさか行き先が学校だとは思わなかった。それもまた十時半に学校に入るなど人生で最初で最後だろう。
彼に気付かれないようについてきたつもりだったがもしかしたら気付かれているかもしれない。そんな胸躍る状況を楽しんでいる私も心のどこかにいるようだ。
もうかれこれ二十分は手すりに座っている。本当に何をしようとしているのか分からない。
もし自殺を図ろうとして怖気づいてしまっているのなら今のうちに止めなくてはいけない。それはもう学校中で大人気の人間なのだからここで死んでしまっては仕方ない。私の後ろでフクロウが一回鳴いたその時、
はぁ
今一瞬聞こえた溜息。これが気になってしょうがない。本当は何か思い詰めているのだろうか。
そう思った時、私は足を滑らせた。どうにか踏ん張ったつもりだったが足の裏の滑り止めがキュッとなってしまった。
その途端、彼は手すりから足を滑らせ、残った彼の体は腕一本。手すりにぎりぎり残った一本。
早く助けないと。私はそう思い、腕を引っ張る。
彼は「痛い、ちぎれる!」そう言ってもがいている。なんと大げさなのだろう。しかしそんな時間も少し楽しかった。そして彼のもう一本の手を引いた。
かなり痛そうだったが何とか引っ張り上げることに成功した。大物だ。
息を切らす二人の吐息だけが教室中に響いている。
彼の方が先に落ち着いたようだ。「どうしてここに?」
質問の主が間違っているようで本当はこっちが聞きたい。おうむ返しに「どうしてこんなところにいるの?もう暗いのに」と、私は訊いてみた。
彼が答える前に私はあの溜息を思い出し、言ってしまった。
「自殺なんて駄目だよ、こんなに長い命があるんだから」
私はこのフレーズの「こんなに長い」という部分を精一杯体を使って表している。
そして私はニコッと笑い彼を見ると目を丸くしている。
「自殺って何の話?長い命があるのは知っているけど」
私はその言葉に耳を疑った。
「あの時の、あの溜息は何だったの」
「たぶんその溜息っていうのはあくびの事じゃないかな」
確かにあの溜息を聞いた時、少し彼から目を話していた気がする。何も根拠なく話を作ってしまい危うく殺してしまうところだった。そんな自分が嫌になる。
「じゃあ何でこんなところにいるの?」
彼はゆっくりと私にここにいる理由を話し始めた。