表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人鬼異世界転生!?  作者: 多勢翔太
異世界ファンタジー
10/13

第11殺人『トニーの覚悟』

     




「アーノルド!!」


薄暗い教会内部。


その床に転がっている大きな物体はアーノルドだとわかった頃には、その肉体は既に冷たい肉の塊となっていた。


いつも顔を覆い隠している仮面は粉々に割れ、その露になっている顔面に破片が突き刺さっている。

白目を向き、大きく開けられた口。死を悟ったとき、恐らく喉が張り裂けるほど叫び声を上げたのだろう。

その痛々しく、見るに耐えない彼の死に顔を、アリスとマルコは黙って目を背けた。



「なんでお前が………」


「アーノルドォ……」



アリスはその場にへたり込み、両手で顔を覆う。

仲間の死が信じられない、といった様子で涙を流す少女の姿を微笑ましく眺める青年。




だがその後すぐに視線をアーノルドの死体に戻し、彼に無残な死にざまをもたらした原因をじっくり観察する。




すっと腰を静かに下ろし、アーノルドの首もとに手を添えて一応生死を確かめるが、案の定生きているはずもなく、青年は黙って首を横に振った。




「やっぱ死んじゃってるねぇ……♥」




服の上からでも分かる数ヶ所の打撲、切り傷。

血が滲み赤い斑点が服の模様のようになっていて、そしてぱっかり開いた腹部。



腸が丸見えになり、大量の血が床に水溜まりを作っている。

これが彼から『命』を奪い去った最大の原因だろう。

床に広がる血と、生臭い匂い、そして、温かそうに此方を覗く臓物。



青年の気持ちは昂り、激しく欲情した。

固く硬直する股関を押さえ、青年は垂れてくる涎を手の甲で拭いた。



「ーーーーークソッ!!」



マルコはアーノルドの死が信じられず、悲しみと怒りを込めた拳を地面に叩きつける。

いつも軽口を叩き、揚々とした態度とあの余裕。彼の印象からは『死ぬ』なんて状況は予想出来ず、マルコから冷静さを失うほどだった。




だが直ぐ近くから聞こえてきたうめき声に気付き、ふと我に返る。数メートル先の壁に視線を移すと、壁にもたれ掛かるビビアナの姿があった。



「ビビアナッ!!」



マルコは壁にもたれ掛かるビビアナに近づき、軽く肩を揺さぶる。



「うぅ……マル…コ…?」



弱々しい声を絞り出したビビアナを心配するようにアリスはビビアナの怪我の状態を確認する。

頭部から血が出ていて、恐らく軽い脳震盪だろう。



「あたし……あたしのせいで……アーノルドが………」



ビビアナは涙を瞳からポロポロと溢れ、両手で顔を塞ぎ涙を止めようとしている。

震える身体を押さえ込むように踞る彼女の姿が……とても悲しい光景に見えた。

マルコはこのような場合、どう行動したらいいのかわからない、といった顔で此方を見てくるが、正直青年にだってわからない。



「ブルォォォォオオォォォォォォッッッ!!」

「うわっっ!」



ミノタウロスの咆哮の凄まじい風圧にマルコは体勢を崩してしまい固い床に膝を附く。

だが青年だけはその風圧にも耐え、余裕の笑みでその場に立ち尽くす。


視線を教会の奥に移すと、そこには村人の死体を喰い漁る6メートル以上の巨体にまで成長したミノタウロスの姿があった。




「は!?……なんだよあのデカさ…」




マルコは震える声で呟くように言葉を漏らした。



ーーーーーーーーー6メートル。



過去の記録では、ミノタウロスの平均的な身長は2メートル弱。最大でも3メートル。

今、彼らが目にしている怪物の姿はまずありえない大きさだった。



そもそも、おかしな点はそこだけではない。

つい先ほど見たとき、ミノタウロスの身長は精々3メートル。

だが今現在、怪物は大きくなり巨大化している。



どういった経緯で魔獣が成長したのか、ビビアナに聞いてみたいところだが、彼女のあの様子ではそれは無理なようだ。



青年は質問する相手をマルコとアリスに変えようとしたが、彼らも質問に答えられるほど、精神に余裕を持っていないようだ。




「なんでデカくなってやがんだよ!!あの牛野郎は……!」 



マルコは一旦、この非常に危険な場所から一刻も早く離れるため、後ろに一歩ずつ後退る。

だがその獲物が逃げようとしていることに勘づいた怪物は、次の行動に身を移す。



「ブルォォォォオ!」



赤黒く変貌したミノタウロスはマルコ達に突進してきた。

ミノタウロスとは思えない素早さに対応が遅れ、マルコは取り乱した。

銃を抜き取る手が滑り、床に落としてしまうほどに、彼の精神も大きく乱れていた。



「は、は、は、は、はなぅうぁぁぁぁぁぁっ!?」



ーーーーーーー速ッッ!?


ミノタウロスとは思えない俊敏な動き。

踏み出す一歩は大きく、たった数歩地面を踏んだだけでマルコの目の前にまで迫り、怪牛は握っている巨大な斧を思い切り降り下ろされた。マルコは恐怖で筋肉か硬直し、逃げることの出来ない状態になっていた。



「ーーーーーーーぁ」



ーーーーーその瞬間、マルコは死を悟った。



刻々と迫ってくる血塗れの斧の刃を見た途端、その血が、死んだアーノルドの血だと気づいた。

恐らく、その刃によって、彼の腹は捌かれたのだ。

次は自分、簡単なことだ。


マルコは、腹から込み上げてくる恐怖心と足がすくんで動けない悔しさで瞳に涙を浮かばせた。



ーーーーー次の瞬間、目の前で、大きな火花が広がった。



「まだ死ぬには早すぎるんじゃない?マルけんボンバー」


「……へ!?は!?」


目を瞑り、死を覚悟したマルコの目の前には、怪物の降り下ろした斧を、軽々とその小刀で受け止めるアケチミズキの姿があった。



「ブルォォ………」


「あらあらあら、お仲間殺されて激おこぷんぷん丸なの?でもねでもねぇ……」



青年はけらけらと笑いながら、ミノタウロスの顔に自分の顔を近づけ、瞳を覗くように言葉を言い放つ。



「ーーーーー弱ぇお前らが悪いんだよ♪」

「ーーーーーーーブルゥ!!」



ゾクリと、悪寒が背中を撫でた。

その場の全員が感じたこの感覚は、いつも彼から放たれている暖かく柔らかな雰囲気とは違い、もっとぴりぴりとした………まるで針に刺されるような、そう、一言で言い表すならば、



ーーーーーー圧倒的殺意。



真正面で青年の殺意を向けられた怪物は気圧されるように後ろに下がる。

そのミノタウロスが怯えている瞬間を狙って、青年は腰に差しておいた小刀を瞬時に抜き取り、素早く懐に入り込む。

がら空きになった怪物の腹にアケチミズキの二刀流が見事に炸裂し、盛大に血が噴き出す。



「ーーーーーーーーブルゥ!!」



赤黒い血が壁にまで跳ね、2枚の刃は惨たらしくミノタウロスの腹部を捌いた。

内臓が床に散らばり、青年は落ちた臓器を思い切り踏みつけた。

ぐちょりと嫌な音が響き、冒険者といえど耐えきれないアリスとマルコは思わず耳を鬱いだ。



ミノタウロスは頬、首筋、腹部、右足首、左足首、右腕、左腕……様々な部位を小刀2本で深く、そして強く斬り込まれる。


「ブルォォォォッッッッ!!」

「サンマの如く~~~!!」


もう一度二枚の刃をミノタウロスの胸板に重ね、強く斬り込む。

傷口から紅く、黒々しい血液が辺り一面にばらまかれ、青年の目に血が飛ぶ。



「うぎゃあ~めんこめんこめめんこ~~!!」

「アケチィ!!」



魔獣の血液が目に染み込み、叫び声を上げながら床に転がり足をバタバタされる青年。

予想外の展開に思わず彼の名を呼ぶマルコとアリス。

だが青年の叫び声によってその呼び掛けはかき消され、彼の耳には届かない。



「はわ、はわわ、おめめがチミるぅ…」



その隙をついて、ミノタウロスは床に寝転がる青年の腹に斧を思い切り降り下ろした。

案の定、彼は視界が利かず目の前が見えない状態だ。

故に彼に避ける手段も余裕もなく青年の腹は斧によって貫かれた。



「ぽぎゃッッーーーーーーーーーー!?」

「ミズキッ!!」

 


斧は青年の腹を痛々しく食い込み、斧の刃が腹の肉を削ぎ落とす。

腹の傷から血が教会中に飛び散り、ミノタウロスの顔は青年の血で赤く染まっていた。

泡を吹きながら白目を向き始める青年の姿が、アリスとマルコの脳裏に焼き付いた。

笑顔で魔獣を薙ぎ倒す彼の姿とは比較にならないほど無様で、見るに堪えなかった。



「めりめりめりめりめりめりめりめりめりめりめり~~~~?」

「ーーーーーーッッ!!」



斧が青年の腹にどんどん食い込んでいき、何かが千切れていく音が何処からか漏れる。

血の泡が口から吹き、青年は白目を剥きながら足をバタつかせ、必死に抵抗する。

いつもならここで反撃に出る青年だが、一向にその様子が見られない。

苦しそうに足を床に叩きつけ、手をバタバタと無造作に振る。



「………おい、嘘だろ?」



「ふぎゅぅぅぅぅぅ………」



「さっき!!同じ牛野郎をぶっ倒したじゃねぇかよぉ!!」



「かひゅ、かひゅ、かひゅひゅひゅぅぅ……」



「そんなお前が!!俺の腕をぶった斬ったアケチが!!アケチミズキが!!そんな簡単にやられる、はず………」



マルコは叫んだ。

虫の息の青年に向かって、罵声にも近い言葉を吐き、同時に声援のような思いも込めていた。

アリスは隣で震えるだけで、現実を直視出来ていない。



ーーーーーこんな呆気ない終わり方を、あのアケチミズキが本当にするのか?



アリスとマルコはそんなことを考えながら、震える足を前に運び、仲間を殺そうとしている怪物相手に立ち向かおうとしていた。



だがその一歩が踏み出せない。


仲間を助けたい気持ちは本物のはずなのに身体が恐怖に支配され、思うように動いてくれない。



「あひんっ、あひひん。□♂☆€∞§んが。」



聞くに堪えない喘ぎ声が石製の床を伝って足にまで響いてくる。

青年は唾液と血液が混ざり合った液体を口から垂らし、白目を向いている。

次第に青年の声は途絶えていき、身体は動かなくなっていった。

マルコとアリスはうっすらと開けた瞳からミノタウロスの腹部を直視する。



「ッッーーーーー!」



先ほど青年が盛大に切り裂いたはずの腹部が閉じている。

綺麗に修復され、さっきまで切られていたのが嘘のようだ。

だがただ治っただけではない、ミノタウロスの筋肉が段々巨大化、というよりは膨張していき、ミノタウロスの原型を次第に崩していく。


「再生能力………ミノタウロスが!?んなの聞いたこと……」


アリスとマルコは震える声を漏らすと、ミノタウロスは視線を此方に向けてくる。

怪牛の迫り来る、ずしりと重い足音は、彼らの身体に纏わりつくようにプレッシャーを与えていた。

その威圧感と恐怖感の狭間に立ち尽くす二人は、足を動かすことが出来ず、目の前の怪物から逃げることは不可能だった。



「……アリス、俺が……合図したら後ろの扉まで走れ」

「……でも、ミズキが……!!」

「ここで全員死ぬ結果だけは避けんだよ!!考えるのは生き延びてからだ……!!」

「………ッッ!!」



マルコの辛辣な言葉に苦しそうに頷き、黙って納得するアリス。

足の震えは止まらないものの、固い決心をするマルコ。


だが二人の小さくも強い勇気は、一つの圧倒的な"恐怖"の前では全くの無意味。



「ーーーーーーーブルォォォオォォォォォォォォォォォオオォオォォォッッッ!!」

「「ーーーーーーーッッひ!!」」



獣の臭い。血生臭い。死の臭い。恐怖の臭い。

怪物の咆哮は直に大砲でも撃ったような迫力と風圧を二人に浴びせ、冒険者二人が腰を抜かし、戦意喪失するには十分な恐怖を与えた。



「……はひっ、……ひぃ………!!」



全身の力が抜け、二人はその場にしりもちを着いてしまう。

逃げようとしても、足が思うように動かず、代わりに乱れた呼吸が口から漏れた。

地に這いつくばる姿勢で逃げようとするアリスだが、ふいに視線の端に映った無残にも地に転がる青年。

それを見て、ある思いが脳内を横切る。



ーーーーーー本当に彼を置いていくのか?



彼が命懸けで自分たちを救ってくれたのに、此方は見捨てて逃げるのか。



そんなことをして、今後冒険者などやれるのだろうか。



ーーーーーーー否、そんなことをできるはずもない。



「………やっぱりワタシはミズキを助けたい」


「……は……はぁ!?ざけんな!!現実見ろ!!今の俺たちが敵う相手じゃれっん♂¥⇒」



隣で話していたマルコは勢いよく吹っ飛び、近くの壁に激突した。

頭から血が溢れ、あまりの激痛に泣き叫ぶマルコの姿がアリスの視界に写った。



一瞬のことで何が起きたのかわからず、アリスは反射的にマルコが吹っ飛んだ反対方向を見ると血管の浮き出た巨大な腕がそこにあった。



その腕がミノタウロスの巨腕だと気付き、すぐにアリスの首にまで迫ってきた。

アリスは小さな悲鳴を上げた途端に、細い影が立ち上がった。



「……アリスちゃん、そこのへなちょことを叩き起こして、ビビアナと三人で逃げる準備をして」



「……へ?」



目の前に立つのは先ほどまで完膚なきまで蹂躙されていた青年の姿があった。

何故立つことが出来るのか、なんて安っぽい疑問などもはや抱きもしない。

ふらつきながらも立ち、薄い背中からは熱気が漏れているようだ。



血を失い過ぎた青年の顔はとても酷く、白を通り越して黒く変色していた。

左手が押さえている腹部からは白いシャツに染み出す真っ赤な血が未だに流血を繰り返している。

青年は空いている手で落ちていた小刀を拾い上げ、ミノタウロスの腕を串刺しにした。



「ブルォォォォォォォォォォオッッ!!!」



「あと5分、時間を稼ぐからその間に二人の傷の治療をして。逃げられる状態まで回復したらとんずらよろしく」


「ま……待って!!」


青年はアリスの話にも耳を傾けず無視してミノタウロスに突っ込んで行った。

マルコから借りた武器の小刀は二本とも今の青年の手元にはない。

一本は砕け散り、もう片方はミノタウロスの腕に突き刺さったまま。



そして普通なら死んでもおかしくはないほどの怪我、武器もない、その最悪とも言える状態でも尚、戦うことを止めない青年。アリスは走り出す彼の背中に手を伸ばすが、誰も止めることは出来ない。



「シンプルに蹴り、からの連続パンチ~☆」



「ブホォォォッッ!?」



重症を負っているとは思えない俊敏な動きでミノタウロスの背後に周り込み、強めの蹴りを右ふくらはぎに叩き込む。そのまま怪牛は体制を崩し、後ろに倒れるところに青年はすかさず攻撃を続ける。

硬く握った拳を高く突き上げ、巨大なで分厚い背中を叩いた。



ミノタウロスは宙を舞い、そのまま床に落下して直撃する。

重さと重力によって床は半壊し、怪牛は床に沈む。



「《アケチスキル》ーーー【紅脚】ッ!!」



まだ攻撃の手は緩めない。

青年は床を踏みつけ、高く跳躍するとそのまま回転を効かし勢い、遠心力を纏いながら渾身の蹴りをーーーーー、



「ありゃ?」



青年の足は届かず、華麗に空振りする。

何故青年の蹴りがミノタウロスに当たらなかったのか、それは怪牛によって腕を掴まれ、空中を浮いている状態だか

らだ。青年が飛び蹴りをする直後、ミノタウロスは腕を掴み、攻撃を阻んだのだろう。青年はブランコのように揺れる自身の身体を一定のリズムな乗せ、勢いをつけてミノタウロスの指に蹴りをーーーーー、



「んぎゃん!?」



地面に横たわりながら、不安定な体勢で蝿でも振り払うように叩かれ、青年の身体は突如4度回転し、そのまま風車のような円を描きながら壁に激突する。衝撃によって崩れた壁の破片と共に床に落下し、余計な軽傷を避けるために間一髪受け身を取る。



「牛とは思えない反射神経だねぇ……痛すぎて笑えてくる♪」



もう何本骨が折れたかも覚えていない。

額が割れ血が流れ、損傷した腹部の血はもう既に止まり、驚異的な自然治癒力により傷も塞がってきている。

だが、現状の身体の傷の深さは流石の青年も限界を越えている。

いくら傷口を修復出来ても、失われた血液は戻ってこない。

口では余裕ぶっているが、青年の体調は最悪、虫の息である。



「(まだ終わらないんかなぁ……)」



青年は虚ろな目で遠くのアリスたちに視線を向ける。

横たわるビビアナと、痛そうに傷口を押さえて座り込むマルコを何か魔法のような力で治療している。

まだ時間がかかると悟った青年はゆっくりと立ち上がり、同じく体勢を立て直しているミノタウロスをギロりと睨む。


「わからないなぁ、さっきの牛とキミは別物みたいだねぇ……動きや迫力もまるで違う。なんでキミだけそんな不気味な色をして……そんな怪しい雰囲気なんだろ……本当の本当にわからないなぁ♪」


「ブルォォォォォッッ!!!」



青年は走り、再びミノタウロスに接近し、ミノタウロス自身も己の身を守るために床に転がる斧を握り、思い切り振り上げ地面に叩きつけた。床に亀裂が走り、再び床が崩壊し始めた。青年は飛んでくる石の破片を避け、どんどんミノタウロスに近づいていく。だが突如として迫ってくる巨大な拳を前に、青年はあえて回避せず、真正面からその攻撃を受け止めた。



「ブルルルル!!」


「んがぁぁぁぁッッ!!」



量腕を盾のようにして、ミノタウロスの重い拳を受け止めるが、骨にまで響いてくる衝撃、軋む骨の音、脳にまで達しそうな痺れに青年の口元が僅かに歪む。



「その小刀返しもらうよぉ♪」



青年は両腕に重なる拳を弾き飛ばし、ミノタウロスの腕に突き刺さっていた小刀を瞬時に抜き取る。

自分が使いやすい向きに持ち替え、分厚い胸板を容赦なく切り裂いた。

だが層が分厚いだけでなく、岩のように硬い筋肉には小刀が通りにくく、皮膚の表面だけを斬ったような感触が刃物から腕にまで伝わってくる。血が僅かに皮膚から溢れ、怪牛の胸板に掠り傷のような痕がうっすらと浮き出る。



「ーーーーーーふっ」



そのまま身体を捩り、空中で華麗に回転を利かせ回し斬りを炸裂させた。

刃は肩を斬ったが、やはり膨張し固まった筋肉が邪魔をして軽傷で済まされてしまう。

青年は露骨にめんどくそうな顔をして舌打ちをし、その宙に浮く僅かに時間でミノタウロスの"装甲の薄い場所"を割り出すために目を凝らす。



ーーーー脚、は駄目だ。あの胴体を支えるためなのか、両足も筋肉によって保護されている。

ーーーー腕、先ほど小刀を突き刺せたが、腕なんて直ぐに傷を塞いでしまうし攻撃してもあまり意味がない。

ーーーー腹、いや駄目だ先ほど切り裂くことに成功したが、ミノタウロスは直ぐに動くことが出来た。恐らく身体の構造がおかしいのか、腹部はさほど重要な器官ではないようだ。


となると残るはーーーーーー頭部。


その中でも筋肉が少なく、相手の動きを奪うのに適した部位はーーーーーーーーー、



「"眼球"~♪」


「ーーーーーブホォォォオォォォォォォォォォォォォォォォオッッッ!!」



青年は腕を足場にして、肩まで登ると素早く首に巻き付き、小刀をミノタウロスの眼球に突き刺した。

想像以上に暴れ出し、鼓膜が破れそうなほどの鳴き声と獣臭い悪臭に青年は顔を歪ませるが、早急に残りの片方の眼球も容赦なく突き刺し、青年は手慣れた動きでミノタウロスから飛び降りた。


ついでにミノタウロスの膝の裏は間接部、筋肉が薄かったので飛び降りるついでに切り裂いてみると、案の定ミノタウロスは体勢を崩し床にに四つん這いになって倒れた。


すぐにその場から離れると後ろにいるアリスたちに確認をとる。



「アリスちゃん、二人はもう動けそうかい?」


「うん……走れる程度には治したけど……まだ戦えそうにない。私の治癒魔法じゃ限界みたい……《完全再生》したかったんだけど、マルコがまだ使うときじゃないって……」


「……詳しくは、しらねぇがぁ……《完全再生》ってのはぁ……回数が限られてんだろ…?……そういうのは取っとけ。すまんが俺はまだ戦えねぇ、悪い……」


「いや~、別にマルちんにはもとから期待とかしてないしぃ、足手まといっていうかぁ~~」


「んだとゴラァ!!」



マルコは青年の発言にイラッときたのか額に血管を浮かばせ怒鳴り散らす。

だが傷口に響いたのか頭を押さえて涙目になっている。本当にアホで、その姿がとても笑えるし微笑ましい。



「…………ミズキ」



アリスのその表情はとても辛そうに見えた。

俯く彼女は静かに青年の名前を呼び、青年はその声にはあえて反応せず、後ろを振り向かなかった。

やはり彼女の中で仲間を置いて逃げる、という行為が何かの拒否反応を起こしているのだろう。薄々気づいてはいたが、アリスという少女はただの馬鹿な娘ではなく、何か重い闇を背負っているのではないだろうか。

だが、この作成を決行しないと西側に行ったトニー達の身が危ない。



「アリスちゃんたちはやっぱり逃げて、トニーくんたちの援護に行って。そして出来るだけ早くボクも加勢しに行くから、それまで………」


「待って」



先ほどから静かだったビビアナが青年の声を遮った。

青年は視線を下に落とすとそこには顔色の悪いビビアナの顔があり、何か信じられなさそうにこちらを見ている。



「貴方……本気なの?あのミノタウロスを戦うなんて……アイツは【Lv3】なのよ?私と……アーノルドが二人がかりでも掠り傷しかつけれなかったのに……いくらキミでも……」


「れべるすりーだかなんだか知らないけど~、そんな弱気じゃあすぐに殺されちゃうよ?」


「私はっ……ただ、冷静なだけよ」


「いや違うね、キミの目から冷静なんて感情はひと欠片も無いよ。ただ逃げたいだけなんでしょ?怖くて怖くて怖くて仕方ないから……♪」


「違う……」


「選択肢が少ない人間の殆どは【弱者】、選択肢を多く持ってるのは【強者】。ボクは後者だからミノタウロスと戦闘する以外にも3パターンの生還方法を導き出してるよ♪」


「だったらーーーーー」


青年はビビアナの言葉を遮るように胸ぐらを掴み、自分のもとまで強引に引き寄せた。

互いに息がかかる距離まで詰め寄り、その至近距離にビビアナは頬を赤く染めたが、青年は真逆の反応を見せ、薄い唇を吊り上げる。



「……だけど【強者】の選択する答えは常に一つ。自分の気持ちに正直に、自分の欲に抗わないこと。ボクはあの牛野郎と戦うんじゃないーーーーーーー今から始めるのは一方的な殺害だよ♪」



ーーーーゾッとした。

血を失いすぎて顔色の酷いはずの彼の頬は紅潮し、瞳は宝石のようにキラキラとしていて、四つん這いになっているミノタウロスのほうを凝視している。その表情からは決死の戦いを挑む戦士の恐怖や覚悟など感じられない。"その目"は純粋に"何かを"楽しもうとする子供の目。死んでもおかしくない重症を負いながら、あれだけ動いて、あれだけ殴られて、彼は今なお笑顔をやめない。それは圧倒的な自信と力を持たなければ保てない精神。

その重

苦しい雰囲気に耐えきれなくなったマルコは再び喋り始める。


「まぁ、さっきアケチが斧をもろに食らったときはヒヤッとしたがぁ……どうせあれも演技だったんだろうぜ。コイツ本当に性格ワリィからよ!」



「そ……そうなの?……というか貴方たちが相手をしていたミノタウロスはどうしたの!?」



「ミズキが倒したよ!」



一瞬信じられないような顔で青年の顔を凝視したビビアナだが直ぐに元に戻り何かをブツブツと呟き始める。

としてもう一度青年の方を振り向き、疑うような視線で凝視してくる。さすがのアケチくんも苦笑い。



「ほ……本当に?たった一人で?」



「いやいや、オレも一緒に戦ったっつーの!!」



「ほとんどミズキのおかけで倒せたけどね」



「んだとゴラァ!!」



怒り狂ったマルコは怪我のことなど忘れてアリスに飛びかかった。

取っ組み合いになり、アリスの鼻の穴にマルコが指を突っ込み、アリスはマルコの頬を引っ張り、知能程度の低い争いが勃発している。ビビアナは自分たちが勝てなかった相手に新人同然の三人が圧勝した事実に驚きを隠せていない。空いた口が塞がらず放心状態だ。



だが、作成会議は突如として終わりを告げた。



「ブルォォォォォォォォォォオォォォォォォォォオォォォォォォォオッッッ!!!」



「おっとおっと……もう回復したのかい?これだから育ち盛りは怖いんだよ」



遠くでは鳴き叫ぶミノタウロスが今にも立ち上がりそうだ。

膝裏の関節はもうすでに修復され、あとは両方の眼球のようだ。



「アケチ、俺たちはいったいどうしたらいい?」



「ボクが手で合図したら逃げて。出来るだけ早くね」



青年はそう言うとゆっくり立ち上がり、ミノタウロスとの距離を徐々に詰めていった。

その後ろ姿に何か言いたそうな視線を向けてくるアリスに青年はぼそりと呟いた。



「まだ迷ってるのかい?君らが行かなきゃ、トニーくんたちが死んじゃうかもよ?」



「!!」



「迷ってる暇があったら行動しなよ、弱者のままであろうとするな。弱者だって強者に化けることもあるんだ」



青年は走り出すと手で何かのサインを作り、先ほど言っていた合図を行う。

その冷たい言葉を吐く青年の背中を目で追うがアリスは何かを諦めたように扉の方まで駆けた。

アリスは顔色の悪いビビアナを抱え、マルコは傷口を押さえながら遅めに走った。

扉まで来るとマルコは取っ手を掴み、力一杯引くとーーーーーーー外の世界が広がっていた。




◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





「………ようやく行ったか、本当に面倒な奴らだよ♪」




三人が教会から無事に脱出したことを確認すると、青年は深いため息を吐く。

そして突然その場に座り込み、ぶつぶつと呟きながら踞る。



「あ~~もぉ、どうせなら万全の状態でやりたかったなぁ。お腹ちょー痛いし、骨何本折れてんだよこれ………アリスちゃんにちょっと治療してもらえばよかったかも………そう思いませんかぁ、アーノルドくん?」



近くで横たわる冷たい死体に話しかける余裕を見せるが、目が死んでいる。

ミノタウロスも負傷した箇所が次第に回復していき、視界が完全に回復した後にはすぐ青年の姿を見つけ出す。

ーーーーーー視界に捉えた瞬間、怪牛は青年の方向に走り出し、




「いやぁホント死ぬかと思ったぁ♪」




青年は自分の首を絞めているミノタウロスの腕を片手で掴み




































へし折った。




「ブルォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


「はははははは、うるせぇ牛野郎だなぁ♪」



青年は両方の角を掴み、力一杯グッと引き寄せ、容赦無しの頭突きを叩き込む。

硬く強固な頭蓋骨を持つはずのミノタウロスは意図も簡単に額が割き、血が噴き出すが、それは青年も同じこと。

普通なら人間である青年が頭突きをすれば、青年だけが自滅するはずなのだが、持ち前の驚異的腕力によりかなりの衝撃をミノタウロスに与えることが出来た。だが、肉体的な面に関しては青年の方が劣っているため、脳に行くダメージはミノタウロスよりも遥かに大きい。青年は垂れる血を袖で拭いながら、嬉しそうに高笑いをした。



「いてぇぇぇぇえ!!なにこれ!?痛すぎて笑えるんだけど!!もしかしてこれコンクリより固いんじゃないの!?」



苦痛の呻き声を上げるミノタウロスとは他所に楽しそうに踊り始める狂い人。

ダメージなら圧倒的に青年のほうが勝っているはずなのに、青年は自身の余裕を崩そうとしない。


両者の額が割れ血が流れるが、青年は次の攻撃を早々に仕掛ける。



「ジィィィィィィンギゥゥゥスカァァァァン!!!ぱーてぃーしようぜえぃやぁ!!」



「ブルァァァァァッッッ!!!」











だが






いつものあの笑顔ではない








この笑顔は




そう














狂気に満ちた笑顔である








その笑顔を見た瞬間





ミノタウロスは恐怖した






圧倒的な恐怖




"絶対"に勝てないと思わせる笑顔




「ははははは♪」




「『抑えられない愛』キャプティヘイド解除!!!!!!」





『明智水樹 殺人モード』




「あは♪」





「実はね」







「僕いつもは狂気に満ちてるんだ♪」





「昔……高校の頃にとある事件に巻き込まれてね…」





「その日以来……自分のオーラが狂気で塗り潰されたんだよ」



「このオーラじゃ…周りの人達が怖がっちゃって…」



「まともに生活が遅れなかったんだぁ…」



「だから僕は『抑えられない愛』(キャプディベイト)で自分のオーラを隠していたんだ♪」


「ま 隠しちゃうと本気が全然だせないんだけどね」



「僕のこの狂気のオーラを見たら」




「その人は一生恐怖し、僕を軽蔑する」




「だからアリスちゃんには見られたくなかったんだ♪」



「だから本気が出せなくて……君達、ミノタウロスごときに苦戦しちゃう…」




「だけど邪魔者はもういない♪」



「この意味……」



「わかるよね?」



「!!!!!!!!!!!!」



青年はミノタウロスに笑いかけた



  

「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ミノタウロスは斧で青年に斬りかかった


「♪」


「ブルォッッッッ!!!!!!」


ミノタウロスの両腕が切り落とされた


速いなんてものじゃない


青年は一切動いていないように見えた



だが動いた





つまり






目に見えないほどの速さで斬ったのだ





「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」


「!!!!!!!!!!!!」



「どうしたの?」


青年は優しく微笑んだ

だがその笑顔には密かに狂気が滲み出ていた


「早く再生しなよー」




「簡単に死ねると思わないでね♥」



ミノタウロスは直ぐ様再生し、

右腕と左腕を体にくっつける

そして青年目掛けて巨大な斧を降り下ろす


「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!」


「はい足貰い♪」


スパンと音が鳴った瞬間



ミノタウロスの強靭な両足が

綺麗に切り落とされた


またも飛び散る鮮血


明智水樹の身体は段々

ミノタウロスの血で紅く染まってきた


だが青年は血を浴びるごとに

段々と上機嫌になってきた



「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!」


ミノタウロスは教会の床に手を強く叩きつけ

血を吐きもがき苦しむ


「あれー?」



「さっきより痛そうだね」


「それに再生も遅くなってきたね」



明智水樹は怪物の異変に気づいた



「もしかして」



「再生にも限界があるの?」


ミノタウロスは再生を始めている

だが明らかに再生能力の速度が下がってきている




「うーん…」

















「じゃあ僕は素手でやるよ♪」


明智水樹は両手に持っていた小刀2本を教会の端に投げる


「ブルォ……ブル…ブルォ…!!」


ミノタウロスの再生ようやく終わり

怪物は立ち上がった


「おいでおいで~♪」


明智水樹は怪物 ミノタウロスに挑発をかける

それを見た怪物は怒り狂って青年に斧を降り下ろす


「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」


「おそーい」


明智水樹はミノタウロスの

巨大な斧を片手で受け止めた


「ブルォォォォ!!!!!!」



ミノタウロスは斧に体重を掛ける


「うーん……」


「斧うっとーしー♪」





  パキィィィィィン



そんな音が教会に響いた



「ブルォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


斧は粉々に砕け散り

床にこぼれ落ちた







「一撃っと♪」



青年の拳が怪物の顔面に炸裂した

顔にめり込み、頭蓋骨が砕ける音が手から脳へと響き渡る


「ッッッッ!!!!!!!!!!!!」


次に怪物の腹に4連発喰らわす


「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」



「かかってきなよ♥」









「殴り殺してあ・げ・る♥」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーー 


ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーーーー


ーーー


ーー



クグラ村-西側-



ここではアリス・エヴァンジェリンとマルコ・バンビーナ、

アデリーナ・フランクとビビアナ・ブランコ、

トニー・ディーンが怪物 ミノタウロスとの決戦を繰り広げられていた


「ブルォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!!!!!!!」


「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」


ミノタウロスの大剣とトニーの魔剣が火花を散らす




「はぁ………はぁ……」

トニー・ディーンは息が上がっていた


「大丈夫!?トニー!!」


そんなトニーの姿を見てアリスは心配で声を掛けた。

汗を大量に流し、目も虚ろになっている。

アリスだけでなく、マルコもビビアナもアデリーナも

トニーのことを心配していた。


「だ……だ…大丈夫…」


………………おそらく……

トニーの所有している魔剣が原因であろう…………



      《 魔 剣 》

魔獣を剣の中に封印することで、通常の剣とは

比較にならない程の攻撃力、耐久力を得る。

希少で世界ではまだ数十本しか存在せず、

特別な剣にしか魔獣を宿せないので、

あまり普通の店には出回らない。

《 魔 剣 》を所有する者は少ない、

《 魔 剣 》は所有者の魔力、精神、体力を

使用時に吸い続けるため、並み大抵の者では耐えられない。

戦っている間に魔力、精神、体力をすべて吸われ、

死亡した例がいくつかある。

故に魔剣士を職業に選ぶ者は少ない






太陽の獅子』サンシャイン・ウルフ 所属


 トニー・ディーンが《 魔 剣 》を使うのは自殺行為である


   




 

      彼は誠実で真面目な男だ









   

        だが才能が無い

 






     しかも昔から身体が弱く、筋トレすらも

       まともにしたことが無かった


    







        勉強しかやってこなかった

      







    そんな彼が《 魔 剣 》を握るなど不可能だ

  

       

  「はぁ……はぁ…俺は……まだ…!!!!!」


「トニーッッッッ避けて!!!!!!!!!!!!」


   「ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」




負傷していたビビアナがトニーの身の危険を知らせる


「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

 

ミノタウロスは大剣をトニーへと降り下ろす   


「クッッッッ!!!!!!!!!!!!」


「トニーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


マルコは叫んだ



腹の奥から




心の底から 




そんな声も虚しく




辺り一面に鮮血が盛大に飛び散る


赤い血に、班員はみんな驚愕を受ける































剣を受けたのはアデリーナだった  



アデリーナはトニーを庇い、胸元を切り裂かれる



アデリーナの盾は無残にも打ち砕かれ、

大地に転がるただの鉄クズと化していた




「……おい……アーデ………」


「なんで……お前が……!!!!」


    アーデ


おそらく彼、アデリーナの呼び名であろう

彼らは幼なじみらしく、昔からいつも一緒だったらしい


「おい!!アーデ……しっかりしろ!!!」


トニーはアデリーナの肩を強く揺さぶり呼び掛ける


「……ト…ニー……」

だがトニーの声は弱々しく、

今にも死んでしまいそうだ…


「アリス!!早く『完全再生』リカバリーを!!!!!!」


トニーは後ろに振り向き

アリスの方に視線を寄せる


   だが




アリスは衰弱仕切っていた


「はぁ…はぁ…はぁ…」


汗は頬を伝たり、首へと流れていく

顔色も酷く、今にも倒れそうだ。



「トニー……アリスの『完全再生』リカバリー

普通の異能力より『 希少』レアだ。」


「だから……精神力の浪費が激しい……アリスにこれ以上……」


   もっともな意見だ


アリスとマルコが駆けつけたときも、

傷の治療をしてもらった。


その後も、数回の『完全再生』リカバリーをしてもらった


彼女は充分過ぎるほど働いてくれた


アリス・エヴァンジェリンを責めるのは筋違いもいいところだ


だが頭では分かっているものの……




「ちくしょうっっっっっ!!!!!!」


トニーは抑えられない怒りを声に変えて叫んだ


「…………おちつけよ……トニー…!!」


「まだ戦いは終わってねーだろ!!」


   そう



ミノタウロスはこちらを睨んでいる





まるでトニー達を観察するかのように





「アイツ……もしかして…待ってるんじゃねーか?」




「待ってる?ミノタウロスが?」



マルコの言動にビビアナは反応する


「たまに……魔獣の中で…知能がズバ抜けてる………」




「"知能種"ってのがいるらしい…」






「アイツもその部類に入ると思う……」




たしかに周りの冒険者が

言っていたのを聞いたことがある


あのミノタウロスもトニー達の動きを段々と読めている


ヤツが"知能種"というのも納得がいく


もしかしてトニーの涙の理由を観察しているのか?


「ビビアナ……アデリーナに回復魔法かけられるか?」


「ええ、まかせて!!」


「アリスも『完全再生』リカバリーではなく回復魔法を出来ればしてくれ」


「うん…わかった」


アリスは弱々しく返事をした



「………………」


「よし!行くぞ!!!!!!!!」


トニーは涙を拭い立ち上がる


「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」


トニーは一気に走った


「『魔剣技』」



「『疾風斬』!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


巨大な風の斬撃が魔剣から発生した


「!!!!!!!!!!!!」


ミノタウロスの腕を切断した


「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


赤い血が天へと舞う


「ぐぁっっっ!!!!!!!!」


だがトニーの口からも赤い血が吐き出される


「トニー!!!!!!!」

皆が叫ぶ


「だいっっっ………じょーぶだ…」


「俺は……まだ…やれる……」


ふらついている


魔剣の使い過ぎは命に関わる


「もうお前は動くんじゃねぇよ!!!!!」


マルコは無理にでも動こうとするトニーを止めるが…


「大丈夫っつってんだろ!!!!!!!!!!!!」

「どこが大丈夫なんだよ!!!!このガリ勉野郎!!!」


二人は互いに怒鳴り合う


「この班には!!!!!!!俺以外、怪物アイツ

まともに戦えるヤツなんていないだろ!!!!!!!!!!」


「そのお前が魔剣使い過ぎて死んだら

もともこもねーだろ!!!!!!!!」


     



    次の瞬間



「ぶはっっっ!!!!!!!!!!!!」


巨大な拳でマルコは近くの民家に吹っ飛ばされた



民家は粉々に破壊され、跡形もなく壊れてしまった


「マルーーーー」


「かはっっっっ!!!!!!!!!!!!」


トニーも巨大な拳の手によって近く岩に吹っ飛ばされた


          その拳の主は






          ミノタウロスである




   

「ブルォォォォオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ミノタウロスは怒っていた


片手を切り落とされて本気で怒っていた


「トニー!!!!!!!!!!!!」


アデリーナに回復魔法をしていたアリスとビビアナが声を上げた


二人は全身から血を流し立ち上がるのがやっとだった



「ぐ………ぐぁ……」


「クソがぁぁぁぁ……!!」


ミノタウロスが二人を無視し、

ビアリス、ビアナ、アデリーナのところに歩み寄ってくる


       ズシン


       ズシン


       ズシン



そんな音が大地を伝って聞こえてくる


    戦える者はもういない




  

 ビビアナは薄い唇を動かし、声を出した   



     「……アリス…………」















「私達を置いて…逃げて!!!!!!!!」


「ーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!!」


アリスは一番聞きたくなかった言葉を耳にした


    この世でアリスが最も嫌いなこと







   "仲間を置いて逃げること"


「ミズキくんを連れて馬車で逃げて!!!!!!!!!!!!」


「そして団長にこのことを……」


「イヤ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


アリスは力強い言葉をビビアナにぶつける


「見捨てるなんて絶対イヤ!!!!!!!!!!!!」


       見捨てたくない


      

       見捨てたくない




       見捨てるもんか



       絶対に助けてやる



     心の中でアリスは強く誓う







「いいから行けっっっっ!!!!!!!!!!!!」


「クソアリス!!!!早く行け!!!!!!!!!!!!」


マルコとトニーもアリスの撤退に賛成の模様




「こんなときにワガママ言わないで!!!!!!!!!!!!」




   ビビアナはアリスに強く怒鳴りつけた



  

    「私のせいで……アーノルドが死んで…………」








    「アナタまで……死んだら………私……」







       ビビアナは涙を流す






「アタシ達は変えの利く団員だけどアリス…………あなたは違う!!!!!!」







「特別な異能力を持つ存在なのよ!!!!!!!!!!!!」


 












   

     


     「…………ないよ……………」


   









    ぼそりとアリスは呟いた













   









      「替えなんて…………」













「ビビアナ達の替えなんて……そんなのいないよ!!!!!!!!!!!!」

 「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」



             アリスは大粒の涙を流している


                  悲しくて


          

                   怒って



                 泣き出してしまう



                本当に子供のようだ


            



              ビビアナはアリスのことを優しく抱きしめた


               まるで泣く子供を慰めるように



                    ゆっくりと



                     やさしく





                 笑顔で抱きしめた 



                




                ミノタウロスは目の前で止まり




                    左手を上げ





                アリスとビビアナへと降り下ろす








































                 「ごめんね……アリス」













































































                  「大丈夫♪」


                 目の前に男が現れた





              その男がミノタウロスの拳を片手で受け止める






                このニコニコした笑顔 


    

                  長めの綺麗な髪



                    高い身長 



                    この男は 



   


  

       



       
















           「アケチ・ミズキ!!参上!!!!!!!」




              ーピンチの駆けつける殺人鬼ヒーローー      

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ