プロローグ
12月24日、東京某所、日本がクリスマス気分で浮かれている中、受験生の誠は2階の自室で一人机に向かっていた。ふと窓から外を覗くと真っ暗で、雪が降っている。見ると、時計の針は12時を指していた。明日は学校もある。遅刻したらまた先生いに怒られるし、寝てしまうか。あ、でも風呂にはいらないと。誠はパジャマに着替え、入浴をしに1階に降りた。
誠が風呂から上がったころには、既に深夜1時を越していた。誠は一つため息をつき、床に就いた。
耳をつんざくようなすさまじい高音が、近くで鳴っている。おそらく目覚まし時計の音だろう。あまり気持ちのいい朝を迎えられなかったことに不快感を抱きながら、目覚まし時計のスイッチを切りに誠はベッドを離れた。
目覚まし時計を手に取り、スイッチを切るも、誠は彼の身に起きている異変に気が付いた。自分が何かに恐怖と懐かしみを覚えているのだ。何か変わったことがあるかというと、別にそういうわけでもない。
時刻は5時半。学校の登校時刻は8時半だから、遅刻寸前というわけでもない。何故だ?考えれば考えるほど今誠が抱いている感情の謎が広がるばかりだった。
張り巡らせていた思考を一旦止め、学校に行く用意をしようとしたとき、誠はまたある異変に気が付いた。音がないのだ。周りがまったくの無音なのだ。大都会東京なら、朝5時でも車の音一つぐらいしそうなものだが、それすらもないのだ。鳥の鳴き声も、人の足音も、何も聞こえない。昨日の夜も確か静かだったが、ここま静かではなかった。
誠が状況を把握しようと部屋の中をぐるぐる歩き回っている時だった。右手にピリッと、痛みが走った。
「あいてっ」
予測していなかった手の痛みに、思わず声を上げ、誠は手をさすった。すると手の平がゴリゴリしているのに気付いた。
「え?」
右の手の平をみると、人の顔が付いていた。
「うわぁあ!」
誠はあまりのことに声を上げた後、恐る恐る、自分の手の平を見た。顔は80代の老婆といった感じだ。じーっと誠が凝視していると、やがて老婆は顔に笑みを浮かべながら
「Happy your Xday」
そうつぶやいた。すると、誠の何が何だかわからないという様子など知ったことかといった具合に、高笑いを始めた。
突然、誠の目の前が真っ暗になった__
これが全ての、始まりだった。