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愛で満ちたこの世界  作者: ニャンボ
3/3

形作るもの

今回は思春期の女の子のお話。

何をやってもつまらない。

そんな人生に何を求めればいいのかわからなくなる。

それに対する年長者のおじいさんはどう思っているのかみたいな話です。

 あーくっだらねぇ。

 なんでアタシが昔の事なんか覚えにゃならんのだ。

 歴史なんてクッソつまんねぇ。

 教師はまるで教える気のないようにボソボソボソボソ独り言呟いてるだけだし、生徒の大半は寝てるし。

 この時間ってなんか意味あんの?

 時間だけが無意味に進んでゆくこの感じ、アタシはとても不快だ。

 もっと有意義に使えないものか……

「先生ー」

「どうしました?」

「体調が悪いので保健室行ってきていいですか?」

「わかりました。じゃあ保健係の方は付き添いをーー」

「あっ1人で大丈夫ですー」

 それから私は廊下を歩いて保健室へ向かう、のではなく校門の方へと向かった。

 やったぞ。退屈な授業をバックレてやった。

 さて、これからどうしたものか。

 いつもつるむ奴らは学校だしなぁ。

 アタシ1人だとこれといってすることがない……


 つまんないな……なんでこんなにつまんないんだろ。

 昔はもっと全部が新しくて、楽しくて、キラキラしてたような。

 まあほとんどのことは覚えてないんだけども……

 でもそんな新しさとかを求めて周りの友達に合わせて髪とかも染めたりピアスも開けたけど、なんだろうねこの満たされない感じは。

 どんどん奇抜になってく私の容姿を、父が母の育て方のせいにした。

 そしたら母はもうカンカンに怒っちゃって、父もそれに応えてで夫婦仲は最悪になった。

 もうすぐしたら離婚するんじゃないかなぁ、他の友達の家も離婚だ離婚だとか騒いでてヤバいみたいだし。

 離婚したらアタシはどっちの方に付いていけばいいんだろ。

 結局、時間が経ったら元の形には戻らない。 


 こういう憂さ晴らしには散歩もいいものだなって思う。

 考えてうちにバカらしくなって考えるのをやめられるから。

 そうこうしてるうちに()っきな交差点に出た。

 横断歩道を渡る途中でふと思った。

 このままずっと立ってればアタシはどうなるだろ。

 車に引かれたら死ぬかな。

 死んだら親は悲しむかな。

 2人は仲直りできるかな。

 なーんてね、こんなところでアタシも死にたくはございません。

 学校に引き返そうとした時、ジーさんが重そうな荷物を抱えてゆっくりと横断歩道を渡っていた。

 おいおい、もう信号点滅してんぞ、何チンタラしてんだよジーさん。

 私はおじいさんの荷物をなかば取り上げる勢いで掴んだ。

「おい、ジーさん。もう信号変わんだよ。アタシが荷物持ったげるから早く渡りな」

「おお、ありがとうねぇ」

 む、この荷物結構重いな。ジーさんこれ持って帰れんのかな。

「なあジーさん。荷物家まで持ってってやろうか?」

 サボったきり特にやることもなかったアタシはこんなことを口にしていた。

「そうかい。こりゃどうもご親切に」

 

 荷物とジーさんを家に送って学校に戻ろうとした時、ちょいちょいとこづかれた。

「お嬢ちゃん、よかったらお茶でもどうだい?」

「いいよそんなの」

「まあまあ人助けの礼じゃよ。モナカもあるぞ」

「そんじゃしゃーねぇなぁ。ちょっとお邪魔するよ」

 ……何を隠そうアタシはモナカが大好きなのです。


 和を重んじたこの家はすごく落ち着いた雰囲気でとても居心地がよかった。

 質素な配色が多く、奥からは香の匂いがする。

「縁側に座ってなさい」

 縁側へと向かう途中、仏壇が見えた。

 写真に写ってるのは多分ジーさんの奥さんだろう。

 優しそうに微笑んでいた。

「はい、お茶とモナカ」

 ジーさんが私の横にそっと盆を置いた。

「どうも」

「今日はいい天気じゃ」

 前に大きな建物が無いから空がよく見える。この人の言うとおり、澄み渡った綺麗な青空だ。

 庭もよく整えられていて荒れ果てている様子はない。

 この人が毎日手入れをしているのだろう。

 1人でこの家に住んでるんだ。

「なあ、ジーさん。仏壇の写真って」

「うちの家内じゃよ。もう随分昔に死んでのう。ワシもあんまり覚えとらん」

「寂しくはないの?」

「そうじゃなぁ、寂しいは寂しいがもうワシも長くないじゃろうし。最近は夢枕に黒い(もや)が見えるようになってのう。ああもうすぐじゃろうなって」

 こんな大きな家でずっと1人。それって楽しいんだろうか。

「ねえジーさん。ジーさんはさ、今生きてて楽しい?」

「楽しいよ。ワシが今こうしてひ孫くらいの年の子と喋るのはとても楽しい」

「いいなぁ。アタシは最近生きてても楽しく思えなくなっちゃった」

「そうかいそうかい」

「両親が不仲でさ。それも理由はアタシのせい。どうしたらいいんだろうね、死んだらどうにかなるかな。なんだかつまんないよ生きてるのも」

「そうかね、ワシにはどうも君が死にたいようには見えんのぉ。だって君の周りには黒い(もや)が見えない」

「そんなのジーさんがボケてるだけだろ」

「そうかもしれんのぉ」

 ジーさんはホホホと笑う。

「命の使い方はたしかに君次第じゃ。好きに生きて好きに死んだらよい。でもね、今の君を形作(かたちづく)っているのは他の色々な人達によるものなんじゃよ」

 

 香が鼻にツンとくるからアタシは盆にあったモナカにかぶりついた。

「君のことを思ってくれる人がたくさんいる。そう考えると生きてるのも悪くないと思えるじゃろ?」

 不思議なことにモナカの味が感じられない。

 でも甘いってことだけはわかる。

 うん、悪くはない。もう少しだけこの感じを味わっていたい。


 もうすぐ授業が終わってしまう。

 サボったのがバレる前に帰らなくちゃ。

「ジーさん、ありがとう。アタシはもう学校に戻るよ」

「そうかい。気をつけて帰りなさい」

 ジーさんは玄関でモナカをもう1つくれた。

 帰ってからの楽しみが1つ増えたわけだ。

「お嬢ちゃん、長生きしなさい」

「あんたもな、ジーさん」


 ……そうだな。

 まずは帰ったらただいまって母にちゃんと言おう。

 それから父が帰ったらおかえりって言ってあげよう。

 そしたらちょっとは(うち)の雰囲気もあのジーさん()みたいになるかもしれないし。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ジーさんの荷物を持ってあげたこと。 [気になる点] 恋愛物語なのか? どういう話がこのあと続くのか少し不安になった。 [一言] 頑張れば、ストレスを抱えたままじゃ人間は生きていけないから…
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