ガールズトーク
あくる日の夕方、選定所内。
所内に併設されているカフェにてザキルの先輩職員であるミラージュが1人ティータイムを楽しんでいた。
人もまばらな店内、そこに新人のカレンが姿を現す。
「ミラージュさん。お疲れ様です」
「ん?!おぉ、カレンちゃんじゃないか。お疲れ様。お前もティータイムか?」
「はい。ご迷惑じゃなければご一緒してもいいですか?」
「勿論だ。座りな」
カレンは嬉しそうにミラージュと同じテーブルに腰を下ろす。
コーヒーを注文したカレンはひとつ溜め息をつくとそれに反応したミラージュが声を掛ける。
「ふふふ。だいぶ疲れてるみたいだな」
「えへへ。毎日毎日いっぱいいっぱいです」
「そうか。けどよくやってると思うぞ。慣れない仕事の上にあの任侠面がパートナーじゃそろそろ根を上げて逃げてもおかしくない頃だ」
「うふふ、任侠面って。確かにちょっと怖いところありますけど、本当は凄く真っ直ぐで優しい人ですよ」
「あぁ分かってる。そもそもそういう奴じゃないとこの選定所には入ることは難しいからな。まぁ言っても奴だって男だ。もし何か変なことされたら直ぐに私に言うんだぞ」
「うっふふ。大丈夫です。実は…」
カレンはイロヨクとの騒動をミラージュに話した。
「ほぉ~、そんな事あったのか。あの野郎も相変わらず手癖悪いなぁ」
「あの、あのイロヨクさんって人も85以上なんですよね?職員ってことは」
「ん。まぁな」
「なんか、高い点数でも色んな人がいるんですね」
「ははは。まぁちょっと女癖が悪いところはあるが、あれでも元は有名は舞台俳優でな。俳優一家で生まれ育ってチヤホヤされてきたんだろ」
「なるほどぉ~」
「しかし、いくら奴がお前の仕事を邪魔してたとはいえ、ザキルにそこまでさせるとは。お前相当気に入られてるぞ」
「えぇ?そうなんですか?いっつも怒られてばっかりだけど」
「基本自分の出世以外には興味を示さない奴だからな。別にお前の仕事が捗らなくったってアイツ自身の出世には何の影響も無い。その上で助けたってことはそういうことだろ」
「そうなんですかねぇ~?」
「何だ?ザキルみたいなのはタイプじゃないか?」
カレンはミラージュから突然突っ込んだ質問を受け急激に顔を赤らめた。
「えぇ!?えぇ?い、いえ!いえいえいえいえ!そんな、何か、ザキルさんはそういうんじゃなくて、尊敬出来る先輩っていうか、私なんかその。今は仕事で精一杯で恋愛とかしてる暇なし。その、そういう目でそもそも見てないっていうか…」
「あっはははは。落ち着けって。本当に可愛い奴だな、お前は」
「も~。びっくりしたぁ。からかわないで下さいよぉ~」
「悪い悪い。しかしお前が前の仕事で男共を骨抜きに出来たのは分かる気がするなぁ。私もお前位の可愛げがあればもちっとモテるんだろうけどなぁ~」
「ミラージュさんはご結婚されてるんですか?」
「いや、独身だよ」
「お付き合いされていらっしゃる方とかは?」
「いないね」
「そっかー。結婚願望とかってありますか?」
「ん」
ミラージュはどこか後ろめたそうな表情を浮かべ言葉を詰まらせた。
コーヒーをひと口飲むと小さな咳払いをする。
「んー。まぁ今は特に考えてないかな。これでも過去に色々とあったもんでね」
「へー。そうなんですか。何があったかは聞くの止めておきますね」
「偉い!その空気の読み方!大事だぞ。どんな仕事をする上でもな」
「うふふ。女の人生は色々ですよね」
「その通り!」
「あははははははは」
それから2人は特に意味の無い会話を1時間程楽しむと和やかな雰囲気のまま喫茶店を後にするのだった。




