所内恋愛はアリ?それともナシ?
選定所内、この日もいつも通りカレンは作成した書類をザキルの元へ運んでいた。
「…おう、問題無ぇ。出してきな」
「はい!ありがとうございます!」
カレンは嬉しそうに意気揚々と書類を持ち帰る。
(…そういやぁアイツ、ここんところ書類を間違えなくなったな)
カレンの成長に気付いたザキルだったが、無言のまま自分の仕事に手を戻す。
翌日、この日ザキルは午後からの出勤だった。
ザキルが所内に到着するといつもとは違うざわつきに気付く。
「何だぁ?」
騒ぎが聞こえる方向へ視線を移すとそこはカレンの自席。
周囲に群がるのは同じ選定所内の男性職員達だった。
「カ、カ、カレンさん!!僕、レベル1のイジリって言います!!貴方の作品、全て見てます!大ファンです!!!あの、あの、よ、良かったらサインいただけませんか???」
「え!あ、あ、ありがとうございます」
突然鬼気迫る勢いで迫ってきた男性職員達にカレンも動揺を隠せない様子でいる。
「カレンさん、僕もです!!!デビュー作の”過激など素人、カレン18歳”から貴方の大ファンです!!」
「カレンちゃん、本物のヒッチハイクをしながら撮影した”ビッチファック”、あのドキュメンタリー作品には衝撃を受けた!あれはまさに歴史を変えた作品だよ!!」
「カレンさん、今でも本当にお世話になってます!!あ、あの、もし良かったら、この携帯に向かって”私の靴舐めてろ、ゲス豚野郎”って言ってもらえないですか???」
今にも湯気が上がりそうな程の男性職員達の情熱に終始圧倒されている様子のカレン。
その様子をザキルが呆れ顔で眺めているとそこにミラージュが現れた。
「やれやれ。男共は今日も元気だねぇ」
「おいミラージュ。こりゃ一体何の騒ぎだ?」
「何って、お前が居ない時は大体こんな調子だよ。流石元カリスマ。すごい人気だよな」
状況を理解したザキルはゆっくりとカレンの自席へと歩み寄り睨みを利かせ渇を放つ。
「おいコラてめぇ等!盛ってねぇでさっさと仕事に戻りやがれぇぇ!!」
「ひぃぃぃ!!!」
選定所内では比較的新人に分類されるザキルであったが、その迫力に逆らえる者は少なく集まった男性職員達も蜘蛛の子を散らす様に去って行った。
「ザ、ザキルさん!あ、ありがとうございます」
「ったく。テメェで追い払える様になっとけ。テメェの仕事が遅れたら面倒な事になるのは俺なんだからな!」
「は、はぃ。でも皆さんファンの方々ですし、大切にしないとぉ…」
「っち…」
ザキルは後頭部を掻きながら自席へと戻って行った。
同じ日の夕方、ザキルは選定所内に併設されているカフェにてコーヒーブレイクを取っていた。
するとそこにカレンが現れる。
「ザキルさん。お疲れ様です!」
「おぉ」
「ご一緒していいですか?」
「…何か用か?」
カレンはザキルと同じテーブル席に座った。
同じくコーヒーを注文したカレンはザキルに相談を持ち掛ける。
「あ、あのぉ。つかぬ事をお伺いしますけど、そのぉ、所内恋愛っていいんでしたっけ?」
「はぁ?何だ急に?」
「いや~、実は。最近ある人に結構強めに言い寄られてて…。それでその、仮にって話なんですけど、所内同士でお付き合いするのっていいのかなーって」
「別に禁止なんてされてねぇ。好きにしろ」
ザキルは無機質な温度で答えた。
「そうなんですね!そっかー、うーん…。どうすればいいと思いますか?」
「お前なぁ、相談相手間違えてんじゃねぇぞ。俺が色恋沙汰の相談に応じる様に見えるかぁ?」
「んー、そりゃそうなんですけどぉ。でも何かザキルさんが一番話し易いっていうか」
「っは。俺も舐められたもんだな」
「違いますよ!そういう意味じゃないですって」
ザキルは溜め息交じりで仕方がないと言わんばかりに話を聞き始める。
「お前にその気があるなら茶でもしばきに行きゃいいだろうが。簡単な話だ」
「うーん。でも私その人のこと全然知らないし。何かレベル2の人みたいなんですよね。だから仕事で接する事もないし…」
「レベル2?」
「はい。”イロヨク”さんって人です。ご存知ですか?」
「イロヨク!っは。お前もとんでもねぇ奴に目を付けられたもんだな。その野郎の手癖の悪さはそこそこ評判だぜ」
「そうなんですか?なんかやっぱりなーって感じです。見た目そんな感じしました。やっぱり止めとこー」
「勝手にしろ」
「私のファンだって言ってくれてたんですけど、なんかそれ目的っぽいしなー」
「とんだ業界でカリスマになっちまったもんだな」
「えへへ。ザキルさんも是非見て下さいよ。ちょうどこの前発売された最新作あるんです!○○○○女教師初めての○○○○」
「っぶふごぉっっ!!!」
すすっていたコーヒーを詰まらせ咽るザキル。
喫茶店に居た他の男性職員もカレンの口から飛び出した卑猥極まる発言に強く耳を傾けていた。
「テ、テメェ…所内でそいう言葉吐くんじゃねぇ!!」
「あぁぁぁ!!す、す、すみません!つ、つい!いつものクセでぇ…」
「っち」
居辛さを感じたザキルはカレンを残しそのまま喫茶店を後にするのだった。




