第10殺人『マルコ・バンビーナの勇気』
巨斧を勇ましく振り上げる牛の風貌を捉えた怪物と仮面の冒険者が教会中央にて対峙する。
薄暗い教会内部では《 L v 1 》のクラスに属するアーノルド、同じく《 L v 1 》のビビアナの二人はミノタウロスとの激戦を繰り広げていた。
「おらぁぁぁッッ!」
仮面の冒険者は持ち前の俊敏な動きを駆使し、両手に握られた二本の短剣でミノタウロスの強靭な肉体に少しずつ傷を刻んでいく。素早く軽快な攻撃は着実にミノタウロスにダメージを与えていき、ミノタウロス側からの攻撃も上手く回避している。
怪物の肉体に浅い傷が刻まれていき、傷口から血が噴き出し、白い仮面に返り血が跳ねる。
血で汚れることも当の本人は気にするどころか、攻撃の手を早めていく。
しかし《 L v 1 》が所持している短剣の切れ味では、目の前に聳え立つ強靭な体躯にかすり傷を与えるのが限界であった。
これ以上は埒があかないと感じたアーノルドは攻め方を変えることにした。
一旦、ミノタウロスと距離を取り、助走をつけて背後にあった古びた席を踏みつける。
それを踏み台にして怪物の頭上より遥か上空に跳躍すると、アーノルドは掌をミノタウロスに向けて、必殺技とも言える魔法を唱えた。
「《雷魔法》"黄色流し"ッ!!!」
「ブルォォォオッッ!!」
アーノルドの掌から発生した黄色い渦。
その波打つように激しい渦は大きく広がり、大量に放出された雷がミノタウロスに降り注いだ。
バチバチと弾ける音がミノタウロスの肉体から聞こえてくる。怪物は大口を開けて叫び、暴れた。
"黄色流し"とは膨大な質量の魔力を《雷》という物質に変換させ、それを対象の肉体に流し込む魔法。
魔法と言うには少しばかり力押しだが、この魔法が成功した場合、対象の筋肉は痙攣を起こし、肉が引き裂かれるほどの激痛を味わうことになる。食らったあとも痺れて動くことも困難、これだけ聞けば素晴らしい魔法だが、同時に大きな負担を背負うことになる。
「ーーーーーーがぁぁ!!!」
アーノルドは着地に失敗し、そのまま地面に叩きつけられた。
すると、彼の右腕は真っ黒に焦げていて、痛そうに這いずりながらうめき声を上げている。
怪物は雄叫びを吠え、凄まじい咆哮が風圧が生み出し、アーノルドとビビアナを威圧する。
体中の毛が逆立ち、血液が熱く煮えたぎるような感覚に陥った。
威嚇する怪牛はアーノルド達との距離を詰めていき、その骨にまで届く重い足音が地面を通して伝わってくる。
ーーーー全身が硬直し、思考が停止する。
その一瞬の停滞が隙を生み、ミノタウロスの丸太のように太い右腕が頭上から降ってくる。
「がぁッ!」
「アーノルドッ!!」
「ブルォォォッッーーーーーー!」
ーーーーーー顔面に激痛が走る。
ミノタウロスの巨大でゴツゴツした拳がアーノルドの顔に叩きつけられる。
その衝撃によって割れた仮面の破片が顔に刺さり、彼の顔から血が噴き出す。
「がぁぁぁぁぁぁ!痛ぇぇぇぇえ!!」
両手で顔を押さえながら悲鳴を喘ぐアーノルドに追い討ちを仕掛けるように、ミノタウロスは手を伸ばした。
抵抗する暇もなく掴まれ、そのまま壁に投げつけられる。
「がばぁ………」
「よくも……アーノルドを!!」
私怨に満ちた目でミノタウロスを睨み付けたビビアナは、杖を左手に持ち替え全身の魔力を杖の先に集中させるイメージを頭の中で連想させる。
「焔の神よ、我に魔の力をお与えくださいーーーーーーーーーーー」
「『炎蜥蜴の息吹』ッッッッッ!!」
ビビアナは左手に持っていた杖を怪牛の方向に向け火炎系の短文魔法詠唱を唱える。
杖の先から赤い魔法陣が浮き出し、周囲の温度が次第に上昇していく。
魔力が杖の先端に集中し、そこから炎が生成される。
そしてーーーーーーーー発射するッ!!
「ブルォォォォォォォッッッーーーー!!」
「はぁぁぁぁーーッッ!!」
杖の先から吹き出た炎の粒子の集合体はミノタウロスの胴体に直撃する。
炎がミノタウロスに絡み付き、肉体を燃やし、細胞を熱し、魔力を焦がす。
ビビアナは全身の魔力を一気に放出する感覚で炎を放つ。
「……そんな!!」
火炎に焼かれるミノタウロスは腕を激しく振り上げ、纏わり付く炎を蹴散らしていく。
一瞬で炎が消し飛ばされた光景を見て、渾身の魔法が効かなかったことを酷く痛感するビビアナ。
少し考えてみれば、これは当たり前のことだ。
Lv1の魔法などーーーーーーーLv3の魔獣に効くわけがない。
「全ッ然……効いてねえな……」
「!!」
弱々しい声のアーノルドが再びビビアナの目の前に立ち尽くす。
先ほど、顔面を殴られ壁に投げ飛ばされたアーノルドはもう戦闘不能かと思っていた。
だがそのボロボロになりながらも、戦おうとする意志が感じられる背中を見て、ビビアナは少し安心した。
「その怪我で大丈夫……なの?」
「正直大丈夫じゃないなぁ……全身の骨に皹が入ってやがる」
割られ露になった顔を布で覆いながら、ふらりと立ち上がる。
顔を覆っている布からは血が滲み、痛々しい状態へと変貌を遂げた。
その痛々しい姿を見たビビアナは、助けられなかった自分を責める。
「ブルォォッ、ブルォッ、ブルォォ………」
ミノタウロスは鼻息を荒くさせ、全身を小刻みに震えさせる。
全身に負った火傷や焦げ痕などもろともせず、怪物は右腕を地面に叩きつけた。
衝撃で地面が砕け、無数に飛び散る大きな石礫がアーノルドの肉体に直撃する。
石が当たり皮膚から血が滲むが、アーノルドは石礫の回避に集中する。
ーーーーーーーーーー突如、巨大な斧がアーノルドの頭上に降り注ぐ。
「アーノルドッッ!!避けて!!」
ビビアナは身に迫る危険を知らせるため、アーノルドの名を叫んだ。
「……は?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ークグラ村 東側
「あらよっと♪」
ミノタウロスの鉄拳を軽々と避けるアケチ・ミズキ。
右、左、右、左、とワンパターンな攻撃順序に青年は飽々としながらも余裕で回避していく。
「ブルォォォォォォォオ!!」
ミノタウロスの威嚇に少し驚き、不覚にも回避のリズムが少々崩れてしまった。
隙をつくってしまった結果、怪牛の右腕は青年の腹部に直撃し、遠くまで吹っ飛ばされる。
そのまま地面に叩きつけられるも、青年は瞬時に手のひらを地面に着けて転倒を避ける。
腕の筋肉だけで身体を持ち上げ、くるりと一回転し、余裕といった表情で体勢を立て直す。
「いったいでござんす~♪」
口では痛いと言っているものの、彼の言動と態度からは微塵も痛そうには見えない。
彼には神経というものが在るのか、そもそも『痛み』という概念を持ち合わせているのかすら周囲には疑問であった。
そんな彼の異常性を改めて痛感したアリスたちを余所に青年も反撃に移る。
「ぬらっと!」
青年は颯爽と飛び上がり、高い距離を跳躍する。
「はぁ!?アホか!」
青年の予想外の行動に野次を飛ばすマルコ。
あの巨大な怪物相手を前にあの高さの跳躍をするなんて、はっきり言って自滅行為だ。
空中では身動きがとれないどころか、相手にとっても絶好のチャンス。
ミノタウロスは両手を使い、宙を舞う青年を掴むべく手を伸ばす。
「《アケチスキル》『流星の蠍』!!」
「ブォォォォッ!?」
両足を鞭のようしならせ、そのまま向かってくる怪物の両手を思い切り叩く。
両踵落としに近いその攻撃、無論空中では足場がないため、力が入らない。
だがアケチミズキの驚異的な筋肉とバネがあれば、空中でも怪物の手の骨を砕くなど造作もないことだ。
「ブルァァァァァァァアアァアアッッ!!」
「よっと」
華麗に着地を終える青年。
両手を上げて背筋を伸ばす様は体操選手のようだ。
このパターンに度々付き合わされるマルコは「毎回毎回……変なポーズをしないと
気がすまねーのか!?」と毒づく。アリスも「相変わらずだなー」と苦笑いを溢す。
「……ミスター牛くんの心はそう簡単には折れたりしないよねぇ♪まったく『モー』!牛だけに!そう、牛だけにねっ!?」
「ブォォォォォォォォォォォオォォォォオォッッ!!!」
両腕を折られ、ぷらんぷらんと揺らしている腕など気にする様子もなく、ミノタウロスは全力疾走で青年に襲いかかる。
「あれ、怒っちゃった?冗談が通じないなぁ♪カルシウム取ったほうがいいよ!あ、でも牛って牛乳出すよね…その張本人がカルシウム不足ってどうなの?牛乳出してる場合?」
訳のわからない言葉を延々と喋るアケチミズキ。
彼の凄いところは、喋り続けながらあの身のこなし、そしてあの技術、そして回避。同じことを同時に行うその器用さ。
マルコ自身も神経質で、器用な方ではあるが、青年のはもはや偉業と言ってもいいだろう。
ミノタウロスは這いつくばりながら青年に突進し、岩をなぎ払うが、彼には全然当たらない。
「………弱いな」
「え!?」
隣でボソッと呟いたマルコの発言に不信感を抱くアリス。
「あれのどこらへんが弱いの!?たしかにミズキは強いけど……だからってミノタウロスが弱いとは…」
「ちげーよアホ」
耳元で騒ぐアリスに一発重い頭突きを食らわすマルコ。その痛みに耐えきれずごろごろと
地べたに転がり、悶え苦しむ少女を無視し、先ほどの発言の意味を解説する。
「あいつ、Lv3にしちゃあ…弱すぎねぇか?」
「へ?」
アリスはマルコの驚くべき言動を聞いて思わず振り向いてしまった。
「俺ぁ、人生でこれ以外に2回……Lv3の魔獣を見たことがある。でもあの牛野郎はそれには到底届かねぇ……良く言ってもLv2の中の上だな」
最初は何かの冗談かと思ったが、彼のこの真剣な顔ではとても冗談とは思えない。
それに、この過酷な状況下でそんな余裕を見せるほど、マルコという男は強くも
ないし、ふざけるような人間でもない。アリスは疑ってしまった罪悪感を飲み込み
彼の話を真剣に聞く。
グサッ
生々しい音がアリスとマルコの耳に入り込んできた
マルコから借りた小刀が怪物の口元を切り裂いた
「ブルォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!」
「あー切っても叫ぶんだ…」
飛び散る鮮血、アリスとマルコの顔は真っ青になる
「ブルォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
再び雄叫びを上げ、ミノタウロスは青年目掛けて拳を振りかざす
「うぉっっっ!!!!!!!!!!」
ミノタウロスの拳が青年に当たり、
青年は地面に叩きつけられた
「ゲホッ…ゲホッ………」
青年は大地に血反吐を浴びせる
「ミズキィ!!!!!」
「アケチッッッ!!!!!!!」
青年が喋っているうちに、ミノタウロスは距離を詰めてきた…
「ブルォォォォォォォォ!!!!!」
「遅い遅い♪」
青年は口から血を垂れこぼしながら避けていく
「ブルォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!!!!!!!!!」
ミノタウロスは興奮状態だ
そしてミノタウロスは近くの巨大な岩を持ち上げ…
「ブルオアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
青年に向かって投げた
青年は口の血を袖で拭き
ある構えをする
刀を持った両手を後ろに回し
両足を広げる
そして青年は深く深呼吸し
「《アケチスキル》『断絶鴉』ッッッッッ!!!!!!!!!!」
「ッッッッーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
あの巨大な岩が真っ二つに切断される
「す…すげぇぇ……!!!!」
マルコはその異様な光景にもはや感動すら芽生える
「ぶ………ぶ……」
「ブルォォォォオオォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォ
ォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオ
ォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォ
オォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォ
オォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオ
ォォォォォォォォオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!!」
「おいおい……やべぇって……」
「アイツマジで怒ってんぞ…」
怒り狂ったミノタウロスは青年の方に猛突進……
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と…思いきや、ミノタウロスはマルコとアリスの方に方向転換
「やべぇぞ…ミノタウロスが…」
「ミ…ミズ…キ…」
そしミノタウロスは拳を振り上げ
アリス達に拳を振り落とす
「ミズキッッッッ!!!!」
「助けてっっっっ!!!!!!!」
その瞬間、ある影がアリスの目の前に現れる
それは明智水樹
殺人鬼であった
「かはっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
青年は強く地面に叩きつけられた
大地が揺れるほど強い衝撃
青年の口からは信じられないほどの血が吹き出される
「グホッ………グホッ……」
「ミズキッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「アケチッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
ミノタウロスは青年に歩み寄り
怪物は青年に拳を喰らわす
「があぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!」
モンスターの猛打が青年を襲う
「ブルォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!」
「ぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!!!!!!」
ミノタウロスの鉄拳が青年にクリンヒットした
そして2回、3回、4回と、ミノタウロスの猛打の嵐は止まない
「かはッッッッ!!!!!!!」
青年から飛び散る鮮血
青年の悲鳴
「お…おい…アケチ…」
「嘘……だろ…?」
「いつも人を小馬鹿にしてるお前が……」
「誰よりも強かったお前が………」
「死ぬわけないよな………?」
だが青年の声はもう聞こえない
ミノタウロスの拳は青年の血で真っ赤に染め上げられた
青年は何も言わず
ただただ……沈黙する…
ミノタウロスは攻撃を止めない
「ミ…ミズキ……」
彼女の声は…もう彼には届かない…
「その汚い手をどけろぉぉぉぉぉぉぉ牛野郎ッッッッ!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!」
マルコは怪物目掛けて突進した
折れているかもしれない右手をお構い無しに走る
「マルコ!!!!!」
アリスはマルコを呼び止めようとするが、マルコは聞く耳を持たない
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!!!」
だがマルコはミノタウロスの攻撃を受ける
「ぐほっっっっ!!!!!!!!!!!!」
マルコは数百メートル吹っ飛ばされる
「ゲホッ………クソ痛ぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
ただ殴られただけなのに肉体が悲鳴を上げている
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっっ!!!!!!!!!!!!」
「ちくしょおぉぉぉ!!!!内臓がぐちゃぐちゃだ!!!!!!」
「アケチ……お前……」
「こんな奴と…戦ってたのかよ……」
「俺は……ゲホッ…一発で虫の息だってのに…ゲホッ…」
マルコは大量の血を口から溢す
「アケチ…………」
ミノタウロスは青年を殴り続ける
「アケチ…………」
「アケチ…………」
あの憎たらしい顔が目に浮かぶ
笑えてくるぜ………
また………
お前のあの笑顔が見たい…なんて……
「死ぬなっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
マルコは叫んだ
「死ぬんじゃねぇよ!!!!クソミズキッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
マルコは自分の本当の思いを打ち明けた
そしてポケットの中から何かを取り出した
そう
それは
二丁拳銃
「ははは………手が震えてやがる……」
「昔から……銃を握ると……震えちまう…」
足や手、身体中が震えている
「俺の仲間に!!!!!手を出すんじゃねぇぇぇ!!!!!!!!!」
震える手が止まり、拳銃をミノタウロスの後頭部へと向けた
「喰らいやがれっっっっ!!!!!!!!!!!!」
マルコは神経質な男だ
そして器用で女々しい男である
だが彼にしか出来ないことがあった
そう
それは
「『外れない弾丸』-ワンダーザップ-!!!!!」
2つの拳銃から二発の弾が発射された
その弾はミノタウロスの後頭部へと向かう
「俺の弾丸は外れない………」
「俺の弾は………」
「命中率100%だ!!!!!!」
弾丸はミノタウロスの両目を撃ち抜いた
「ブルォォォォオオォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォォオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ミノタウロスの悲痛の叫びが村中に響く
「よくやったね♪」
「は」
聞き慣れた陽気な声が耳に入り込んできた
「ま バンビーナちゃんにしては上出来かな♪」
マルコの目には映っていた
さっきまで死体同然だった
アケチ・ミズキの姿が
「アケチッッ!!!?」
「ミノタウロス……」
「こんなに楽しい殺し合いは久しぶりだよ」
「ありがとう♪」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
青年は笑顔でミノタウロスに言った
そしてその瞬間、ミノタウロスの首は切断されていた
赤い血がアケチ・ミズキを包み込む
アケチ・ミズキは
ミノタウロスを最後まで…………
笑顔で見送っていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
「テメェ全然ピンピンしてんじゃねぇか!!!!!!!」
マルコは青年に寝た状態で怒鳴りつけた
「はははははは」
「これは血じゃなくてトマトだよ♪」
「今日のお昼ご飯に取っといたんだけど…」
「昼飯に大量のトマトて!!!」
青年とマルコのコントは続いている
「うーん…でも…」
「マルコちゃんは動けないし……ここで休ませとく?」
「あー……それなら大丈夫だ…」
青年はマルコの発言の意味が分からなく首を傾げる
「おーい…アリス……頼む…」
「わ……わかった…」
アリスはマルコに歩み寄り腰を下ろす
「ふう…………」
「『完全回復』-リカバリー-」
アリスの手元から光が漏れ出す
ほんわりした光はマルコの身体を包み込んでいき…
「!!!!!!!!!!!!」
「傷が……!!!!!」
マルコの身体中の傷が治っていく
ミノタウロスに掴まれ、青ざめていた右手も治っていく
「サンキュー」
マルコは元気になった様子で起き上がる
「すごいねー♪」
「回復魔法って見たことないけど…」
「こんな凄いモノなんだね♪」
青年はアリスの魔法に感心する
「いや…コイツのは魔法じゃねーよ……」
「?」
「コイツのは異能力だよ」
「異能力?」
見ていたアニメでよくそんな単語が出ていた……
異能力なんて…異世界に存在するのか?
「異能力って……何?」
「はあぁ?」
マルコは呆れた声を出す
「お前…何も知らねーんだな……」
「異能力ってのは…魔法とは違う…人が生まれ持った特殊能力の事だ…」
「魔法は魔力を使うが………異能力は精神力を使う……」
「アリスは『完全回復』-リカバリー-の能力者だ
……ちなみに能力者は他にも大勢いるぞ」
「へぇ♪」
異能力か……
なんかおもしろそーだな♪
「ミズキ……」
アリスが何か申し訳なさそうな顔をしている…
「ミズキ……さっきはごめん…」
「え!?」
何故かわからないが、涙を流し謝罪しているアリス…
「なんでアリスちゃんが謝るの!?」
「だって……私がさっき…"助けて"って…言ったから……ミズキが……」
「……………」
そうか……
僕はこの子をずっと子供だと思っていたけど…
この子はこの子なりに考えてるんだ………
「アリスちゃん♪」
「え?」
その時、青年はアリスを抱きしめた
「おまっ!!!!!!!」
マルコは青年がアリスを抱きしめるのを見て赤面する
「ミミミミズキ!!!???」
アリスも顔を真っ赤にさせ、頭から湯気を出している
「アリスちゃん……」
「僕…君と出会った時…言ったよね?」
「君を死なせない……って」
「あ…」
思い出した
ミズキと最初に出会った
あの日のこと
「アリス…」
「君を一生守るよ」
いつもの陽気な声とニコニコした顔が
今では真剣な顔つきに…
「ミズキ……」
自然と心がほぐされていく
あたたかい気持ち…
「ミズキ……ありがとう」
涙が目から溢れ出てくる
「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!!」
突如、ミノタウロスの鳴き声が聞こえてきた
教会の方向からだ
「たしか……あそこは…」
「アーノルド達の……」
青年達は急いで教会に向かった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
ー
ー教会ー
「アーノルドォォ!!!!無事か!!!!?」
アリス、マルコ、ミズキは教会の中に入った
「おい……アーノルド……?」
返事が無い……何故だ?
戦っている音も聞こえない……何かがおかしい…
「おい!!アーノル……」
その時、マルコの足に何かが当たった…
何か重い物……そして大きい物だ…
恐る恐る下を向くと…………
アーノルドの死体だった