少女の健気
翌日のお昼、カレンは再び被害少女が入院している病院に訪れていた。
恐る恐る303の病室を訪れ中を覗き込むカレン。
「こ、こんにちは…」
カレンはベッドに横たわる被害少女、そしてその横に寄り添う母親に声を掛けた。
「何しに来たの!?来るなって言っただろ!」
案の定、母親はカレンの登場を歓迎せず怒りを滲ませた表情で激しく言葉を浴びせる。
「す、す、すみません!わ、私はその、お力になりたくて…」
「ふざけんじゃないよ!お前達のせいであの男は野放し同然!お陰で娘はもう怖くて学校にも行けないじゃないか!」
「さ、裁判所の決定は私達ではどうしようもない部分なので…」
「裁判所が高得点の人間に軽罪言い渡す風習だってお前等が作ったんじゃないか!何もかも、アンタ等のせいだよ!!」
怒涛の剣幕で罵声を浴びせる母親の横で被害少女はただ無表情のまま天井を見つめていた。
そんな姿を見て痛ましい気持ちになるカレン。
するとカレンは一途気持ちを引き締め雄弁に語り始めた。
「こ、今回の事件は本当に残念で、私としても許せない気持ちです!立場上こんなこと言ったらいけないかもしれないんですけど、私個人としては今回の査定結果には納得がいっていません!」
「!」
母親はカレンの口から飛び出た意外な発言に耳を奪われた。
先程までの表情から一変し、カレンの話に耳を傾ける姿勢を見せ始めた。
「…だから何?何しに来た訳?」
「は、はい。トクシュウに対する今回の査定結果は原則覆りません。でも、あの男の点数を下げる事が出来ないのなら、お嬢さんの点数を上げることで事態は動くかもしれないんです!」
「!」
「お嬢さんは心身共に大きな被害を受けました。もしお嬢さんが高得点の人間であるなら、その人間をこんな状態にした罪は重い。点数査定の選定所も見逃せないはずです!」
「…」
母親はカレンの語り口調と真っ直ぐな瞳からカレンに何かしらの下心や裏腹等が無い事を感じ取っていた。
憎むべき相手であるはずのカレンに対し段々と心を開いていく母親。
「…でも、点数上げるって言ったってどうすれば?もう娘の点数はそっちが査定してるんでしょ?」
「他に選定所が見落としてそうな項目はありませんか?何でもいいんです!例えばよくボランティア活動をしてたとか、学校の役員を毎期やったとか。学校の成績や出席率、部活の功績といった常時主な審査対象になってる部分以外を根こそぎかき集めましょう!」
「…」
「そうだ!ご家族の皆様も。自分の家族が傷付けられたことで色んな生活や仕事面で悪影響が出てるはずです。ご家族の皆様の点数も上げることでトクシュウが犯した罪の悪影響度合いをもっと表面化することも出来るはずです!」
「…けど、あの男は特効薬で沢山の命を救ってるんだろ?いち高校生の女の子がそんな奴の査定結果を超えるなんてありえるのかい?」
「別に超えなくてもいいんです。1点でも多く点数を上げて有能だってことをアピールしましょう!学生には学生の基準があります。将来性という要素も大人より伸びしろは大きいので!」
「…」
母親は目を伏せあまり乗り気でない表情を見せた。
その気持ちを悟るカレン。
「…分かってます。正直言って可能性は高くありません。けど、けど、何もしないよりはマシだと思うんです!」
「お姉さん」
「!!」
突然ベッドに横たわる被害少女が小さく呟いた。
カレンと母親は一斉に少女の顔に視線を移す。
「ありがとうございます。気持ちは嬉しいけど、それはしたくありません」
「えぇ!?ど、どうして?」
少女はゆっくりと体を起こした。
その表情はやつれきったものだった。
「だって。アイツがもし刑務所に行ったら、薬を必要としてる人達が死んじゃうんでしょ?」
「そっ、それは…そうだけど」
「その人達は悪くないし、それに、もしそんな事になったら、今度は私が世間の人達から人殺し扱いされるじゃないですか」
「!!」
「キョウコ…」
母親は自身の娘の名前を震える声で呼んだ。
「そうしたら、家族にも迷惑が掛かっちゃうから、だから…このままそっとしておいて下さい。私は大丈夫なので」
「…キョウコ」
母親は娘の体をそっと抱き寄せ力強く抱き締めた。
カレンはどうする事もできない今の状況に気持ちを引き裂かれる思いだった。
やがて深く一礼をし病室を去るカレン。
車に乗り込み暫く呆然とした後、力無く車のエンジンを掛けるのだった。




