表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独立行政法人人物価値選定所  作者: レイジー
14/41

レベル2エージェント、イロヨクの邪

 翌日の夕方、この日も選定所内では定時を境に次々と帰宅する職員達の姿が見えており、その中にザキルの姿もあった。

不意にザキルはカレンのデスクに目を向ける。

そこには仕事が終わる気配を見せないカレンの後ろ姿があった。


(…また残業か)


 特に気に留める様子も無くザキルは選定所から姿を消した。


 それから1時間後、カレンは未だ業務に追われていた。

必死な表情でデスクワークに励む中、1人の男が現れる。


「カ・レ・ンちゃーん」

「あ…」


 カレンの自席に姿を現したのはウェーブを利かせた茶髪でチャラついた物腰を見せる若い職員だった。


「イ、イロヨクさん。お疲れ様です…」


 この男こそが以前よりカレンに対し猛アプローチを掛けるレベル2職員のイロヨクという男だった。

馴れ馴れしい態度でカレンの真横に椅子を動かし腰を下ろすイロヨク。


「やほほー。今日も頑張っちゃってるねぇ~。何か分からない事なぁーいー?」

「あ、だ、大丈夫です。ありがとうございます」

「本当?てかさー、それより聞いてよぉー。今日ある中小企業の社長が申請に来たんだけどねぇ、そいつがまたとんでもない勘違い野郎でさぁ~」


 流暢に喋り出すイロヨクという男。カレンはそんなイロヨクを見て困り果てた表情を見せる。


(この人、話長いんだよなぁ~…)


 カレンは勇気を持ってイロヨクに申し出る。


「あ、あの。ちょっとまだ仕事が残ってて…」

「まぁまぁ。いいからいいから」

「は、はぁ…」


 そんなカレンの表情などお構い無しにひたすら喋り続けるイロヨク。

その間カレンは仕事の手を止めざるをえない状況だった。

こんな日が連日続きカレンは定時以降の残業時間は一切仕事を進められない状況に追われていたのだった。

イロヨクの無駄話が始まって約1時間。次第にその内容は面倒さを増していく。


「てかさー。いつになったらデートしてくれるわけぇ~?いっつも仕事だ予定だって言ってんじゃん?」

「あ~。す、すみません。でも本当に忙しくって…」

「分かってる?俺レベル2だよ?国を牛耳る男だよ?そんな俺に誘ってもらえるなんてマジでラッキーなんだからね?」

「あ、ありがとうございます…」

「最初断られた時とかマジでちょーびびっちゃったんだからぁ。この子何考えてんのー?みたいな」

「は、ははは…。あ、じゃすみません。私そろそろ失礼しますね。家事も結構残っちゃってて」


 カレンはふと思い出した様な演技を見せそそくさとその場を後にした。

駐車場へ向かうべく人気の無い廊下歩いていると、背後から再びイロヨクの声が聞こえてきた。


「カレンちゃぁ~ん。まったまったぁ~」

「!」


 カレンは振り返ろうとしなかったが、突然後ろからイロヨクに腕を掴まれ足が止まるカレン。


「え?あ、あの…」

「ちょちょちょちょちょ~。マジで素っ気無さ過ぎぃ~。いい加減にしてよぉ~」


 するとイロヨクはカレンを壁際に追いやり両手を壁に着くとその顔を近付かせてた。


「さっさと俺と付き合っちゃいなってぇ~。これマージでチャンスよ?俺がここまでしてあげるなんて。あんまりモタモタしてると他の女の子に取られちゃうよ?俺モテ過ぎるから」

「あ、いや。す、すみません。私今恋愛とかしてる場合じゃなくて…。他の方とお付き合いしてあげて下さい!イロヨクさんのこと好きな人沢山居ると思いますので!」

「はぁ?マジで言ってる?いい訳?本当に?本当に他の女の所に行っちゃうよ?マジだよ?これ」

「は、はい!し、仕方無いので」

「はぁ~??いやマジで無いわ。普通そこ泣いてお願いするところじゃね?俺だよ?俺が口説いてあげてんだよ?」

「す、すみません…」


 プライドを傷つけられたイロヨクは不愉快といった表情を浮かべながらもついに実力行使に打って出た。


「もういいや。面倒くさ。もうココで付き合っちゃお。ほら、こっち向いて」

「え?あ、あの!ちょ、ちょっと!!!」


 イロヨクが両手でカレンの顔を押さえ付け無理矢理唇を奪おうと自身の顔を近付けていった。

カレンは嫌がりながらも逃げ場を失い窮地に陥ってしまった、その時、


「っがぁ!!!」

「へ!?」


 イロヨクは突然奇怪な声を上げて後ろに突き飛ばされる様にして倒れ込んだ。

カレンが恐る恐る目を開けると、そこには倒れるイロヨクとそれを上から見下ろす1人の大男が立っていた。


「ザ、ザキルさん!」

「…テメェ」


 般若の如し形相でイロヨクを見下ろすザキル。

イロヨクは先程ザキルに後ろ襟を掴まれそのまま馬鹿力で後ろに体ごと引っ張り飛ばされたのだった。

襟が喉元に食い込み嗚咽を吐き出すイロヨク。


「げほっ、っが、がはっ、がは、がは、うぇっ、っが!!」


 涙目を浮かべながらも立ち上がるイロヨクはザキルの姿をその目で確認すると少しびくついた表情を見せた。


「ザ、ザキル!き、君、帰ったんじゃ…?」

「コイツの仕事が詰まってたのはテメェがつまらねぇちょっかい出してるせいだったのか。あぁ?」


 ザキルは徐々に声のボリュームを上げていく。


「はぁ?し、仕事が?な、何の事だよ?」

「口答えしてんじゃねぇ!!バラすぞクソ餓鬼ぁ!!!テメェが毎日毎日業後コイツに付きまとってたせいで仕事が出来なかったんだろうが!」


 ザキルの怒声が廊下に響き渡る。

イロヨクはびくつき怯むも直ぐに天狗な態度を取り戻す。


「そ、そんなの言い掛かりだろ!カレンちゃんは俺に口説かれて喜んでたんだ!恋の駆け引きを楽しんでただけだろうが。外野が口出してんじゃねぇよ!」

「駆け引きだとぉ?」

「そうだよ!自分がフラられたからって八つ当たりしてんじゃねぇよ、ヤクザ野郎!」

「ほぉ…」


 無数の青筋を立てながらも不気味に笑みを見せたザキル。そして次の瞬間、


「っがぁぁぁあ!!!」

「!!!」


 ザキルは体重を乗せた渾身の一撃をイロヨクのどてっ腹に打ち込んだ。

急所を突かれ呼吸困難に陥るイロヨク。

ザキルは容赦無く髪の毛を掴み上げその悪人面を至近距離にまで近付ける。


「面白ぇ。それなら1人の女を巡って男同士らしくタイマンといこうじゃねぇか。俺もテメェを見習って力づくで奪い取る方法取らせてもらうぜぇ」

「っが、がはっうぅ、…が、あ、あ、あ…」


 視線が定まらずただただもがき苦しむイロヨクにザキルが追い討ちを掛ける。


「調子ブッこいてんじゃねぇぞ、青二才がぁ。誰の連れにヨロシクかましやがったのか後悔させてやらぁ」

「ぼ、ぼ、僕は、レベル…2だぞ!こ、こ、こんなこと、し…て、いいのかよぉ…?」


 更にザキルの1発がイロヨクの内臓を強打する。


「っぐげぇぇぇ!!!」


 ザキルは大きく息を吸い呼吸を整えると、不気味な笑みを見せイロヨクに食って掛かる。


「ポイントはそこだイロヨクさんよぉ。つまりだ、テメェが死ねば席がひとつ空くって訳だよなぁ?」

「!!!」

「出世してぇ俺にとっちゃぁ願ってもねぇチャンスなんだよ。このまま死ぬか?あぁ?」

「いいひぃぃぃ、ひぃぃぃ!!!」


 まるで子供の様に怯え出すイロヨク。

ザキルは掴んでいた髪の毛を離すと最後の脅しを掛ける。


「2度とこいつに近付くな。次にふざけたマネしやがったら生きたまま腹を捌いてやる!分かったかぁぁコラァァ!!!」


 ザキルお得意の恫喝がイロヨクの鼓膜をつんざくと、イロヨクはその場で丸くなりただただ震えていた。

ザキルはカレンに視線を移すと同行を指示する。


「行くぞ」

「は、は、はいぃ…」


 ザキルの後ろについて行くカレン。

カレンは深々とお礼を告げる。


「ザキルさん、ありがとうございます」

「勘違いすんな。ただの通りすがりだ」

「そ、そうなんですね?でも、ありがとうございます!」


 するとザキルはいつもとは少し違うトーンでカレンを諭す。


「人に迷惑を掛けたくねぇって心意気は買うが、そのお陰で業務に穴を開けるくらいなら周りを頼れ。それも働く人間としちゃ義務のひとつだろうが」

「あ…は、はい。す、すみません。でも、イロヨクさん職員の人だし、レベル2の人だし。誰かに相談とかしちゃうと所内の人間関係が傷つくかなぁーって」

「…ったくよぉ」


 こうして2人は廊下の奥へと消えて行った。

以降イロヨクがカレンにちょっかいを出す事は無くなったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ