使用人に目を光らせます。
使用人の少女におつかいを頼んだら、違うものを買って帰ってきた。
ちゃんと「バラ石けん」と言ったはずなのに。
少女は眉をハの字にして、
「申し訳ありません。でも、普通の石けんしかなかったんです。」
と頭を下げた。
その様子に、ため息をついて「もういいわ」と退出させた。
おつかいのおつりは、いつも通り、返してもらっていない。
差額はいったいどこへ行ったのか。
気が付くと、その使用人からバラの香りがするようになっていた。
「ねぇ、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。だって、だんな様も、いい匂いだって褒めてくださったのよ。」
「いいなぁ。」
「ちょっとだけなら使わせてあげよっか、バラ石けん。」
「えっ、ほんと?うれしい!明日の夜、わたし、夜のお茶のお運び当番なの。だんな様、気付いてくださるかしら。」
ホールの声は響くのだ。
聞かれているとも知らず、使用人二人はクスクスと笑い合った。
その使用人の行動はさらにエスカレートした。
化粧水や髪につける香油の減りが早いと思ったら、どうやらこっそり使っているようだ。
気に入っていたクシに、自分のものではない髪がからんでいるのを見るに至っては、その使用人を呼び出すことにした。
「お呼びでしょうか、奥様。」
数本の髪を見せて叱責すると、少女は泣き出した。
「こんなことをする娘は置いておけないわ。親元へ帰りなさい。」
少女はすごすごと引き下がった。
しかし、話はこれで終わらなかった。
次の日の朝のこと。
例の使用人が、まだ屋敷にいたのだ。
再び呼び出すと、しれっとした顔で「だんな様にお許しをいただきました。」と答えた。
叫びだしいのをこらえ、使用人を部屋から追い出し、寝室にこもった。