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妖怪辞典の異世界召喚師  作者: 丸蛇ラーメン
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鬼火とぬりかべ

『ふあ〜』


入口の見張りをするゴブリンが大きく欠伸をする。

中では仲間たちが捕らえたエルフで楽しくやっているのに自分は下っぱだからという理由で外に追いやられたことに対してかなりの不満だらけだった。


『ギ?ギギ!!』

『ギ〜イ』


先輩のゴブリンに見つかり、しぶりながらも見張りを再開した。

しかし、そんな時でもゴブリンは妄想する。

エルフの女。

美しい金色の髪、柔らかい質感の肉、口から出るゴブリンにとっては甘美な悲鳴。

それを思い出すだけでゴブリンの口からはよだれが溢れる。


『ギ?』


そうそう。今ちょうど目の前の長い白い布に跨ったエルフもその類に漏れず、美しい。

月を背にしたことで美しい髪が月明かりでより美しい。

その袖から見える華奢な腕もなんとも柔らかそうな。そう弓を構える姿もまたそそられる。

ヒュンッ!


『…ギ?』


その音ともにゴブリンの頭に一本の矢が貫かれた。

なにが起きたか一瞬のこと過ぎて何事かわからないままゴブリンの体は倒れこむ。


『ギギ?』


異変に気づいたもう一体のゴブリンが様子を見にやってきた。

ニーナは咄嗟に岩の影に隠れる。


『ギギギ!?』


仲間の死体を見て慌てて駆け寄るゴブリン。


「ふぅ。古空穂の言う通り、使いやすいわね。この弓」

『うむ。其方の腕もかなりの物。どれ?ニーナ殿、今ちょうどいい事に奴らは同じ射線上にいる。其方の腕を持ってすれば三体の小鬼どもを纏めて始末する事も可能であろう』

「…いいわね、それ。それでいきましょう!そう言う事で一反木綿さん、お願い」

『ガッテン承知!』


布の妖怪一反木綿はニーナの姿をゴブリンに見つからない様移動させ、丁度三体を同時に射ぬける場所まで連れていった。


「よしっ!完璧な位置だわ」


ニーナは古空穂から三番の矢を取り出し、矢を先ず騒ぎ出しそうな仲間の元に寄って行ったゴブリンに向ける。


「1」

ヒュンッ!


間髪いれず次の矢を構え、別の岩場の二体に向ける

「2、3」

ヒュンッ、ヒュン!と矢を射抜かれた。

そしてその矢は見事3本ともゴブリンの頭を射抜いた。


『お見事』

『すげぇな、嬢ちゃん!』

「ありがとう。一反木綿さんも乗りやすいお陰で全然ぶれなかったよ」

『へへへ!あんがとよ!』


一反木綿は照れながら森の中で待つ俺ことカズマの元へ戻った」

「さっきからなにやってんの?その変な語り口調は」

「ン?ああ、ちょっとゴブリンの視点から見ての語り手をやってみた。ニーナの弓さばきがあまりにも無駄がないから、俺自身はちょいと暇でね」


 しかし勿論これはおふざけでやってるのでない。

 俺のもう一つの使命、妖怪辞典のファンタジー枠のゴブリンをさらに事細かく書くためだ。

 俺は気付いた。妖怪辞典はこの世界にこそ必要な存在だと。


 今回のように既に被害者が出てしまっている以上、俺とて人族。人が殺されるのを黙ってみてる趣味はない。ならばこそ俺はこの辞典を完成させたい。それが俺の役目なのだから。

辞典とは人々に知識を与えるもの。俺の辞典はみんなにモンスターから身を守る術を与えてくれるだろう。


「…あんた、私をそういう目で見てたの?」


 なにやらニーナがもじもじしている。

 ?なんだ?俺は変なことを言ったろうか?


「美しい髪に弓を構える姿が綺麗だって言ってたわ。あれは本気なの?」


あ、確かに言いましたね。そんなことを。ゴブリン目線で言ったのだが。


「まあそうだな。確かに綺麗だ」

「っ!?ふ、ふーん」


なにやら顔が赤いが、それより今は中のエルフたちが先だ。


「いくぞ」

「ええ!」



俺とニーナは洞窟に入る。

洞窟の中は暗いのでエルフの村から持って来た松明を手に持ち、明かりをつける。

このくらい洞窟の中でも奴らは俺たちの行動が見えているのであろう。

俺たちは待ち伏せや背後から追い込まれないように洞窟を進む。


『!主人さま、お待ちを』


カバンの中のスネコスリが何かに気付く。

暗い中でも魔法を使い、目を見えるようにしたニーナが俺の前に出て調べる。

すると彼女が何かの細い紐状のものを見つける。


「トラップね。恐らくこれが切れると広間にいる奴らに侵入者を知らせる仕組みになっているんだわ」


なんか昔の忍者屋敷みたいな仕掛けだな。

ん?ここの道、すぐ近くの道が分かれ道になっている。

左の道は目目連のいっていた道だろう。

右は…。


「ニーナ、右の道の奥はどうなってるか見えるか?」

「待って…行き止まりになってるわ。恐らくこのトラップに引っかかった冒険者が慌てて逃げる際にこちらに追い込み殺す為の場所だと思うわ。基本の冒険者は松明のみの明かりだから方向感覚が狂うことがあるし」


なるほど…。そうだ。そのゴブリンたちの作戦やってみるか。


「ニーナ、さっきのトラップの紐を切ってくれ」

「え!?そんな事したらゴブリンがやってくるわよ!」

「ああ、だからやるんだ」


ニーナは俺がなにをする気なのか不安そうな顔したが言われた通りに紐を切る。

するとカラカラと言う音が洞窟の中で鳴り響いた。確かに松明のみの明かりで視界が遮られ、緊張している冒険者からすれば慌てふためく状況になりそうだな。

おっと大勢の足音が聞こえてきた。

俺は自身の松明の火を消す。


「ちょっとなにしてるの!?」

「しっ!ニーナは魔法の目をそのまま続けててくれ!」

「…わかったわ」


俺たちは隠れられそうな岩場に隠れる。


「…来たわ。数は10体。全員武器を持っている」

「わかった」


奴らはニーナの今の目のように洞窟の中でも目が見える。しかし、その中で特に目立つ物があれば奴らはそれに目がいく。例えば松明の火など。


「顕現せよ。鬼火」


鬼火。

人や獣の幽霊と呼ばれる火の姿をし、浮遊するもの。主に青い炎が一般的だが、今回俺が召喚したのは赤い鬼火。


鬼火を召喚させたのは先程の右の通路。

その明かりにゴブリンが気付く。

鬼火は全速力で行き止まりの道を進む。


ゴブリンがいくら洞窟内でも目が良かろうと、一際目立つ一個の明かりがあればそっちに目が行き、下の人間など見向きもできないだろう。俺はその手を使った。

ゴブリンたちは行き止まりの方へ、鬼火を追い詰める。

しかしそこでゴブリンは気付く。自分たちの追っていた物がただの炎であると。そこにいるべき人の姿が無いと。

そう。本来は自分たちが冒険者を追い詰める道に自分たちが追い詰められていることに。

ゴブリンたちは急いで逆走しこの場を逃げようとした。

しかし。


ドンッ!と言う音ともにゴブリンは何かに大きな壁にぶつかる。


『ギギ?』


ゴブリンたちの先程通った道にさっきまでなかった大きな壁が立ちふさがる。


ぬりかべ。

道行く人の前に巨大な壁を出現させる妖怪。

その壁に端はなく、どこまで行っても壁、上に登ろうとそこも壁。

某アニメでは巨大な壁の姿だが、本来は耳の垂れた犬のような姿をしている。


奴らがここに入った瞬間に召喚しておいた。

そして俺とニーナもお前らと同じで壁の内側にいる。なぜかって?それは!


「あんた達を倒すためよ!風よ!切り裂け!」

「いけっ!カマイタチ!」



少しして壁は消える。

追い詰められたゴブリンはまさか自分たちの考えてさたトラップに自分たちで引っかかったことに慌てふためいていた為か、予想以上に簡単に片付いた。


「あんたのそのジテン?だっけ?本当に凄いわね?あんな壁のモンスター見たことないわよ」

「そうなのか?」


そう言えば壁を作る西洋のモンスターってあまり聞いたことはないな。


「でも気をつけて。まだ残りのゴブリンはいるし、村の手練れたちを殺したバーサーカーもまだいるはずよ」


バーサーカー。

ニーナから聞いた話ではゴブリンを超巨大化しこの豪腕で名のある冒険者たちを苦しめている存在と。

まぁ様はゴブリンの進化系か。

これも辞典に書いといたほうがいいな。


『主人さま、もうすぐ広場に着きます!』


「十分注意してね!カズマ!」

「ああ、ニーナもな!」

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