人の命も点数次第
同じ日の夜、ザキルはロベリが経営する地下のカウンタバーに再び姿を見せた。
店の扉を開けるとそこには先客である男がカウンター席に身を乗り出しロベリと楽しそうに話す姿、その男は真紅のスーツを身に纏っている。
「ほらぁ~、女てのぁ危険な匂いのする男に惹かれるもんなんだろぉ?俺様ってば裏世界じゃ結構ブイブイ言わせてるのよぉ~」
「悪いけど、私より酒の弱い男には興味ないんだ。どうしてもって言うなら店中の酒飲み干せる様になってから出直しな」
アウトロがロベリを口説いている最中、ザキルは後方からゆっくりと近寄る。
「よぉ。いらっしゃい」
「ザキル!何だよまた会ったな!悪いけど今しがたロベリちゃんは俺様のモノになったところだよ~。一足遅かったな」
「酒瓶2本も空けられねぇ腑抜けがほざいてんじゃねぇ」
「なっ、き、聞いてたのかよ…」
ザキルはアウトロが座るの隣の席に腰を下ろしゴッドファーザーを注文した。
ロベリが酒を作っている最中、アウトロは饒舌にザキルに話し掛ける。
「で?どんな調子だ?例のネタは役に立ったか?」
「いいや。テメェの言った”ちっとばかしの壁”ってやつが分厚くてな」
「そうか。そういえばカレンちゃんはどんな様子だ?」
「へばった。今入院してる」
「何だと?マジか?お前がしごき過ぎたんじゃねぇのか?それともお前の悪人顔がストレスになっちまったとか?」
「あぁ?」
「ははは、こう見えてもザキルは女には優しいんだ。可能性があるとしたら後者だな」
グラスを差し出すと同時にロベリが茶々を入れる。
「っち。どいつもこいつも」
「お前もストレス溜まってんなぁ。たまには息抜きしろよ?下の方もちゃんと抜いてんのか?何ならいい店紹介しようか?」
「黙れ」
ザキルは出されたカクテルを一気に飲み干した。
その様子にザキルの行き詰まり具合を垣間見るアウトロ。
「しかしまぁ何だな。皮肉な世の中になっちまったもんだよなぁ。点数低いと病院でたらい回しまでされちまうとはなぁ。人の命も点数次第ってか」
「あぁ?喧嘩売ってんのか?」
「怒るなよ。そんな事ばっかりじゃねぇってのは分かってるって。お前らが作った世界に救われた人間だって大勢いるのは知ってるさ」
「ふん」
「そうえばあのロリコン薬ヲタク。やっぱ相当手癖悪いらしいぜ。業界での影響力振りかざして手当たり次第周りの女に手ぇ出してるって噂だ。敵に回せないし抵抗したら干されちまうから殆どは泣き寝入りだとよ」
「…とことん胸糞悪ぃ野郎だ」
「だけどよ、その病院はどの道点数は下がったんだろ?」
「あぁ?何がだ?」
「だってそうだろ?要はその病院の人手不足が原因で患者見殺しにしちまった様なもんじゃねぇか。病院のキャパ考えないでホイホイ患者受け入れた結果がそれだとしたら管理不行き届きってやつだ。点数の高い奴を優先したとはいえ、それはまた別問題じゃないか?」
「…あぁ確かにな。次の査定に響くかはお上が決める事だが、そう下がりはしねぇだろ」
「どうして?」
「あの病院でそんな事例が出たのはその1件だけだ。他は出てねぇ。1人だけなら何とでも言えるだろ。”後回しにはしがた手術は間に合う予定だった。しかし容態が急変した”だの何のってな。事実そうかもしれねぇ」
「んじゃたまたま偶然その奥さんだけが運悪く被害者って?他にもごまんと点数の低い患者はいるだろうに。別にその奥さんが病院内で最下位だったってことでもねぇんだろ?」
「…!」
ザキルの表情は何かの気付きにより固まった様だった。
「確かクリス病院だろ?そもそもそんなに点数の高い人間ばっかり入院してたのか?デカい病院ではあるけど、そこまで腕のいい医者が集まるって話も聞かねぇけどなぁ」
「…」
ザキルは急に黙りこくり何かを考え始めた。
やがてゆっくり立ち上がると、財布から1枚の札をカウンターに置き何も言わずに店を出て行った。
不思議そうに見つめるアウトロ。
「何だ?どうしたんだ?アイツ」
「ふふふ。どうやら何か掴んだみたいだね」
ロベリがザキルの様子を悟った様子を見せると、先程ザキルが飲み干したグラスからはカランと氷が解ける音が鳴り響くのだった。




