ゴブリンと狒々、そして一反木綿
私、ニーナの住むエルフの村は何もないがのどかな村だ。
風と水の精霊の加護に恵まれ、光も程よくあたる土地。
私たちエルフが好んで住む村としては最高ランクに入る。
しかし、ある日のこと。
私の村がモンスターゴブリンに襲われた。
狡猾で、一体では弱い為か集団を好み、子供や女を好んで襲う。それがゴブリン。
しかし、そんな相手は私の村には中々の手練れの戦士が難なく倒してくれる。そう、倒してくれる筈だった。
ゴブリンはあらゆる手を使い、手練れの戦士たちを次々に殺していった。ある者は仲間を囮に、ある者は子供、家族を盾に。そして一番の誤算はゴブリンの中に一際強い手練れがいたのだ。そいつのようなタイプは通称『バーサーカー』と呼ばれ、熟練の冒険者でも手を焼く程。
いつしか村は崩壊寸前まで追い詰められた。
私は父の計らいでなんとか逃げ出し近隣の町に応援を呼びに走った。
急がなければ、村が完全に失ってしまう!みんなが死んでしまう!急がなければ!
ヒュッ!ゴッ!
「っ!?」
この音ともに私の頭に激痛が走る。
当たったのは拳大の石。それには私の血がついていた。
後ろを見るとゴブリンが三体いた。一体が布のような物を持っている。あれで石を投擲した訳か。本当に頭が良く回る奴らだ。
私は頭を抑え、その場で倒れてしまう。
くそっ!体が動かない!
ゴブリンたちは私を喰らおうと寄ってくる。
ちくしょう!こんな奴らに!こんな外道な奴らに!私は殺されてしまうのか!
「チクショオオオオオオッ!」
「秘技!ホムラ空中回し蹴り!!」
『ぐぎゃ!?』
その声と共にゴブリンのうめき声が聞こえた。
私は薄れゆく意識の中、その姿を見た。
見た目は私くらいの少年。
私に向ける背中はあまりに華奢でとてもゴブリンすらも倒せないのでは?と思わせるほど。けど彼は私の目の前に立っていた。
「見たか!ネットの護身術教室で猛特訓した俺の空中回し蹴りを!」
神様によって身体能力を上げられている為、前の世界では明らかにできない技ができてしまった。
神様、ありがとうございます!俺に力をくれて!
そして、この世界に連れてきてくれてありがとうございます!
「……」
『ぐぎぎ!』
俺の回し蹴りをくらい苦痛の表情するゴブリン。
そう。ゴブリン!
ゴブリンですよ!皆さん!
憧れの妖怪の次はファンタジー界の有名人ゴブリンが登場とは幸先よいではありませんか!!
『主人さま!さらに朗報です!』
俺のカバンに隠れてたスネコスリが顔を出す。
『彼方の女性。もしやあれも』
「ん?おお!耳が長い!もしやエルフ族!モンスターではありませんが、こちらもなにやら心くすぐる者!亜人ではないですか!」
正直に俺は妖怪もモンスターもいいが、吸血鬼やエルフ。ファンタジー本に出てくるものも俺は大好きだ!是非とも彼女も辞典に加えたい!
が、その前に…。
「お前ら、いくら憧れのモンスターたちでも寄ってたかって女の子を嬲ろうとはいけすかないねぇ」
『ぐきゃあ!!』
『主人さま!ここは戦闘向けの妖怪を』
「ああっ!」
相手は三人。
能力はまだ未知数。
ならっ!確実に倒せそうな奴を!
「我の求めに応え、顕現せよ!狒々!」
その言葉に応えるように大きな妖怪が現れた。
大きな猿で凄腕の怪力を誇る元は中国に伝わる妖怪。
『ひひひひっ。呼んだかい?大将?』
「ああ、早速だがそいつ等倒せるか?」
『あん?倒せるかだって?ひひひっ!甘く見てもらっちゃ困るぜ?大将』
『ギアっ!』
あっ!ゴブリンの方が狒々に攻撃してきた。
しかし、狒々はそれを片手で抑え、
『余裕だね。ひひひ』
と握りつぶした。
うっぷ。ホラー映画とかでグロには体制がある方だが生で見ると辛い。
『おっと?大丈夫かい?大将』
「う、うん、大丈夫。悪いけど他の二体も頼む」
『ギ!?』
仲間がいとも簡単に潰され、困惑していた所為で逃げ遅れた二体のゴブリンはあっという間に狒々に潰された。
しばらくハンバーグは食えないな。
「ありがとう…。狒々」
『おう。いつでも呼んでくんな?大将』
「ふう。さて、この子をどうするか」
『主人さま。どうやらこの子はこの近くの村から逃げてきた様です。恐らく先ほどの輩の群れに襲われているのかと』
なるほど…。それをほっとける程人間嫌いではない。
「スネコスリ。距離は?」
『およそ、2キロ先!タクシーが値段が上がるぐらいのところです』
なぜタクシー?まぁいいや!
それくらいの距離なら某アニメの主人公のようにいってみますか!
「顕現せよ!一反木綿!!」
現れたのは一枚の長い布。
その先には顔のようなものがある。これが一反木綿。先ほど言った某アニメでも登場する布の妖怪だ。
『へい!毎度!及びですかい?ご主人!』
「俺とこの子をここから2キロある村まで運んで欲しい。頼めるか」
『お安い御用でぇい!んじゃご主人は背中に乗りな!嬢ちゃんはあっしの布でしっかり連れて行きますんで!』
「よしっ!頼むよ!」
『では一反木綿。案内は私が』
と言ってカバンから飛び出したスネコスリは一反木綿の頭にのる。
『おう!頼んだゼェ!スネコスリ』
そして僕は彼女いたと思われる村に向かった。