神様とスネコスリ
俺、釈迦堂カズマは生粋の妖怪、モンスターなどのファンタジーマニアである。
ネットや足であらゆる妖怪やモンスターを調べ上げ、それを自身の辞典に書き写した。人は俺を歩く妖怪辞典とよぶ。
その辞典の記念すべき100体目の妖怪を書き記した日、俺は交通事故で死んでしまった。わき見運転によるものらしい。
うーむ。世の断りといえどあまりにも突然過ぎてあまり実感が湧かないな。
しかし、実際問題俺は死んだ。その証拠に俺の体は魂となってどこから知らぬ場所を彷徨っている。
『釈迦堂 カズマよ』
『ん?』
誰かに名を呼ばれた。誰だ?
『えっとどなたですか?』
『上を見よ』
と言われるがまま俺は上を見た。
そこにいたのはでっかい人…かな?金色にきらめくその人が俺に声をかけた本人である。
『我は、そうだな。お主達の言う所の神である』
『おお!神様ですか?』
『本日は不幸な事故とはいえ、残念である』
『はぁ』
『お主のことは我ら神の間でも有名であった。あらゆる分野の妖怪たちを事細かく調べ、書き写した者としてな』
おや、神様の間でも有名人に…光栄なことです。
『ところでだ。お前は妖怪にしか興味ないのか?』
『はい?』
『お主達の言う所のファンタジー。魔法などかある世界にはモンスターと呼ばれるものが多く住む。それらもまた、お前にとっては魅力的ではないのか?』
モンスター。ゲームで言うところのスライムやドラゴンなどのことか。それは妖怪と連なるところではある。それに俺は日本妖怪辞典が終わったら西洋や中国に伝る妖怪たちも調べる予定だった。それは果たせず終わったが。
『そうですね。興味あります』
『うむ。ならばお主に提案がある。お主に異世界。それも今言ったようなモンスターと魔法がある世界にお前を転生したいと思っている』
『転生!?それって異世界で生れ変れってことですか?』
『その通り。お主に知識と新たな体と力を与え、向こうの世界へと飛ばす。実はな、その世界ではある王。魔王と呼ばれる王が世界を悪の限りを尽くし、人々を困らせている。しかし、我らが降りれば世界は忽ち魔と神々の戦争にまで発展し、結局は世界が滅んでしまう。お主には我らの代わりに向こうの世界へと行き、世界を平和にして貰いたいのだ。勝手な願いではあるが』
『イイですよ!!』
俺は即答した。
『ええ!!いいの!?』
『困ってるみたいですし、何より先程の異世界のモンスター。妖怪辞典作者とては実に興味があります。是非に俺をそっちの世界へ送ってください』
それに異世界というフレーズ。なんとも心が躍るではありませんか?皆さん!妖怪などを調べているとそういう夢が溢れてくるものです。こんなチャンス逃す手はない!
『かたじけない。では先ず先程、話した力についてだ。お主自身の力や魔力の底上げとすぐに死んではせっかく生き返らせた意味がないのでな。ある程度のダメージは緩和されるようにした。後一つお主が好きなように選べ。どのような能力でも与えよう』
おっとそう来るか。
どうしよう。力の強化と肉体的強化はしてもらったし、話によると魔力も貰えたようだ。あとは…。
あっ!
『あの俺の妖怪辞典ってどうなってます?死んだ体に置きっ放しなんですが』
『ん?それならほれ。これに新しく描き写せるように現世から持ってきてもらった』
と手には確かに俺の妖怪辞典があった。
ならば!
『あの!この本に書かれてる妖怪の召喚って可能でしょうか!?』
『召喚?』
『はい!この辞典に書かれた妖怪たちの中には戦闘向けの者たちも多数書き記してます!その方達を呼び出させたら』
『カズマくん。本音は?』
『はい!ただ単に実物の妖怪に会いたいだけでございます!』
あ!本音が…。
『ぷっ!あははは!筋金入りだな!お主は…良かろう!お主の願いを聞き届けた』
神様は辞典に向かって手をかざす。
すると俺の辞典が光りだす。
『これでお主の辞典は妖怪たちの召喚書となった。お主が呼べば妖怪たちはお主を主人として仕え、助けてくれよう』
うおおおっ!やった!
これで妖怪たちに会える!マジモンの妖怪に!イヤッフーーーッ!
すると僕の魂が下から消えていくのに気がついた。
おそらくこれが転生なのだろう。
『では、我らはここでお別れだ。お主のあっちの世界での活躍を期待している。さらばだ!』
これが俺のあの世で記憶だ。
次に目を覚ますと俺は草原に寝そべっていた。
「ふう、ここが異世界か。んー、都会にはない美味しい空気!ん?」
近くに湖を発見。
最初の目覚めがこんな景色のいいところなんて、神様も粋な計らいを。
そうだ…体も新しく作ってもらったって言ってたな。
どれどれ。そこの湖に顔をみてみる。
おお!若い!死んだ時の俺の年齢は三十代だったが、この感じは10代前半くらいか?しかも美形!女と見まごうぐらいの美形!…女…はっ!俺は自分の体を調べる。
…男だった。男の記憶で女になるのはあまり喜ばしく無い。
ただの女顔か。
さて、んじゃ早速!
俺は妖怪辞典を探す。
おっと!よく見たら俺が寝てたところにカバンが置かれていた。
その中を調べるとやっぱり辞典が入っていた。
それになにやらお金と食料も…神様気前が良すぎやしませんか?
さて、まずは簡単そうな奴を呼んでみる。
そうだな…。よしっ!こいつにしよう!
折角だ!カッコよく呼んでみるか!
「我が呼びかけに応え、顕現せよっ!スネコスリ!!」
……漫画ならここでしーんとなるような描写だろう。
なにも出てこない。
スネコスリくらいなら簡単に呼べるとおもったが…っ!?
突然、足に何か違和感を感じた。
何かにすねを擦られ…。あっ!スネコスリだ。そういや、スネコスリって見えなくできる妖怪だっけ。
「えっとスネコスリ。俺の前に姿を表せ!」
すると何もいなかった場所から猫と犬の間のような小さい生き物が現れた。
『キュー』
「……うん!噂は間違いなかった!すごく可愛い妖怪だ!そして!俺は初の妖怪との対面に成功したのだ!」
『きゅ?』
「うっはー!超かわいいな!!なにこれマジでこんな妖怪なの!?スッゲェ嬉しい!かわいい!!チョーハッピー!イェーイ!」
もう言語が衰えているが、俺しかいないし気にせずウェーイ!
『き、きゅう。あ、主人さま?』
うぇーい!…ん?
今、このスネコスリ喋らなかった?
『大丈夫ですか?主人さま?』
うん。間違いなく、この子が喋っている。
「スネコスリ喋れるの!?」
『はい。ある程度の者であれば主人さまとの対話は可能でございます。先ほどは姿を見せずにすねをこすり、申し訳ありません』
「いや、それは君の性質上仕方ないよ。こそばゆいだけだったし」
『ありがとうございます。神様よりあなたに仕えるよう仰せつかっております。スネコスリに御座います。その主人さまが創りし、辞典にて我ら常に貴方を守り、従う所存。どうか末長く宜しくお願いいたします』
…スネコスリ。意外と口達者。
「そうか。これからもよろしく頼むよ。スネコスリ」
『はい!して主人さま!』
「ん?」
『この近くに人の気配を感じます』
「わかるの?」
『私は元々、人のすねを好みこする者。人の気配には敏感なのです』
そして意外と芸達者な。
『…』
「そうか。人がいるのか。折角だし会っていくかな。この世界初の人との対面だ」
『……主人さま。急いだ方が宜しいかと』
「え?」
『気配に死相が漂っています』