五色 地獄の合宿と戦の女神
ライブから数日後、COLORSと白は事務所で横に整列していた。
「別に白は並ばなくていいんだぞ?」
「えへへ、私も社員ですから!」
紅蓮と白が話ていると、彩呀は立ち上がり、全員に背を向け窓の外を見つめる。
「紅蓮と藍麻は覚醒し、更に強力な力を使えるようになった。
しかし、力を使うにはまだまだ力不足だ!
他の四人も今のまま覚醒すれば、倒れりだろう。
そこで、強化合宿を敢行する!」
「社長、仕事はどうするんですか?」
「もちろん休まない。
仕事が終わったらすぐに戻って合宿の続きだ!」
「そんなハードスケジュール、体が持たないよ」
「翠、我慢」
「紫劉のいう通りだ!
もっと強くなるぞ!」
「女の子と遊べなくなるのは嫌だなぁ」
「藍麻の意見は無視するとして、確かに力を付けないといけないのは事実だ」
「蒼司ひどいなぁ」
「皆さん、頑張りましょう!」
「白もこう言ってるんだ、全力を尽くそう! 」
こうして地獄の合宿が始まった。
「これが合宿メニューです」
白から手渡された紙には、午前中は筋トレ、山中をランニングにボイストレーニングにダンスレッスン、午後は色の力の使用時間を伸ばす特訓と戦闘訓練が書かれている。
「山中をランニングって…ここを走るの?」
ロッジを囲む山をぐるりと見回す翠。
「社長、ボイトレとダンスもやるのか?」
「何言ってる黄理。
アイドルとしての自分を磨くのを忘れてどうする!」
「とりあえずやってみよう!」
紅蓮の言葉で、それぞれがトレーニングを始めた。
「皆さん大丈夫でしょうか?」
「これくらいで音を上げていたら、これからの戦いには生き残れないだろうからな。
どんな強敵が現れても、大丈夫な位に仕上げる!
白、食事の方は任せた」
「はい!
社長はどちらへ?」
「ちょっと知り合いに会いに行ってくる」
それから六人は熊や猿に追われながらも山中をランニングし、ボイストレーニングを始める。
「午後も皆さんが頑張れるように美味しいご飯作らないと!」
キッチンで料理を作る白を遠くから見つめる影があった。
「疲れたよぉ、白ちゃんご飯頂戴」
「もう出来てますよ」
翠を筆頭に六人がリビングへ流れ込み、料理を見て目を輝かせる黄理。
「なんじゃこりゃ!」
「豪華料理」
「中華にイタリアン、和食!白凄いな!」
「頑張っちゃいました」
「白ちゃん、僕のお嫁さんにならない?」
白の手を握る藍麻を引っ張る蒼司。
「口説く前に飯を食え」
激しいトレーニングを終えた六人は、あっという間に料理を食べ尽くす。
「もうなくなっちゃった!
片付けは私がするんで、皆さんは休んでてください」
「白ありがとう。
じゃあ一時間休憩して、特訓再開だ」
紅蓮の指示を聞くと、それぞれ別々に去っていく。
「白ちゃんどうぞ」
「翠君ありがとう。
でも休んでてくれていいよ」
「僕はみんなより若いから大丈夫!」
「フフフ、そんなに変わらないじゃない」
「ねえ、白ちゃん。
記憶戻りそう?」
少しうつ向き、首を横に振る白。
「そっか…でもね、もし記憶が戻っても僕たちと一緒にいればいいよ!
だってもう家族なんだから!」
「翠君…。
ありがとう!頑張ってみんなの事サポートするね!」
「うん!白ちゃんがいればみんなもっと頑張れるよ!」
それから午後の特訓が始まり、紅蓮は炎を空に放ち続け、蒼司は小さな氷を大きさを変えず何層にも重ねていき、藍麻は目に見えない位小さな水の粒を無数に操り、黄理は地面の形を変えては戻しを繰り返し、紫劉は紫の雷で作ったドームに入りながら自在に雷を操り、翠は空で制止して風と風をぶつけ、それが数時間続いた。
「さて、戦闘訓練だけど、ペアになってやるか?」
「紅蓮、提案があるんだが、乱戦てのはどうだ?」
「乱戦?」
「ああ、色の力は一切禁止で、円を描いてそこから出たら負け。
どうだ?」
「なるほど、俺は黄理に賛成だが、みんなは?」
全員頷き、地面に円を描いて構える。
「じゃあ…始め!」
全員が踏み込もうとした時、中央に黒い影が落下し、地面が砕けた。
「まさか…」
「やってくれたな社長」
「ぼ、僕用事があったんだ」
「やべぇな」
「怪物」
「やだよぉ~」
黒い影がゆっくり体を起こすと、長い髪をなびかせ、筋骨隆々の女性が笑みを浮かべている。
「ガキ共、調教の時間だ!」
女性の声は遠くまで響いていた。
「み、皆さん大丈夫ですか?」
リビングへ料理を運ぶ白が、心身ともにボロボロになった六人を心配する。
「全く情けないね!昔より弱くなったんじゃないのかい?」
「いや、あなたが強くなっただけです」
「がははは!紅蓮、誉めたってなんもでないよ!」
「し、社長、あの方は?」
「ん?ああ、紹介が遅れたね。
彼女は私の友人で、ミネルバ。
六人の戦闘の師匠でもあるんだよ」
「師匠さんなんですか!
あ、あの、白っていいます!」
ミネルバは白を見て抱き締めた。
「ミネルバさん、白が潰れ、ぐっ」
話終える前に、ミネルバの拳が黄理の頭を叩く。
「誰がばあさんだ!」
「違…う…」
「彩呀から話は聞いてたよ!可愛いね!
もし男共に何かされたら言いな!
八つ裂きにしてやるからね」
ミネルバの睨みで、彩呀を含む男全員が縮こまる。
「ありがとうございます。
でも皆さん優しいから大丈夫です」
「そうかい?
ならいいんだけどね。
話は後にして、飯を食うかね!」
「いっぱいあるんで沢山食べてください!」
白はキッチンへと戻っていく。
「いい子だね。
あんた達、下手に手を出したら…女にしてやるからね」
全員が股間を押さえて青ざめた。
それから食事が終わり、ミネルバは片付けを男達に任せ、白と二人で外のテーブルに座る。
「白、記憶がないのは不安かい?」
「…はい。
自分が誰なのか、何をしていたのかわからない事だらけで…」
「そうだね。
記憶がないの怖さってのは私にはわからない。
でもね、人間は違いはあれど過去を忘れてく。
私は一番大事なのは今だと思うんだよ」
「今が一番大事…」
「そう。
確かに過去は今の自分を作ってるもんだ。
でも、過去を失ったからって今の自分は偽者とは限らない。
過去と違う人格だったとしても、今のあんたが本当のあんたなんだ。
だから、今の自分を大切にしな。
バカだけど、今のあんたを受け入れているやつらもいる。
今のあんたは誰でもない、白って一人の女の子なんだよ」
「ミネルバさん…はい!ありがとうございます」
白の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「あ、ミネルバさんが白ちゃん泣かせてる!」
「ミネルバ、白をあまり怖がらせないでくれ」
「ミネルバさんが怖いのは分かるが、耐えるんだ白」
「白には刺激が強すぎたか」
「恐怖の化身」
「当たってるが紫劉言い過ぎだぞ」
「ぐぐぐ…あんた達…今すぐ女にしてやるよ!」
ナイフ片手に、ミネルバが襲い掛かり逃げ惑う男達。
「皆さん…ふふふふ。
(もっと強くなろう。みんなと同じくらいに)」
陽が昇るまで男達の悲鳴が響き渡っていた。
それから数日間、ミネルバの地獄の特訓が続く。
「さてと、だいぶマシになったね。
かすり傷もつけられる位にはなったし、上出来か。
じゃあ、山を一周してきな」
無駄に口も開かなくなり、六人は黙々と山を走る。
「?どうした蒼司?」
「…紅蓮、先に行っててくれ」
「?わかった。
遅くなるとミネルバさんが怖いぞ」
蒼司を残し、五人はミネルバの元へ戻ってきた。
「蒼司はどうしたんだい?」
「いや、山の中を見つめたまま先に行っててくれって」
「ふーん(気付いたか…あの子は一番感がするどいね)」
その時、彩呀が駆け寄ってくる。
「おーい!魔が現れた!すぐに向かってくれ」
「でも蒼司が」
「蒼司の事は任せな!
早くいっといで!」
五人は彩呀と共に魔の討伐に向かう。
「さてと…」
その頃、蒼司は山奥にいた。
「これは!?」
蒼司の目の前には、動物達の死骸が無数に転がっている。
「魔の仕業か…白!?」
白はキッチンで料理を作っていた。
「フン~フフフン~。
あ、外に洗濯物干さないと」
洗濯かごを持ち、外に出た白の前に、重厚な鎧が現れる。
「鎧?」
「来てもらうぞ」
「い、いや…いやっ!」
腰を抜かし地面に座る白に触れようとした時、凄まじい勢いで吹き飛ばされる重厚な鎧。
「あんたがずっと森から見てたやつかい」
「人間…いや、貴様は…」
「白!」
そこへ森から蒼司が現れた。
「蒼司さん!」
「蒼司、手を貸そうかい?」
「いや…一人で十分だ」
「なめられたものだ」
重厚な鎧へと蒼司は駆け出す。