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機械仕掛けと墓荒らし  作者: 山本航


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まだ確定ではない

 刺激的な生活。刺激的な人生。


 メルキンの口癖をトマウは思い出す。

 不当な人生、崖っぷちを臨む生活、中州のクズ共の如く踏みつけにされる生き方。

 そんなものを本当に望んでいるのだろうか。トマウには分からない。そういう人間もいるのかもしれないが、永遠に理解できそうにない。


 血の臭いも土の臭いも油の臭いも煙の臭いも嫌いだ。今この国はこの時代はどこでも同じような臭いをさせていると言うが中州よりはマシだった。


 メルキンは刺激を求めて中州へ来たという。今、刺激を感じているだろうか。あるいは後悔しているだろうか。


 トマウは真っ暗な心の中で自問自答する。


 バザから手に入るはずの報酬ならばこの中州を出て行って樹林地方でそこそこの家を買う事が出来る。いや蓄えを加えればエルマビク群島も可能だ。もう少し頑張れば首都島ソクトスも夢じゃない。この中州での卑しく惨めなゴミ漁りと墓荒らしの日々から脱出できる。それはメルキンを殺すに値するだろうか。あるいはケスパーでさえも。


 中州に特に変わった様子はない。死臭小路も正面街路もそれなりの活気を保っている。ケスパーの製霊工場へと向かうと、いつも通りに陰気な連中がうろついてはいるが、これといって不穏な様子もない。


 メルキンは相当の怪我を追っているはずだが、それを見てそれについてトマウに尋ねようという者もいない。

 読みが外れたかもしれない。製霊工場は相変わらず死臭が目に映りそうな程に濃く淀んでいる。死者のような生者達が働き、生者のように働く死者へと加工している。


 事務所にはケスパーとバザがいた。メルキンはいない。二人は何やら話していたが、同時に飛び込んできたトマウを見た。


「よおトマウ。息せき切ってどうしたかぁ? 依頼の品が見つかったかぁ?」


 トマウは呼吸を整え、ケスパーとバザを交互に見る。バザが何故いるのかは分からない。この話をバザに聞かせるのは得策ではない。トマウはケスパーの傍へ行き、耳打ちする。


「まだ確定ではないが、メルキンが件の屍材を持っている可能性がある」

「何で持ってこねぇんだぁ?」

「理由は知らん。問い詰めようとしたら逃げられた」

「探せってんだな?」

「いや? 俺は別に屍材が手に入らなくとも、そのせいで高額の報酬が手に入らなくとも一向にかまわないぜ。あんたがどうかは知らんが」


 ケスパーは鼻を鳴らして立ち上がる。


「どうかされましたか? ケスパーさん」

「なに、俺様の可愛いペットが逃げ出したかもしれねぇ。まぁよくある事だ」

「ああ、お噂はかねがね。色々な機骸スペクターを飼っていらっしゃるとか」

「まあな。しばらく席を外させてもらうぜぇ」そう言ってケスパーは立ち上がり、入口とは別の扉を出て行く。


 トマウもそれに続く。そこには廊下があり、階段がある。小鬼型機骸スペクターが部屋から部屋へと横切っていく。ケスパーとトマウは階上へと上がる。二階の最も奥の部屋へと入る。

そこには天井を支えるように鋼鉄の柱があり、そこから枝が三本生えている。そして枝の一つ一つに木の実のように計三つの水晶画面、そして柱に線で繋がった機械類が鎮座している。千里眼鏡を使用するところを見るのはトマウにとって初めての事だった。


 そして二人の男がカードゲームに興じていた。男達はケスパーの姿を見るや慌てて立ち上がり、ほぼ同時に挨拶をした。


「俺様の嫌いな者の一つにムダ金ってものがある。お前らはどうだ? ムダ金は好きか?」


 男達は冷や汗を拭いながら平身低頭謝る。


「いえ、決してそのような事は」「異常があれば必ず報告しております」「何か御用でしょうか?」「身を粉にして働いている所存です」


 ケスパーは二人を睨み付けながらも話を進める。


「メルキンはどこだ?」

「それならさっき橋裏で見かけました」と通信技師の内の一人が言う。「飯を食ってましたね」

「今いる場所が知りたいんだ」とトマウが言葉を付け足す。


 二人の技師がトマウを見るが動こうとしない。トマウの部下ではないからだ。


「早くしねぇか!」というケスパーの言葉で二人はようやく機械類の方へと走り、何かを書き込んだり、スイッチやレバーを操作している。


 すぐに水晶画面に映る像が切り替わる。一つは真っ暗で何も見えない。一つはメルキンの背中を映している。一つは下らない落書きが描かれている。


「今調整するので少しお待ちください」


 技師がそう言った時には既にトマウは飛び出していた。ケスパーが何か言っていたが話している暇はない。

 トマウは水晶画面に映っていた落書きに見覚えがあった。


 両岸と中州を行き来する方法は三つある。一つは船であり、一つは橋の表裏であり、一つは地下道だ。ただし西岸方面は封鎖されているだけでなく、完全に水没している。東岸とて明かりもないので行き来する人間はまずいない。トマウ自身特に用もないので近づかない。

 つまり人目につかずに河を渡るのにうってつけだ。


 どうやらメルキンの選んだ選択肢は『一刻も早く逃げる』だったらしい。

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