カマイタチと召喚ゴブリン
一反木綿に乗り、俺は上空からエルフの村を見た。
どうやら戦いは終わっているようだ。最悪なことにエルフたちの敗北で。
村には生き残りを探すゴブリン。見つけると何処かへと連れて行っている。
恐らくは奴らの隠れ家か。
「ふむ。よしっ。一反木綿!近くの森へ!できるだけ奴らから見つからない場所へ!」
『ほいさっ!』
そう指示すると一反木綿は指示通りゴブリンから身を隠せる森の茂みに俺たちを下ろす。
「ありがとう。一反木綿」
そう言って一反木綿を一度戻した。
エルフの彼女はまだ目を覚まさない。ってしまった!傷の手当てを忘れてた!
「えっと傷となると…あっ!そうだ!ちょっと違うが顕現せよ!カマイタチ!」
召喚したのは両手が鎌のイタチとその相棒の棍棒を持つイタチそしてもう一体が薬と書かれたカメを持つイタチが現れた。俺が用があるのはカメをもつ方だ。
「すまない、カマイタチ。君たちの薬を少し分けてもらいたい」
カマイタチは一体が人を転ばせ、その後の一体が切りつけ、そのさらに後の一体が薬を塗り治す。
それが日本に伝わる鎌鼬の伝承だ。
『はい。主様これですか?』
カメを持つイタチが快く渡してくれた。
「これは普通の傷にも効果はあるのかな?」
『ええ、我らのヤイバはとても鋭くとても人間の作る薬では治せません。ですがこの薬は傷であればどの様な傷も治してしまいますよ』
「そうか、よかった」
『そちらの女性にお使いに?』
「ああ、ゴブリンに攻撃されたらしい」
『なるほど出してたら私めが治療して置きますので、主様はあそこのゴブリンへの打開策をお考えください。二人とも手伝って』
『『へいっ!姉さん!では主様!!失礼しやす!』』
え?そっちが下なの?鎌と棍棒を持つ二体が薬待ちに従っている。
「まあいいや。スネコスリ」
『お側に』
またカバンの中に隠れたスネコスリが顔を出す。
「一つ聞くがこの本にはあと足しは可能なのか?俺は神様にこれにこの世界のモンスターを記すように言われていたが」
『はい。可能でございます。恐らく主人さまの考え通りの事も出来るかと』
おや、よまれたか。ならば早速。
俺は妖怪辞典の空きページに新たに記した。
この世界初のモンスターのことを。
小賢しく、一人では弱いが群れると恐ろしいモンスターを。
「よしっ!出来た!いうこと聞いてくれよ?顕現せよっ!ゴブリン!」
『ギギッ』
召喚に見事成功した。
後は命令を聞くかどうかだ。
「ゴブリン、あいつらの中に潜り込み、中で囚われている人々の場所を探れ!」
『ギ?』
あ、ダメか?
というかゴブリンは言葉通じないのか。
『ギギー!』
走ってどこか行ってしまった。
ってヤバい!他のゴブリンの所に!!こっちの居場所がバレる!
『…その心配はないかと』
「え?」
『ご覧下さい』
スネコスリの言う通りだった。
ゴブリンは此方に他のゴブリンをこさせないように散らせた。そしてどうやら情報を聞き出している様子だった。
俺らにはゴブリンの言葉はわからないので勝手にアテレコしてみよう。
『へいへい!兄弟!こっちには誰も居なかったぜ!ヘイヘーイ!』
『そうか。てかお前誰だ?見ない顔だな?』
『やですよ。先輩!俺っちは先日新しく配属された新人ですよ!ヘイ!』
『そういやここを襲うのに新人を何体か入れたとボスが言っていたな。その一体か』
『ヘイッ!それでごぜぇやすぜ!先輩』
『そうか。報告ご苦労』
『ところでよ?先輩申し訳ねえが俺はどうも記憶力弱くってな?捕えた奴らは何処に運んでんでしたっけ?』
『あ?そりゃおめぇアジトに決まってんだろう?』
『あちゃー !なにぶんここは俺っちの知らない土地。方向音痴の俺っちには辛い所業ですぜ!先輩!』
『まさか忘れたのか?しょうがない奴だ。ほれ、あそこに大きな大木が見えるだろ?』
『おおっ!確かにこいつは立派だ!』
『あの木を目印に太陽が沈む方向へ歩けばアジトに着く。今度は忘れるなよ?』
『へいっ!ありがとうございやした!先輩!』
『…なんですか?それ?』
「下手だった?」
『恐ろしく上手すぎて笑え堪えてましよ。そして概ね大当たりのようです。ゴブリンが戻ってきます』
確かにゴブリンが此方に走って寄ってきた。
『ギギ!』
どうやらうまく聞き出せたようで俺たちを案内してくれるらしい。
しかし、今は昼。まだ太陽があるうちは敵に見つけて下さいと言っているようなものだ。
「ありがとう、ゴブリン。だが少しここで待機する。夜に潜入する。いいね?」
『ぎっ!』
ゴブリンは頷き、怪しまれないようにここの見張りをかってでた。
確かに見つかりにくい場所とはいえ、用心に越したことはないな。
「ありがとう、ゴブリン」
『ギガ!』
さて、それじゃここで待機するとしよう。
夜までは…太陽の感じからしてもう少しかかりそうだな。
『主様!お嬢さんの意識が』
とカマイタチが声をかける。
「目を覚ましたのか?」
「う、ううっ!み、みずを」
意識を取り戻しかけてる。
そうだ!神様がカバンの中に食料と水を入れてくれてたんだ。
俺はボトルに入った水を取り出す。
蓋を開け、彼女の口にゆっくりと水を含ませた。
「っ!んっんっ!」
よし、ちゃんと飲めている。
「ぷはっ!はぁはぁ。ん?あ、あなたは」
彼女は完全に意識を取り戻し、俺は完全に認識した。
「俺はカズマ。通りすがりの者だ」
一度いってみたかったんだ!通りすがりって!正義の味方はなにやらこっぱずかしいのでやめた。
「カズマ…殿か。…そうだ!私はゴブリンに…っ!」
彼女は傷ついた頭を抑える。
「無理はしない方がいいよ。頭に石を強く投げられたんだ。脳震盪わ起こして気を失うほどのね?」
「そうか。あなたが助けてくれたの?」
「まあね」
「…」
彼女は俺の体をジロジロと見る。
いやん、エッチ!
「とてもゴブリンと戦える風には見えないけど」
「ああ、けど倒した。信じられなくてもそれが事実」
まぁ俺じゃなくて召喚した妖怪たちのおかげだが。
「…はっ!そうだ!村は…私の村は!」
「……君の村は今目の前だ」
「え!」
彼女は身を乗り出し、自身の村を見た。
「これが…私の村…風と水の豊かな村」
風と水の豊かな村か。少なくとも俺の目に映るあの村にはその面影はなかった。
村の家々には矢がささり、一部には火で焼け焦げた家もある。そして地面には奴らに殺されたエルフたちが横たわっていた。
「み、みんなが…あいつら!!」
彼女は今にも飛び出そうとしている!俺は彼女を止めるために腕で抑える。
「待って!今行ってもただ殺されるだけだ!」
「離して!あいつら、絶対殺してやる!殺してやる!」
「落ち着けって!位置がバレる!」
『ギ?』
召喚した方のゴブリンが何事かと様子を見に来た。
「っ!?ゴブリン!殺してやる!」
『ギギ!?』
「あー!まって!あれは味方!仲間です!殺さないで!」