めでたしめでたし
この日も選定所内では慌しい日常が送られていた。
ザキルの自席に訪れたカレンだったが、そこにザキルの姿は無かった。
「あれ?ザキルさんは?」
その頃ザキルはとある墓地に来ていた。
片手に花束を携え目的の墓石を視界に捉えると、そこにはゲンリュウの姿があった。
「よぉ」
「!」
ゲンリュウは声の主がザキルであることをに気付いたが、振り向くことはなく墓石に向かって手を合わせたまま小さく呟く。
「…何じゃ?」
「大勢がアンタに感謝してるぜ。嫁も天国で鼻が高ぇだろ」
ザキルは持ってきた花をそっと墓石の前に置く。
「ワシャお前等の作った世界を認めた訳じゃないからの」
「わーってらぁ」
そう言い残したザキルは向かい風を浴びながら墓地を去って行った。
ゲンリュウは再び目を閉じ安らかに眠る最愛の妻に心から語りかけ続けるのだった。
選定所に戻ったザキルは背後から声を掛けられた。
「ザキル」
「あぁ?」
振り返るとそこには先輩職員ミラージュの姿があった。
「お疲れ。今回はお手柄だったみたいだな。やっぱりお前の裏人脈は役に立つ」
「ふん。アウトロの野郎がお前に会いたがってたぜ」
「あー。あの赤スーツのお喋りか?悪いが軽い男は好みじゃなくてね」
「っは。どこに行ってもフられっぱなしだな、あの野郎は」
勝利の余韻を味わうかの様な誇らしい笑みを見せながら2人は選定所の廊下を歩いて行く。
「今回の一件で随分と選定所の株は上がったよ。所内でもお前達の噂で持ち切りだ」
「上の連中に言っとけ。さっさと俺を上に上げろってな」
「だいぶポイントは稼いだんじゃないか?カレンちゃんと2人、天使と悪魔のカップルってな」
「ほざけ。今回のヤマは俺1人の力だろうが」
「そうか?カレンちゃんの必死の説得も大いに役立ったと思うぞ。いくら敵討ちが出来るからってゲンリュウのジイさんが選定所と制度を恨んでる事に変わりは無かったからな。あの子がジイさんの重たーい心の扉をほんの少し開いたって下地があってこその成功だと思うけどな」
「っけ。言ってろ」
するとザキルは思い出したかの様にミラージュに問い掛けた。
「そろそろ教えろ」
「ん?何がだ?」
「あの小娘を俺の下に付けた理由だ。何かハラがあったんだろうが?」
ミラージュ自身も思い出した様な表情を見せ顎に手を当てた。
「んー?あーそういえばそんなこと言ったな。いやいや、あんなの話の流れだろ。特に深い理由はないよ」
「はぁ?な、何だとテメェ」
「怒るな怒るな。別にやらなきゃいけないことは変わりないんだから。男がそんな細かいこと気にするなっての」
「っこ、この女ぁ…」
ミラージュは言葉軽くそんな言い草を見せたが、ひとつ落ち着いた声で続けた。
「まぁ。しいて言うならお前達を信じてたから、かな」
「あぁ?何だと?」
「そのままだよ。あとは女の勘ってやつかな。この世でこれ以上に鋭いものはないからな」
「女男の分際でほざいてんじゃねぇ」
”ドッゴォ”
「ぐげぇぇ!!!」
瞬時にミラージュ渾身の蹴りがザキルのどてっ腹に食い込んだ。
嗚咽を吐きながらその場で悶え苦しむザキル。
「ったくどいつもこいつも」
憤慨気にそう漏らしミラージュはすたすたと選定所の廊下を歩き去って行った。
ザキルが何とか立ち上がると、今度はそこにカレンが姿を現した。
「あ!ザキルさん!…どうしたんですか?何か顔色が悪いですよ?」
「うっ、うるせぇ。何でもねぇ」
「そ、そうですか?」
「…何か用か?」
「あ、いえ。書類もある程度落ち着いたし、そろそろ外回りに行ってこようかなと思って。最近あの件でずっと行けてなかったので」
「相変わらず張り切りやがるな」
「勿論です!私達が頑張っていい世界にしないと!」
「またぶっ倒れても知らねぇぞ」
「えっへへ。その時はまた助けて下さいね」
「ほざけ」
あどけないカレンの笑顔、呆れ顔のザキル。
するとカレンもまた何かを思い出しその内容をザキルに告げる。
「そういえば!あの女の子、退院して少しずつ元気になってるそうですよ!トクシュウが収監されてる間に家族でどこか遠くに引っ越してゆっくりリハビリしていくそうです」
「…そうか」
「私達が出来る事って本当にコツコツしたものばっかりですけど、一緒に頑張っていい世界にしましょうね!」
「ほぉ。新人の分際で俺に説教しやがるのか?えぇ?」
「違いますよー。そんなんじゃないですってー。あ、そうだ!ザキルさん、これ!」
「あぁ?」
カレンはカバンの中からある物を取り出しザキルに手渡した。
それは1枚のDVDだったが、そのパッケージは明らかにピンクを基調とした艶めかしいものだった。
「なっ!!?」
「それ、私の自信作です!今夜辺り見て下さいね!」
それはカレンがセクシー女優として出演したDVD作品だった。
カレンのあられもない姿と表情が克明に映されたパッケージを見てザキルはこの日1番の怒声を放つ。
「ばっかやろぉぉお!!!いるかこんなもんーーー!!!」
「きゃははは~。それじゃ行ってきます~!」
イタズラな笑顔を見せ選定所を去って行くカレン。
この日も独立行政法人人物価値選定所は真の世の中を実現するため忙しなく動き続けるのだった。
あ、番外編が続きます(ちょと長いですw)




