海浜公園での出来事
最近は物騒なニュースが多いから、海でも眺めて落ち着こうと思って。その時書いた物語です。
逢魔が時、陽の光が山の陰に隠れそうな時間帯に僕は波打ち際にいた。
その時に起こった不思議な話でもしようかと思う。
その日の朝、何を思ったのか衝動的に海に行きたいと思い至った。
何故かと言われればこれが理由になるかわからないが、今朝たまたまニュースで流れていた事件が陰惨だったからかもしれない。
ただ少し幻想的な雰囲気にのまれたいなと思い、それなら夕暮れ時の海がいいと結論づけただけだ。
家から電車で一時間半。海を見るためだけに往復三時間も使うことに特別ためらいはなかった。
最寄りの駅に着いた頃には既に陽は傾き始めていて、僕もちょうどいい頃合いだななんて気をよくしていた。
九月に入ったからか時間帯のせいか砂浜には予想していたよりも人は多くなかった。
夏に賑わう海浜公園って見出しが駅のパンフレットにあったが、少し誇張しすぎだな。麦わら帽子の少女のイラストが印象的だったのを覚えてるけど。
まあ僕にはこれくらいの静かさが心地よかったわけだが。
適当に海岸沿いをぶらぶらと歩いていると色々な人を目にした。
ランニングしている人やビーチバレーをしている人、海のゴミで楽器を作ってる人なんかも見かけた。
そんな人達を見ながら僕は、水平線が遠くにあるなぁとか同じ青色でも海と空は全然違う色をしてるなぁとかあたりさわりもないことを考えていた。
でもやっぱり、これはどこの海でも目につくんだろうけど、ゴミが多いなぁと思った。
で、まあ色んな人がいるよなぁなんてふけりながら波の押したり引いたりするのをずっと眺めてたんだけどここからが不思議な話になるわけで……
波打ち際で座っていると僕の隣に同じように体育座りをしている女の子がいた。いや、ふっと現れたという方が正しいかもしれない。
中学生くらいの子だと思うんだけど、体格が小さいからなのかかなり幼く見える子で、薄いピンクのワンピースがとても似合ってて。でも顔は逆光でよく見えなくて。
麦わら帽子をかぶってればそれこそパンフレットで見たイラストの女の子みたいな姿を思わせる。
その女の子は僕の隣に座るだけで何も言わないもんだから俺にしか見えない幽霊なのではと少し怖くなった。
お互い無言のまま時間が経っていたのだが、その女の子が突然喋りだした。
「この海は好き?」
「えっと……綺麗だと思うよ。透き通ってるし」
「私もそう思う! この海が好きだから!」
「でも海岸のゴミはどうにかならないかなとも思うよ。これじゃせっかくの海が台無しだ」
「……そっか。いっぱいゴミがあるもんね。海は綺麗なのにね。悲しいね」
そう言って女の子は立ち上がって足早に駆けていった。
西陽の逆光で目が開けられなくて瞬きをした時にはもう少女の姿はなかった。
歩いてきた海岸を戻っている時、さっきまで海で遊んでいた人達であろうか。その人達が自分達の出したゴミ以外もせっせと片付けていた。
うん、やっぱり色んな人がいるんだなぁ。
今度もしあの少女に出会えたら僕はこの海が大好きだと言ってあげよう。
そしたらきっと、あの子のめいいっぱいの笑顔が見れると思うから。