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独立行政法人人物価値選定所  作者: レイジー
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神の気まぐれに踊る

 それから約1週間後、選定所内で業務を行うザキルの元に先輩職員のミラージュが現れた。


「ザキル…」

「あぁ?」


 ミラージュは黙って資料を手渡しその場を去って行った。

ザキルは受け取った資料に目を通し始めると次第に眉間にシワを寄せていった。


「っち…」


 大きな舌打ちをひとつ鳴らし立ち上がるとカレンの自席へと向かって行くザキル。


「カレン。行くぞ」

「え!?」


 2人は車に乗り込み何処かへと向かって行った。

車中でとても重苦しい空気が2人を支配していた。

約10分の沈黙が続いた後、カレンが徐に口を開く。


「…結局。何もないんですね」

「結果は3点をマイナスして74点。奴は有能な弁護士団体雇って守りは鉄壁。警察は書類送検が手一杯。娘の親は勝ち目の無い裁判はしない意向だ、元々裕福な家庭でもねぇみてぇだしな」

「…」


 それ以降車中に会話が流れる事はなかった。

やがて目的地に到着した2人は車を降りる。

そこは以前も訪れた拘置所たっだ。

2人がその玄関で待機していると目的の人物が意気揚々と姿を現す。


「おー!これはこれは。いつぞやの選定所のご両人。ご無沙汰してますねぇ~」


 皮肉めいた表情で2人に声を掛けたのは渦中の男トクシュウだった。

先日とは打って変わって高級スーツに身を包み清潔感を取り戻したその姿は水を得た魚の如く生き生きとしていた。

そんなトクシュウに対しザキルは1枚の封筒を差し出す。


「アンタの査定結果だ」


 受け取り中身を確認するトクシュウは査定点数を見るや否や鼻から笑いを漏らし嘲笑うかの様な言葉を放つ。


「あちゃちゃー。74点!せーっかくラッキー7のぞろ目だったのにねぇ~。こりゃ参った参った」


 あからさまに怒りを表情に蔓延させるカレン。

その横でザキルは冷静な口振りでトクシュウを諭す。


「アンタの功績は誰もが認めるところだ。だがな、あんまりヤンチャのし過ぎは身を滅ぼすぜ。気を付けな」


 すると一切の反省を見せないトクシュウはすぐさま言葉を返す。


「おいおいおいおい、な~にを言ってるんだよ?ありとあらゆる要素を天秤に掛けてその人間に点数を付けるって世の中を作ったのはお宅等だろうが!つまりだ、今回の結果だってお宅等が生み出したってことじゃないか!」

「…ッ!」


 声に出せない怒りを喉で押し殺すザキル。


「この前はだいぶうっとおしい取り調べしてくれたと思ったら今度は自分達の功罪を棚に上げてお門違いな説教か?全くお役所ってのは本当いいご身分だねぇ~。あ~、それからそこの君。ずいぶんと僕の回りをうろちょろ聞き回ってたんだって?無駄な努力ご苦労様と言いたいところだけど、税金の無駄遣いは感心出来ないよねぇ~」

「…!!」


 カレンの拳が強く握られる。


「おいおいそう睨むよぉ。別に人殺したって訳じゃないんだからさぁ。ちょっと気持ちに歯止めが利かなくなったってだけじゃないか。恋愛ではよくあることだろ?」

「42のオヤジが16の小娘にお熱たぁいい趣味してんじゃねぇか。ロリコン趣味が査定にどう響いたかは今度確認させてもらうぜ」

「やだねー。本当これだから頭の足りない輩は。愛ってのは年齢とか常識じゃないんだよ。そういう部分を認められないような低俗な人間が選定所の職員だなんて、制度の有効性と採用基準を疑うねぇ」


 腰元で拳を握り締めているのはザキルもまた同じだった。

これ以上は堪忍袋が持たないと感じたザキルは断腸の思いでトクシュウに対し背を向けた。


「おい、行くぞカレン」


 カレンもまた最後の瞬間までトクシュウを睨み付けゆっくりとその背を見せたのだった。

車中に戻った2人が放つ怒りの温度は車中の体感温度を数度上げる程のものだったが、やがてその温度はカレンのひと言により下がる事になる。


「…次が、地獄ですよね…」

「…」


 2人が次に辿り着いたのは被害少女が入院する病院だった。

今回のトクシュウに対する査定結果報告のため病院に訪れていた。

しかし2人がそれを告げるまでもなく連日ニュースで大々的に報道されるトクシュウの釈放映像が選定所の再評価結果を物語っていた。

目的の病室に着き少女の母親と目線が合うと、母親は瞬時に怒りの表情へと切り替わり怒鳴り声を上げた。


「出て行って!2度と来ないで!!」

「!!」


 事件絡みとなったため2人には加害者の簡単な査定結果と理由を通告する義務があったものの、母親は2人の言葉に耳を貸す様子は一切無かった。


「何様のつもりなんだよ!!よくここに来れたもんだね!出て行け!!」


 すると母親は少女の病院食であるお粥の入った茶碗を2人に向かって投げ付けた。

その矛先はカレンに向かいスーツがお粥にまみれてしまった。

カレンを連れその場を後にするザキル。

病院の1階女子トイレである程度の汚れを拭き取ったカレンはザキルと共に再び車に乗り込んだ。


「…何が、正しいんでしょうね?」

「…さぁな」

「今までこういう事ってあったんですか?」

「似たようなヤマはいくつかな」

「その時、ザキルさんはどうやって気持ちの整理とかつけてたんですか?」

「つけちゃいねぇ。ただむしゃくしゃするだけだ。相手が高得点野郎なら恫喝も暴力も分が悪ぃ。そうできりゃ楽なんだがな」

「そうですね。天罰とか、下るといいですね」

「期待しねぇこったな。神の気紛れにゃ踊らされてばっかりだ」


 こうして2人は選定所への道のりを失意のまま走り続けるのだった。

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