正面突破
『どこから語り始めればいいのか分かりませんので、とりあえず語りたい所から語ります。
実は私、すっごい冒険をしました。トマウさんも私の依頼で中々の困難に立ち向かったとは思いますが、これ程ではないかもしれませんね。それはもう永遠に語られる大冒険譚だったと言っても過言ではないでしょう。
私、トマウさんの弔銃を奪った人間を尾行したんです。いや、中々これがどうして、私には隠された才能があったのですね。少しも私の存在を悟られる事なく弔銃を奪った方の家を突き止めたのです。中州の中央から少し西の辺りですね。あばら屋って感じでした。トマウさんの塒の方がマシでした、僅差ですが。
そういう訳で後は彼の隙を突いて弔銃を返してもらうだけなのですが。びっくりな事実が判明しました。なんとその家に十二人もの屈強な男達が住んでいたのです。十二人ですよ、とても驚きました。嘘じゃないです。トマウさんの塒の内の一部屋の半分くらいの家に十二人です!? 一体どういうご関係なのでしょう。
まあ、それはともかく困った事にその家に隙なんてありはしないのです。必ず起きている誰かが家の中にいるんです。私、知恵を絞りました。どれくらい絞ったかというと、昔聖火大学で教えてもらった機骸の代替知性が各部位に定着するのに必要な時間を体積と組織の複雑性及び使用素材を踏まえて計算する際に……トマウさんには分からないですね。まあ、とにかく悩みました。とても賢く華麗なる作戦が必要です。
そう、正面突破です。飛び交う弾丸、十二人の男達の怒号、忠誠と裏切り、誰が敵で誰が味方なのか、極限の心理状態の中に生まれる友情、隠された真実は十二人の男達の関係を一変させ、エイハスは吠えます。私は美貌と言葉巧みな話術で取り入り、類稀なる身体能力で男達を組み伏せ、弔銃を奪ってやりました。
勿論嘘です。十二人の男達の辺りから嘘です。本当はたった一人の痩せっぽちの男でしたし、男が寝ている間にこっそり忍び込んで貰って来たのです。
トマウさんみたいに嘘をつくのは難しいですね。支離滅裂になってしまいました。
それでもとても恐ろしかったのは本当です。二度とこんな事したくありませんし、誰にもして欲しくありません。例えお金の為だったとしても、です。
トマウさん。お金を稼ぐ方法はトマウさんが思っているよりも沢山あります。世の中にいくらでもあります。誰かから奪ったり、奪われたりはもうやめてください。なんて、私が言って良い台詞でもないのですが。奪われたものを奪い返すのは大目に見てください。
追伸。スースちゃんは預かってるよ。アオメノ寺院で待ってる』
手紙はそれで全てだった。




