勝ち目の無い戦い
突然の8聖人登場から数日が経過していた。
新人職員のカレンは昼休憩を終えるとザキルの自席に現れた。
「ザキルさん。それじゃ私、外回り行って来ます。お車お借りして大丈夫ですか?」
「んん?あぁ。またか?」
「はい。ちょっと色々と」
「行って来い」
「はい。ありがとうございます」
カレンはザキルから車のキーを受け取るとそそくさとフロアを出て行った。
ザキルはそんなカレンに対し少し疑問に思う事があった。
(…あいつ、この前からずっと午後は外回りに行ってやがるな。遅くまで残業もしてやがる。一体何やってんだ?)
気になりつつも自身の仕事を進めていくザキル。
その頃カレンはとある製薬会社に訪れていた。
建物の中に入り数時間が経過すると再び駐車場に戻って来るカレン。
その表情はどこか冴えなかった。
「…よし。次はこの工場に行ってみよう!」
そう言うとカレンは車に乗り再び何処かへと走り去って行った。
それから再び数時間が経過しカレンは選定所内に戻って来た。時刻は夜の19時。
殆どの職員は既に退所し閑散としたフロアでカレンは残っている仕事に手を付け始める。
この日カレンが自宅に帰り着く頃には既に日付を跨いだ時刻となっていた。
翌日、そのまた翌日も似た様なペースで仕事をするカレン。
この日カレンはとあるソフト開発会社に訪れていた。社員らしき男について回り何かを説いたざしている様子のカレン。
「あの、特に問題なかったんでしょうか?何か問題のある行動とか…?」
「だから無いですって。しつこいなぁ」
カレンから何かを聞かれている様子の男はとても迷惑そうな表情を浮かべカレンを振り切る様にして足早に廊下を歩いて行く。
やがてカレンは諦めその場に立ち止まってしまった。
「…はぁ」
落ち込んだ様子のまま駐車場に戻ると、自身が停めた車には意外な人物が寄りかかっていた。
「ザ、ザキルさん!」
「…」
咥えたタバコから煙を流しつつカレンを迎えるザキルは察した様にひと言言い放つ。
「嗅ぎ回ってやがんのか?」
「…」
沈黙にて肯定するカレン。
「あの野郎の点数下げる様な情報集めようってんだろ?ちまちました事しやがるなぁ」
真意を見透かされたカレンは体を90度に折り謝罪を告げる。
「す、す、すみません!!あのっ、本当に本当に意地の悪いことしてて。自分でも最低だなって思うんですけど、でも、でも、やっぱりじっとしてられなくて…」
「あぁ?」
「なんか、これが正しいことなのかどうかは分からないんですけど、でも、やっぱり許せなくて…。もし何か他に見落としている事があればそれも含めてきちんと査定してほしいなって思って、それで…」
「別に詫びるこたぁ無ぇだろ。仕事の一環に変わりは無ぇ。他の仕事に穴開けてるって訳でもねぇしな」
「あ、は…はい」
「で?何か有力なネタでも入ったか?」
「い、いえ。駄目でした。あの男の関係企業とか工場とか色々当たってみたんですけど、何も聞き出せなくて…」
「ほう」
「本当に他は潔白なのか、それともトクシュウの報復を恐れて口を閉ざしてるのかは分からないんですけど」
するとザキルは憂い気に煙を空に向かって吹かしカレンを諭し始める。
「諦めな。今回はお前に勝ち目は無ぇよ」
「で、でも…」
「考えても見ろ。仮に奴が何か裏で黒いしのぎやっててそれを知る人間がいたとしてだ、それをチクる奴なんざぁいる訳ねぇ。それが勇気だろうが道義心だろうがテメェの加点目的だろうが、どの道奴がぶち込まれれば大勢が死ぬ。そんな大量殺人に加担する奴がいると思うか?」
「…」
視線を落とすカレン。
「お前の気持ちは分からんでもねぇが、制度に落とし穴ってのは付き物なんだよ。この制度が国民共のモラルと士気を高めてるのも事実だ」
「そう…ですよね」
カレンは呟く様に返事を返す。
しかしそのトーンは言葉の内容とは裏腹に明らかな不満を宿すものだった。
「まぁ、これ以上止めはしねぇが。好きにしろ」
そう言ってザキルはタバコを地面に投げ捨てその場を去って行った。
俯き続けるカレンの両手拳は強く握られ小刻みに震えるのだった。




