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出会い 〜仁〜

他社での会議を終え会社に戻りエントランスに入ると

目の前に会社には不釣り合いな服装をした小柄な女性がいた


普段なら気にも留めない事だが

何故か惹きつけられるようにその女性に向かっていた


近付いて行くとその女性が急に振り向き

ぶつかりそうになったところで驚いたのかバランスを崩した

普段の自分なら助けようなんてしないのに自然と手を伸ばして咄嗟に抱きとめていた

自分を見上げた女性は先日公園で見かけたあの子だった


慌てて離れようとしたようだが小さく痛みを訴える声が聞こえ、思わず抱き上げていた


自分の胸までしかない小柄な彼女は思った以上に軽く、間近で見た顔は思ったより大人びていた

不安そうな顔でこちらを見上げ、ハッとしたように目を見張った様を見ればこの子もまた先日の出会いを思い出したのがわかった


抱き上げた瞬間かすかに甘い香りが鼻腔をくすぐる

決して不快ではなく落ち着く香り

胸の中にある存在はやけにしっくりとし、離したくないと思わせてくる


「落ちるぞ。ちゃんとつかまっていろ」


そう声をかけながらももう離せないなと訳もなく感じていた

そこにこの子の友人らしい女性が駆け寄ってきた

とりあえず怪我も心配だしここでは人の目もある

秘書の加藤に目配せをし社長室に向かう



エレベーターの中で自分が手当てをするという女性にチラッと視線を向けたが任せる気はないのでスルーしてまた前を向く



社長室に入り顔を見ると目をまん丸にして口を半開きにして驚いていた

思わずクスッと笑みが漏れる

そのままソファに降ろすと秘書室に戻り救急箱を受け取る

部屋に戻ってもまだ呆然とした様子で固まっていた


「どこが痛む?」


声をかけながら足元にしゃがむとハッとこちらに気付き慌てて手を振る


「あの、大丈夫です。怪我してませんから。すぐに言わなくてすみません」


その言葉に思わず眉間にシワが寄るのが自分でもわかった


「左足か?痛みでバランスを崩したじゃないか」


「違うんです!」


と少し慌てて、でも言いづらそうに


「あの、私、高校生の時に交通事故に遭って左足に怪我をしたんです」


そう言って自分の左足の後遺症について話してくれた


「さっきは少し休もうと思って急に振り向いちゃったから人がいるのに全然気付かなくって、ビックリして思わず左足に体重かけちゃったんです。少し休んだら治るので手当ては大丈夫です」


そう言ってふわりと微笑んだ

その微笑みが儚くて今にも消えてしまうんじゃないかと、らしくもなく思ってしまい

思わず頬に手を伸ばしていた


「俺のそばにいろ」


なんの脈絡もなく言葉がこぼれ落ちた

みるみる目を見開いていき顔を真っ赤に染め、ハッとした後今度は目をキョロキョロさせ始めた

頭の中が手に取るようにわかりまたもや笑みが漏れた


「俺は藤堂仁だ。この会社のCEOをしている。お前の名は?」


「あ、柏木美桜です。えっと事故で一年留年して今はA大の2年です」


うっすらと頬を染め話す美桜は愛らしく出会って間もないというのに離したくないと思ってしまう


「家まで送っていく」


「えっと今日は優子とご飯を食べる約束をしているんです。なので大丈夫です」


その返事にまたもや眉間にシワが寄る


「今日は無理をするな。熱が出るかもしれないんだろ?飯はまた行ける」


反論させないように内線に手を伸ばす


「これから送って行く。車を回してくれ」


受話器を置いて振り向くとしょんぼり肩を落としていた

抱き上げると小さな声でお礼を言い、泣くのを我慢しているのか唇を噛んでいた


「噛むんじゃない、切れるぞ」


そう声をかけるとハッとしてまた俯いてしまった

足早に部屋を横切り秘書室の扉を開けると待っていた友人が慌てて駆け寄ってくる


「美桜、大丈夫なの?痛む?」


声をかけられると先程の表情を慌てて消しにこやかに答えた


「うん、大丈夫だよ。でも今日はご飯やめた方がよさそうだからまたでいいかな」


精一杯笑顔を作るこの子を見て、これまでもこうして我慢することが多かったのだと気付く

柔らかい笑顔の裏では様々な事を我慢し、諦めてきたんだと思うと胸が痛い

だがここで無理をして行くと熱を出し、結局お互いが自分を責めるのは目に見えている



そのまま一緒に1Fまで降りると既に車寄せにベンツが停まっているのが見えた

友人の女性とはそこで別れ美桜を家まで送って行く

住所を聞くと自分のマンションとさほど離れていないことがわかった

ふと見るとドアに寄りかかり少し頬を赤らめてウトウトしていた


ーー熱が出てきたか


肩を引き寄せるとそのまま寄りかかり寝息を立て始めた


ーー一人暮らしだったな。とりあえずうちに連れて帰るか


運転手に行き先の変更を告げ右肩にぬくもりを感じながら自分も目を瞑った

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