収入源は守ります。
領地を預けている家令が、突然屋敷を訪れた。
「まぁ、どうしたの?今月は使いもよこさないし、なにかあったのかと心配したわ。」
結婚の時に持参金とした資産や領地は夫と共同名義になってしまったが、この家令に任せている領地だけは、自分の名義になっている。
自分だけの財産が必要だと母が頑なに言って、これだけ別にしてくれた。
当初は理解できなかったが、今となっては母に感謝だ。
領地はささやかなものだが、家令が優秀なので、けっこうな収入がある。
毎月使いをよこしてお金を届けてくれるのに、なぜか今月は遅れていたのだ。
季節ごとに新調するドレスや、使用人に渡すお小遣いなどが、すべてここからきているので、お金が届かないとかなり困ってしまう。
「奥様、やはりご存知ありませんでしたか。」
応接間のソファに腰掛けてすぐ、家令は本題を切り出した。
「今月の分は、すでにお渡ししているのです。」
家令の話はこうだった。
今月使いの者が屋敷を訪れると、伯爵が応対し「妻は体調を崩しているので代わりに」と、お金を受け取ったそうだ。
領地に戻った使いの者からその話を聞いた家令は、不審に思って飛んできたらしい。
わたしはもちろん、体調を崩したりしていない。
それに、夫からお金を受け取ってもいない。
家令がじっとわたしの顔を見ているのは分かっていたが、夫をかばう言葉は出てこなかった。
「実は、以前からご主人に、伯爵家の他の領地の管理もしないかと打診されておりましてね。」
思わず、すがるような目で家令を見てしまった。
「もちろん、奥様の領地がありますので、とお断りしております。しかし、ご主人は、奥様の領地に別の管理者を派遣するから、とおっしゃっていました。」
眼鏡の向こうで、人の良さそうな中年の瞳が光った。
「正直に申しますと、わたくしがせっかくここまで整えた領地を、経営の『け』の字も知らない者に、めちゃくちゃにされたくないのです。」
家令がここに来た意図は分かった。
わたしは唇をきゅっと引き締めて頷いて見せ、わたしの唯一の資産を夫から守ることを誓った。