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和風短編

幻影

 Twitterのアイコンにした元絵でお話を書いてみました。

 元絵は二年前に描いた絵なので、恥ずかしいですね……。

 ちなみに江戸中期くらいを元にしたエセ和風ものになります。


 ※イメージイラストが苦手な方は、ご注意ください。

 月明かりが照らす中、着物を着た男はニヤリ、と笑った。


「なっ……」

「ひっ、ひぃ」

「ば、化け物!!」


 男を見、腰を抜かして尻餅をついてしまう男たち。そのようなありさまで男たちの面からは血の気がひき、恐怖でひきつるばかりである。


「悪いのは俺ではなく、騙されるお前らが悪い」


 そう言って、男はまるで幻であったかのように、姿を消した。



 ▲▽▲▽



「あのお方は清雅(せいが)様ではないのかい。なんともまぁ、噂通りの色男ぶり!」

「本当に! でも明日にもここから去ってしまうと聞いたよ」

「それはあまりに惜しいことね」


 着物を着た若い女性たちの視線の先には、若い男があった。退廃的な香りがする、大変雅びやかな男である。

 かの男は長身で体格もなかなかによく、黒無地の羽織に憲房色(けんぼうしょく)と呼ばれるやや赤茶がかった黒色の小袖(着物)の粋な着こなしが目につく。

 かくして清雅に声をかけられた女性は、返事をすることもできないくらいに縮こまり、顔は朱に染まる。そんな男の流し目を見て、周囲の女性たちもまた、今にも腰が砕けそうになっていた。


 けれど男たちもまた清雅に対して、視線で射殺せそうなほどに憎々しげな面持ちで声をひそめて言葉を交わす。


「オレはあの男に、女を盗られちまったんだ!」

「おらもあの野郎のせいで、女子に振られてしまっただ」


 男たちは、なんとかして清雅に一泡吹かせてやりたいものだと思ったのだろう。酒を飲みかわしながら秘密裏に、清雅を(おとし)める計画を練ったのであった。



 ――口元に微かに笑みを浮かべる清雅には気付くこともなく。




 ▲▽▲▽



「あの男は普通ではないだ!」


 男たちの内の一人で清雅について調べていた男は、男たちを手招きし、潜めた声で語った。


「あの男は同時に全く別々の場所にいたようなんだべ」


 男たちは、自分たちが正体が良く分からない化け物に手を出そうとしているのではないか、ということに気付いた。

 周囲の空気は張り詰めていく。

 けれど強い恨みや妬み、嫉妬といった感情が、後戻りさせることを許さなかった。

 結局、話し合いをしたものの、男たちの決意は翻らなかった。


「決行は、明日の晩だ!」


 男たちは拳を握り、天井に向けてつき上げた。



 ▲▽▲▽



 男たちのうちの一人。とある若い男。


 月の明るい夜、彼は清雅の家に行く途中で、艶やかな肢体の女とすれ違う――


 藍鼠色の振袖に緋と白の小袖から伸びた白い手足に目を奪われる。

 今にも消えてしまいそうでいて、それでいてどこか強さを感じさせる佇まい。美しい所作。

 女のぬばたまの黒髪は風に揺れ、舞い踊る桜が現実感を失わせていく。


 男は女を熱の籠った視線で見つめた。

 一方女は目の前にいる男たちを物憂げな眼差しで見る。


「もし。清雅様のお屋敷はどこであろうか?」


 涼やかな声がする。

 女の声だ。


 ――この声をもっと聞きたい。


 男はそんな気持ちがして、返事を返したくなくなる。


「もしやそなたは知らぬのか」

「あ、ああ、いや。あなたが参った方にあるだろう」


 男は顔を赤く染めてしどろもどろになりながらも、しっかりと答える。


「そうか。感謝する」


 そう言って、静かに微笑む女は男にゆっくりと近づいてくる。

 男と女の間にはほとんど距離はなくなる。


 ――何かがおかしい。

 けれど男はそれに気付かない、気付けない。


 男と女の影は重なり合う。


 男は忘我の心地のまま、邪悪に、愛らしく笑う女を見た。


 ――そしてそこで男の意識は途切れる。



 ▲▽▲▽



 気が付くと計画に携わっていた男たちはみな縛りあげられ、清雅の邸の前に転がされていた。

 目の前にいるのは、月明かりに照らされているのは先ほど見かけた女。

 だが女は男たちの目の前で、一瞬にして清雅の姿に変わる。おかしなことに服装までもが変化していたのであった。


 清雅はニヤリ、と笑う。


「あーあ、秘め事だったのにな。こそこそと嗅ぎ回るネズミが沸いて困る」


 清雅は手と首をポキリ、ポキリと鳴らした。


「なっ……」

「ひっ、ひぃ」

「ば、化け物!!」


 男を見、腰を抜かして尻餅をついてしまう男たち。そのようなありさまで男たちの面からは血の気がひき、恐怖でひきつるばかりである。


「悪いのは俺ではなく、騙されるお前らが悪い」


 そう言って、男はまるで幻であったかのように、姿を消した。



 一方、男たちは腰を抜かしたまま、思案をし始める。


「どうして腰を抜かしてるんだべ」

「あれっ? そもそも俺たちは何をしていたんだ……?」


 男たちはなんとか立ち上がり、支え合い、早々にそれぞれの家へと帰っていく。男たちは皆、狐に化かされたような心地を抱いていた。



 ▲▽▲▽



 男は今日もまたニヤリと笑うのだ。


「俺を楽しませてくれよ、人間」


 挿絵(By みてみん)

http://8969.mitemin.net/i87406/

 うーん、色々と謎が残ったまま終わるタイプの小説の二作品目になってしまいました。


*参考*

http://www.bb.em-net.ne.jp/~maccafushigi/mac/18.htm

http://homepage2.nifty.com/anonym/bugrama/edokosode.html

http://www.bb.em-net.ne.jp/~maccafushigi/mac/20.htm


2013/10/15 一部加筆修正

2013/10/16 一部加筆修正・イメージイラスト変更

2014/01/26 一部加筆修正

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― 新着の感想 ―
[一言]  もののけの類を感じさせる面白い作品だったと思います。  少し残念だったのは、清雅の表現に関してです。  『稀代の色男』『全身からは色気が立ち上ぼり』『退廃的で』『危険な香りがする』『雅びや…
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