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4章~終章

   第四章 Way To The Dawn

 空は瑠璃色、地平より日が昇り始め白光が夜を融かす。朝霧が立ち込め、一寸先の視界すら奪い、冷たく透通った空気が冬の歩みを教える。広場に独り佇むはフェルス。彼は一人の男が来るのを黙して待つ。

「やっぱりあんたが一番に来たか」

 フェルスは閉じた瞼をゆっくりと開き、濃い霧によって視覚で捉えることの出来ない好敵手に声を掛ける。

「他の魔人はやはり逃したか。邪魔が入らないのは良いことだ」

 帰ってきた声は昨日、死の宣告を行った白髪の男のもの。

「俺を狙うのは仕返しか?」

「奴らも俺も覚悟はしている。一人の死者も出さなかった貴殿には感謝念を抱く。しかし、俺は仲間を守らねばならない」

 そして、日は完全に天へと昇り陽光が世界を目映く照らし出す。

「我が名はカリム・ヴァーン。ジェミス騎士団が影。我が仲間のために消えて頂く」

「俺の名はフェルス・ブルームーン。しがないガルムだ。まっ、よろしく」

『我が信を以て進を成す。振り向きし時は唯死あるのみ』

 二人の宣誓を合図に二つの影が重なり合い、薄れた霧が二つの力の衝突で吹き飛ばされる。

 両者、数秒の鍔迫り合いの後、互いに後ろに飛び退き間合いを取る。

 そして再びの衝突。乱れ舞う刃の応酬。フェルスが斬撃を放てばカリムが斧槍(ハルバード)で弾き、カリムが刺突を放てばフェルスが紅剣で受け流す。途切れること無く続く鋼の協奏曲。それは魂を燃焼させて奏でる至高の音楽。

 斬り結んで何合目か。フェルスが紅剣を横に薙いだ時、不意にカリムの姿を見失う。

「ちっ」フェルスは咄嗟に跳躍し下方に視線を送ると身を沈めたカリムの姿が目に入る。

 恐らくは回避と同時に足払いを掛ける心算だったのだろう。だが次いでカリム取った行動にフェルスは下を巻く事になる。

 カリムもまた地に沈んだ状態から全身をバネのようにしならせ一気に跳躍、真上のフェルスを追撃する。勢いを乗せ振り下ろされた斧槍(ハルバード)の一撃、フェルスは紅剣で防ぎはしたもののその衝撃により仰向けの状態で大地に叩きつけられる。更に止めとばかりに突き出される刃、フェルスは渾身の力で仰向け状態のまま地面を跳ねて跳躍する。

 されど、それすらもカリムの予想の内。

「土隆貫槍」

 着地と同時に大地に突き刺さる斧槍(ハルバード)の先端。それと同時に大地が爆ぜるように隆起し槍と化して獲物を穿つ。

 空中かつ不安定な姿勢であったフェルスは回避することも出来ず土槍の直撃を受け突き飛ばされる。

 しかし只で貰うフェルスでもない。彼は土槍の槍が身に届く直前、紅剣でカリムを狙うと光弾を発射、思い掛けない攻撃にカリムも直撃を受ける。

 かくして互いにに吹き飛び地面を転がることとなる。

 血痰を吐き腹部の激痛に耐え立ち上がるフェルス。

 光弾が爆ぜボロボロになったローブを脱ぎ捨てるカリム。

「ちっ、体に風穴を開けるつもりだったににな。あんたも存外頑丈だな」

「今ので貫通できんとはな。驚愕に値する」

 奇しくも同時に相手の実力を認める発言をした両者。その間の良さに互いに苦笑する。

「失礼した。敬意を表して俺も全力を尽くそう。

 目覚めよ我が鏡心(ナイトメア)。汝の名は"巨人の右腕"薙ぐ者なり」

 カリムの右腕が白光を纏い、ガラスの割れる小気味良い音と共にその光が弾け飛ぶ。

 そしてカリムの右腕に現れたのは甲冑の右腕。その甲冑の右腕は装着しているのではなく右腕自体が鋼に変化したもの。

鏡心(ナイトメア)第二階梯、我心(エゴ)。あんた魔人だったのか」

 フェルスは紅剣を油断なく構え神経を研ぎ澄ます。鏡心(ナイトメア)は第一階梯で力を得、第二階梯以降は鏡心(ナイトメア)が次第に具現化され同時にその力とマキナが増幅されていく。

 事実、カリムから感じる圧迫感は先ほどと明らかに違う。

 フェルスの額に汗が流れ、肌に静電気の様なピリピリとした痛みが走る。

「そうだ、そしてこれが第二階梯の状態でしか使用できない我が奥義」

 大地から砂が舞い上がるとカリムを中心に渦を巻く。その砂は次第に光沢を帯びていき、最後には数え切れない量の銀に輝く小型の球体となってカリムを取り巻く。

「砂を支配して更に物質変化だと......。とんでもねぇことをしやがるな」

 砂にマキナを流して支配、更にそれを銀に物質変換したというのだ。驚くことはその高等な技法を付加法(エンス)ではなく秘法(セクト)という大雑把な神秘術(ミスト)で行っているという事実。

「だがな、そんなあからさまに危なげなモンに誰が近づくんだよ? これでも喰らいやがれ。 光流・雨」

 フェルスの言霊と同時に構えられた紅剣から一斉に数多の光が放たれカリムに殺到する。次いで生じるは盛大な爆発。一発一発の威力は光弾にこそ劣るが、それが全て命中すれば威力ははるかに凌ぐ。大気が破裂し、衝撃を受けた家屋が軋みを上げる。

 しかし、爆煙が晴れた時、フェルスが最初に目にしたのはカリムを覆い隠す銀の球体。それは瞬時にして無数の小型の球体に戻る。

「攻守一体、これこそが我が奥義、銀星」

 今まで無表情であったカリムの顔に笑みが生まれる。それは自信の顕れ。

「......成程。第二階梯のみなのは莫大なマキナを消費するからか?」

「そうだ。そしてこれが攻守の攻だ。銀星流」

 フェルスの直感が避けろと叫び体勢も整えず咄嗟に横に駆爆、その場から飛び退く。地面を転がり回ることとなるが、あれを受けるよりもましである。フェルスはカリムより放たれた一撃の威力を確認する。

それはフェルスの後方に存在した公会堂に無数の穴を穿つと不気味な音をたてて倒壊させる。フェルスは見た、カリムが槍を一閃させると同時に無数の小型の球体が一斉に何かを噴出した瞬間を。それはさながら散弾銃のようであった。

「いや~。まいった。凄いわ。今のデモンストレーションだろ?」

「その通りだ。態々あんな大きな建物を壊す必要はないからな」

「しかし。それはあん位まで拡散させられるっていう牽制でもある」

「中々の考察力だな。しかし意味は無い」

 再びカリムは槍を振るうと無数の銀星から吐き出される流星群。それはフェルスが回避する度に次々と村の建造物を破壊していく。フェルスの駆け抜けた後にはもはや何があったか解読できない残骸が残るのみ。

 このままでは追い詰められるのは明らか。フェルスは逃げ惑いながらも銀星を観察していた。

 それによると攻撃形態中はカリムの前方に集まるようであり、一度試しに光弾を撃ってみたら前面に壁を作るだけで、先程の球形態までにはならないようである。

 ならばやりようがある。フェルスは弾幕の切れ目をねらって光弾を連射、銀星は予想通りに前面に壁を形成する。そこを駆爆で一気に間合いを詰める。重要なのは壁に近づきすぎないこと。馬鹿正直に距離を縮めると壁が剣山になることは予想に難くない。

 ある程度の距離に近付くと停止、壁が戻るのを刹那待つ。そして、壁が僅かに崩れ、カリムの姿が若干見えると同時に再び駆爆。カリムとの距離を保ちながらも脇を抜けて、後方へ移動。

 思惑通り、反射的に銀星は壁へと戻り、確認はできなかったが前面に無数の槍が生えていることだろう。銀星の防御壁を無力化した状態で背後を取った。

 これこそがフェルスの描いた展開。ならば後は後方からぶった斬るのみ。再び駆爆で間合いを詰め無防備な背に斬撃を落とす。

 しかし、その行動はカリムにも読めていただろう。フェルスの行動に反応し、その場で反転し斧槍(ハルバード)による横薙ぎ。

 フェルスは紅剣で受け流そうと目論むがその算段は脆くも崩れる。

 カリムの薙ぎはフェルスの想像を絶して高速かつ強烈。それは巨人の一振り、フェルスはギリギリ受け止めた紅剣が何とか自分に突き刺さるのを回避するのが精一杯。足は踏ん張る間もなく地を離れ、凄まじい速度で空中を泳ぎ小屋を突き破る。

 しかしカリムは侮りはしない。更に銀星流を打ち込む。荒れ狂う銀弾の嵐は小屋を木っ端微塵に蹂躙する。それでもまだ砂塵から姿を現したフェルスは人間の形を保っていた。しかし、服には所々穴が開き、そこから血が流れ落ちる。フェルスの状態はお世辞にも良くはない。

「想像はしてたが、あんたの鏡心(ナイトメア)は剛力だな? 一発受けただけで痺れやがる」

 フェルスは傷を負っても尚、軽い口調を崩しはしない。

「貴殿では俺には勝てん。諦めろ」

「諦めるのは万事を尽くした後にするもんだ」

 フェルスは不敵な笑みを投げ掛けると、右手を大きく開き虚空に向ける。

「召喚。封剣シュメルツ」

 彼の言霊に反応し指輪に刻まれた素源文字(オリジンワード)が輝く。すると空間に細波が立ちそこより一振りの剣が出現する。フェルスの身の丈と等しい長剣は闇夜の如く漆黒で鍔には埋め込まれた紅玉が不気味に揺らめく光を宿す。しかしながら特筆すべきはその形状であるだろう。幾つもの鋼が重なり合って一本の刀身を形成している。それは龍の鱗を連想させる。

「おい、あんた。死んでも怨むなよ」

 フェルスはそう告げ、紅剣を向けると光流・雨の言霊を唱え放つ。幾十の光線がカリスに殺到するが結果は当然、銀星が球となって完全に防ぐ。

――が、球によって一切の陽光が遮断された暗闇の中、カリムは不意に腹部に激痛を感じた。

 カリムが防御形態を解除すると、剣の切っ先のみが腹部に突き刺さっていたのである。いや、正確には、先ほどの長剣が、二本の極細糸によって繋ぎ止められた幾つかの刀身にバラけ延び、それによってフェルスの立ち位置から自分まで剣先が届いたというのだ。

 フェルスは握った封剣の柄を引っ張るとカリムの腹部に刺さった切っ先が血を撒き散らしながら抜け、そして重なり合うと再び一本の長剣と成る。

「何が起こったか分らないか? 見せてやるぜ」

 フェルスがその場で徐に黒剣を突き出すと鍔の部分から重なり合った刀身が次々と分離していき、遂には切っ先がカリムへと到達する。カリムは嫌な予感がし戒戦を強化してそれを弾く。 

 すると封剣は再び重なり合い長剣へと形状が戻る。

「おもしろいだろ? 鞭剣って言うんだぜ。あんたも近、中、遠と揃ったオールラウンダーだろうが、俺もそうだ。んで、さっきので分っただろうがあんたの防御はもう意味がない。シュメルツの刃は念入りに強化しなと防げないぜ」

「確かに防御は意味を成さないようだな。だが俺には鏡心(ナイトメア)とこの技がある」

 カリムは吼えると同時に銀星流を連射する。

「滅龍・龍壁」

 受けるフェルスは封剣をカリムに切っ先を向けると言霊を紡ぎ同時に駆爆、彼に向かって愚かなる猛進を行う。

 しかしてカリムは再び驚愕する。突き出された封剣から噴出す黒き光が、切っ先を頂点にフェルスを包み込む。そして、その黒光に触れた銀星流は霞のように掻き消えるのだ。

 だがカリムは即座に冷静さを取り戻すと愚直に突っ込んでくるフェルスを僅かに身を引きやり過ごし頭上目掛けて刃を落とす。

 フェルスは瞬時に体を反転させると封剣を構えて受け止める。地面はその衝撃でひび割れ、耐え切れずに片膝を突く。フェルスは刃を勢いよく傾けて斧槍(ハルバード)を流すと後方へ跳躍。それと同時に紅剣から光弾を発射。近距離で受けたカリムは激しく吹き飛ばされる。

 しかし、カリムは歯を喰いしばると槍を地面に突き立て空中を流れる体を止めると、鏡心(ナイトメア)によって強化された腕力を頼みにし、突き刺さった斧槍(ハルバード)を梃に自分の体をフェルス目掛けて打ち出す。刹那にしてフェルスを間合いに捉えると、斧槍(ハルバード)を一閃。

 フェルスは剣を交差させてそれを受け止めるが結果は変わらず。今度はフェルスの体が勢いよく宙を舞う。そしてカリムは間髪いれずに秘法(セクト)を放つ。

「土隆剣成!」

 高速で流れるフェルスの体の進行方向に、地面より隆起した三枚の刃が待ち構える。このまま飛ばされたら目出度く三等分の出来上がりである。フェルスは空中で体を捻ると流されている方向に足を向けて駆爆を行う。

 するとどうだ、フェルスの体は見事に慣性を打ち消し刹那空中で静止する。

「滅龍・瞬突」

 フェルスはその一瞬の内に、その姿勢から封剣を構え秘法(セクト)を放つ。

 カリムもまた、空中からあの突きが来ると踏んで構える。

 確かに突きは放たれた。しかしその速力は比肩できない。重なり合った刀身の鍔部分から次々と、しかし瞬時に爆発が起き、その反動で加速した刃は獲物に足掻く暇を与えない。

 そして反応することすら出来ず、刃がカリムを串刺しにした。

「ぐほっ......」

 口と二箇所の裂傷から血が流れ出し、カリムは跪いた。流れ落ちる血流と比例して彼の目から闘争の炎が消えていく。

「止めを刺せ」

 傍らに立つフェルスに命乞い一つもせず淡々と述べる。

「別に止めを刺してやる義理はねぇ。まだ生きてるのはあんた自身の力だ。ところでなんで守護士に味方してるんだ?」

「ファレト国内で魔人狩りは珍しい光景ではない。多くの人々の耳に届かないだけでな。俺たちの村もそうだ。我々四人は偶々村を離れていて助かっただけだ。帰ってみれば処刑人の群れと屍の山。俺たちの命もあの場で尽きていただろう。しかし、レイム様は我々に慈悲をかけくださった。あの日から俺は仲間とレイム様のために存在しているのだ」

 カリムの心を聞いたフェルスは深い溜息を吐いて肩を竦める。

「......なるほど。実に残念だ。俺の依頼人は絶えず人材を求めていて、あんたなら使えると思ったんだが義理があるなら乗らねぇだろうな」

「その通りだ。その話は......」

 ヒュッ。その時、風を斬る音がし、カリムの肩に何処からか飛んできた矢が刺さる。 

「おやぁ。残念。頭にあたらなかったか」

「......メイザード。何故ここに居る?」

 そこに現れたのは昨日の長剣の処刑人。メイザードと呼ばれたその男は、三人の男女を引き連れ、その内の一人の女性が矢を放ったのだ。メンバーの構成と真紅のローブから恐らくはカリムの仲間、昨日戦った処刑人たちだろう。しかし明らかに様子がおかしい。皆一様に口を半開きにし焦点が合っていない。

「何故だぁ? 失敗した貴様と駄犬、そしてこの無能で低脳な魔人どもを始末しに来たのさ」

「......三人に何をした?」

「私は力を頂いたのだ。この魔人どもを思いのままに操る力をなぁ。こんな風にね」

 メイザードが指を鳴らすと彼がつけている腕輪が輝く。すると女性が跪き彼の靴を舐める。

「見下げた下種だな。レイム様はこれを許したというのか......」

「当然さ。そもそも魔人を助けるという考えがおかしいんだ。レイム様も漸く正気に戻られた」

 メイザードが合図すると三人は一斉に得物を構える。

「おい、あんた。昨日俺にやられたのをもう忘れたのか? そんな三人を操ったところで意味はねぇぞ」

 フェルスが嘲るとメイザードは狂気に満ちた哄笑を上げる。

「魔人に味方する駄犬に朗報だ。僕が合図するとこのゴミどもは舌を噛み切るぞ。さぞお優しいガルム様はこれで動けないだろう? ヒャハハハハ」

 メイザードの余りに愚かな勘違いに額を押えて呆れるフェルス。しかしカリムにとっては看過できない事実である。

「頼む。少しだけ時間をくれ......」

 カリムはもはや力の入らない体を押して立ち上がる。そんな彼にフェルスは清々しい笑みを向けるとはっきりと断言する。

「嫌だね」

 次いで起きた展開を即座に理解できた者はいなかった。

 カリムの眼前で衝撃が爆ぜたかと思うと、フェルスの姿が掻き消えた。そして、カリムが事態を把握した時には事は既に決していた。

 フェルスが行ったのは駆爆。しかも身体に返ってくる反動を度外視した無謀なもの。それにより誰が反応するよりも速く駆け抜けた。そしてメイザードは気付く。三人を操るのに必要な腕輪ごと自分の右手首より先が綺麗に切り落とされていることに。

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 彼が手首を押えて地面をのた打ち回る。すると今度は右太ももに激痛を感じて見る。そこに一本のナイフが突き刺さっていた。

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」

 その狼藉を働いたフェルスを血走った凶眼で睨み付ける。

「まぁ落ち着けよ。そのナイフは毒が塗ってある。解毒薬はこれだ」

 フェルスは液体の入った小瓶を見せ付けると少し離れた場所に置く。

「助かりたければ五時間以内に解毒しな」

 メイザードは何故自分を助けるのか理解できなかったが命には代えられない。半死の体を引き摺って解毒薬へと這いずり進む。

「ああ、そうそう。聖典に曰く"悪より施しを受ける事は等しく悪である"俺の解毒薬を使ったら天国へは行けないかもな。さてどうする?」

 フェルスの問いを受けたメイザードの進みが止まる。今彼の心中では迫りくる死の恐怖と神の祝福を失う恐怖とがせめぎあっているに違いない。

(まあ、毒の件は嘘だけどな)

 フェルスは苦悩にもがくメイザードを一瞥すると、転がっていた右手を広い三人を操っていた腕輪を破壊する。すると三人は糸が切れる様に倒れた。

「......すまない。礼を言う」

 不自由な体を引き摺り、三人の呼吸を確認するとカリムは深謝する。フェルスは頭を掻くとその場に座り込む。先ほどの駆爆が足に来たのだろう。

「別にいいってことよ。それよりも、どうやら失業したみたいだがどうだい? 四人纏めて面倒を見てくれる所を知ってるぜ」

「本当にすまない」

 カリムは本当に申し訳なさそうにもう一度深く頭を垂れる。

――ふと、フェルスの顔が険しくなり体に溜まった疲労を忘れたかの様に即座に立ち上がる。

「......まさか、アリス。おいあんた、三人を起こして村はずれの小屋に行け。そこに隠し通路がある。そこを通って道なりに進め。住人たちに会ったらフェルスに寝返ったと言って魔人であることを証明しろ」

 フェルスは矢継ぎ早に話すと森の方へと駆け出していった。後に残ったカリムは事態が飲み込めないながらもフェルスの指示に従い行動を開始する。

 

 フェルスとカリムの戦闘がちょうど始まった頃。静寂と朝霧で満たされた森の中を、アリスを先頭に数十人に及ぶ長蛇の列が息を潜めて進行していた。

「見事に引っ掛ったわけじゃないよね?」

 アリスが足を止め、質問を投げ掛けたのは白銀の鎧を着込んだ六人の騎士の一団と一人の処刑人。騎士たちはその問いを理解できずざわつくが、処刑人だけは微動だにしない。アリスが指を鳴らすと後方の住人たちが掻き消える。

「おのれ謀ったな!」

 騎士たちは憤りを顕にし怒声を上げると処刑人の前に横一列の陣を組む。彼らは一様に右掌を向けると詠唱を開始する。

『我乞うは光神アキナス 我欲するは高きの御技 流れし光河 応え・示せ 激流の光河』

 手の甲より浮かび上がった紋章の輝き、詠唱の終わりと同時に彼らからそれぞれ光の奔流がアリスを押し流さんと放たれる。

 そして光が途切れ、敵の姿が消滅したのを確認して皆歓喜する。

「良かったね」「へっ?」

 上空から降り注ぐ天使の如き柔らかな声音に、騎士たちは天を仰ぎ見る。しかしその時点で既に二人の騎士が不可視の弾丸によって撃ち抜かれ気絶していた。

「跳んで避け――」

 連射される銃撃の嵐に科白すら言い終える暇なく意識を狩り取られ、アリスが地に足を着けた時には六人の騎士たちは全滅していた。

「ちょっと遅いんじゃないかしら?」

 仲間がやられようとも身動き一つしかなかった処刑人が、漸く言葉を発する。彼女がフードを脱ぐと、そこには現れたのは些か幼さが残る十代後半の少女の顔。僅かに吊り上った目尻が彼女の言葉同様、意思の強さを表す。

「......ねぇ、ノヴィア。僕たちが戦う意味なんて無いよね? また僕に力を貸してよ?」

 アリスは慈しみを込めた微笑をノヴィアに向けるが彼女は眉一つ動かしはしない。

「それはこっちの科白よ。あんたが私について来なさい。そんな喋り方ぜんぜん似合わない。

 全部アイツの所為よ。こんなことなら任せるんじゃなかった。離れても術式は維持されるのだからいっしょに行くわよ」

ノヴィアは優雅に笑みを湛えるとアリスに手を差し伸べる。しかしアリスは彼女の手を取ることはない。

「分ってるよね? 彼の所為じゃない。それに今ここで君と話せることだって彼が居たから出来るんだ」

「......そうね。だったら力尽くで奪うことにするわ」

 ノヴィアは懐から取り出した宝石を天に掲げる。

「召喚・オベル」

 宝石を中心に魔導陣が展開される。そして、ノヴィアの前方に球状の空間の歪みが発生し、その中より一体の魔獣(アルコン)が出現する。全長は二米程。全身が鉄の如き外皮に覆われ、真紅の瞳をゆらゆら燃やし得物を見定める。その姿は狗。言葉こそ取り交わすことは出来ないが知能は高く、金属質の外皮は大型火器ですら耐え、その俊敏性は獲物を決して逃がさない。上位下層に位置する凶悪な魔獣(アルコン)である。

 アリスは目を閉じて静かに息を吐くと覚悟を決める。

「相変わらず便利な鏡心(ナイトメア)だね」

「こちら側が使えば祝福(ブレス)と言うのよ。忘れたかしら?」

「人外の生物と意思疎通を可能にし支配すらできる。便利な力だね」

「大丈夫よ。あなたの体のことは知ってる。殺さない程度に遊んであげる」

 ノヴィアが妖艶に告げると、虚空に光が顕れそれは錫杖に変化する。

 彼女は錫杖を掴み、地面を突くと足元に紫色の光を発する魔導陣が発現する。

 それに呼応し、昂ぶり襲い掛からんとしていたオベルが沈静し同時にマキナが増大する。

「踊りましょう」

 ノヴィアの号令に反応し、オベルが調教された猟犬の如く駆け出す。瞬間に間合いを詰めて、列弧を描くオベル。

 アリスは一振りで大木を両断出来るであろう爪を後方に跳んで逃れるが、オベルは間髪いれずに巨体を唸らせて体当たりを噛ます。

 飛ばされたアリスは瞬間に体を捻るとその勢いによって重力を無視して一本の木の幹に着地。

 木を蹴り空中に跳躍すると巨犬に向かってウォルターを放つ。激しい爆発が巻き起こるもオベルの外皮を僅かに削るのみ。一方、アリスは先程の体当たりで肋骨が数箇所折れ、痛みが疼く。

「反転フェルといい、この犬といい、僕の相手は頑丈すぎだよ」

 アリスは己の不運を嘆くと自分に向けて加速するオベルに不可視の弾丸を連射する。

 そしてオベルが再び体当たりをしようとした直前、アリスはその巨体の真下へと滑り込み、すれ違う瞬間に付加法(エンス)を打ち出す。

「爆ぜろ、グリーン・ハイネス」

 装填されたのは翠の弾丸、アリスはこの魔獣(アルコン)の唯一攻撃が通るであろう、下腹部を狙う。言霊と同時に撃ち出されたは不可視の弾丸、それは圧縮空気。しかも今までのものと違い、放たれた弾丸は無数。それらは一斉にオベルの下腹部に命中すると次々に破裂、結果凄まじい衝撃がオベルを突き上げる。

 そしてアリスはオベルが崩れ落ちるのを銃を油断なく構えて見送る。

「まさかこれで終わりじゃないよね?」

 アリスの皮肉に応じるようにノヴィアが笑みを深めとオベルはのそりと立ち上がり、咆哮。

 空気は鳴動し地面が振動する。途端、魔獣(アルコン)の鎖が解き放たれる。オベルが一蹴りでアリスに肉薄するとその勢いのままに突進をアリスに見舞わんとする。

 アリスはギリギリでそれを転がって回避した。しかし、オベルの追撃は迅速。オベルは避けられるや否や刹那に反転。体勢を崩している獲物目掛けて左右の爪を交互に繰り出す。

 アリスは間一髪で体勢を直して回避、華麗なステップで紙一重に避け続ける。だが、高速で繰り出されるそれについていけず、遂に左手を切り裂かれる。

 切り落とされなかっただけでも幸運とはいえ深手。アリスは巨犬の顔面めがけてハイネスを発射。その内の幾つかが目を捉えて僅かの間視覚を奪う。その機を逃さず跳躍すると空中で駆爆、一気に距離を取る。

「結構粘るじゃない? 早く降参したらどうかしら?」

 ノヴィアの詰まらなそうな言葉にアリスは肩を竦める。

「こんな所で足を引っ張る訳にはいかないからね。最後の手段を使わせてもらうよ」

 そう言ってアリスは静かに目を閉じて数瞬。再び目を再び開いた時、彼女の瞳は鮮やかな変化を起こしていた。まるで宝石に光を通した様に、彼女の青金石(ラピスラズリ)の瞳が光り輝いていた。

 それを確認したノヴィアの表情から笑みが消え、忌々しげに目を細める。それに呼応しオベルは唸り声を上げるとアリスに向かって駆け出す。数秒も置かずして到達したオベルは再び列爪の嵐を見舞う。

 先程と同じ展開、しかし結末までは同じにならなかった。アリスは舞うように軽やかに回避するとオベルの爪は掠るどころかまるで見当違いな場所を切り裂く。いや、正確ではない。アリスがオベルの行動を先読みするように動き、結果、オベルの爪がアリスの影を両断しているのだ。

「驚いたわね。今の状態で使えるのね、それ」

「その通り。魔女の業。万象を読み取る、呪われた瞳」

「最長三分だったかしら?」

「今は五分だね。でもそんなにかけないよ」

 アリスは徐に銃を構えるとウォルターを発射。それはまるでオベル自身が当たりにいっている様に顔面に直撃すると爆炎を上げて爆ぜる。しかしそれでは傷を負わせることができないのは重々承知である。

「召喚・ティルヴィング」

 彼女の指輪が光を放つと同時に空間が歪み、そこより一本の鋼の棒状物体が現れる。丈はアリスの身長を越え、形は細い直方体。銃口とシリンダー、銃爪(トリガー)があることより銃ではあるのだろう。

 しかし、それを撃たせる程ノヴィアは甘くない。視覚の回復したオベルは凄まじい脚力で、刹那にしてアリスに飛び掛り、アリスを喰らわんと大口を空ける。

 だが、アリスに一片の焦りもない。彼女はティルヴィングを握ると眼前に迫るオベルの頭部目掛けてそれを振り抜く。爆弾が爆発したかの様な音が轟き、オベルの肉体が冗談の様に林に吹き飛ばされる。

「僕が接近戦の方が強いこと忘れたのかな?」

 アリスは冗談めかして言うと、ティルヴィングの側面からグリップを起こし、地に伏すオベル目掛けて腰溜めに構える。

「来たれ第一の栄光、光縛の楽園(アースガルズ)

 彼女は歌う様に言霊を紡ぐと銃爪(トリガー)を引く。刹那、銃口から放たれたのは眩き一筋の光の大河。

 それはオベルを飲み込んでも留まることを知らず、光が消えた後にはオベルを初め森の木々、地面を虚無へと流し去った痕が一直線に伸びていた。

「......やるじゃない。それでこそ......」

 オベルが蒸発すると同時にノヴィアの魔方陣は消え、苦しげに吐息を漏らしたノヴィアは言葉を言い終える前に気絶した。

「......ごめん」

 アリスは独白するとその場に座り込む。霊眼に魔導砲とマキナを大量に消費したからである。そして、目を閉じると過ぎ去りし日に思いを馳せた。

 

 ウキトに従い、人二人が辛うじて並んで通れそうな狭い通路を抜けて地上に出、森を進んだ先の洞窟の最深部、そこが目的の場所であり、同時に驚くべき光景が広がっていた。そこの空間だけ、洞窟の壁から紺碧の光が溢れ出し神秘的な様相を作り出していたからである。

「視覚可能な程高純度のマキナが溢れ出している」

 沸き立つ興奮を抑えられずその美しい景色に見とれるリット。

「ここが目的の場所。我らが九百年守り抜いた遺跡。転位の門じゃ」

 ウキトは床に描かれた巨大な魔導陣、長い年月を越えて尚色あせることのないそれを指で撫でる。

「フェルス殿の話では、出口側の門も準備されとるらしいのう。しかし、あ奴、アインツ帝国と繋がりがあるとはいったい何者じゃ」

 アインツ帝国。それは八十年ほど前に建国された新興国であり、現在ファレト教国と唯一肩を並べうる、魔人が皇帝を務める帝国。ファレト、いやマグダリア教最大の仮想敵国であり、そのイデオロギーも決して認める事は出来ない。何故ならば、頂きに立つ皇帝ソフィーティアの掲げる制約とは人間と魔人の宥和。そしてその誓いを、八十年間国を保つことによって証明しているのである。しかし、その事実はファレト教国にしても魔人の小国にしても、看過できないものである。故にファレト教国内ではアインツ帝国は唯の魔人の国として扱い、詳しい情報を市民に与えていない。故にリットももちろんアインツ帝国の実情がそのようなものだとは知りもしなかったのである。

「アインツ帝国は人間を家畜として扱う恐ろしい国だって聞いてたけど、フェルスの話を聞くに面白そうなところね」

 初めアインツ帝国に逃げると聞かされた時、驚きの余り尻餅をついたことを思い出し、リットはお尻をさする。

(まぁ、得体の知れないあいつらが何をしていても不思議じゃないけど)

 フェルスの提案した作戦は、それは単純なもので、同時に誰もが驚きを隠せなかった。まず一つにこの村に張ってあった人払いの結界を一晩の内に強化。

 次に、村に来るであろう処刑人をフェルスが、村人が逃げるまでの間足止めをする。

 そして、それでも洞窟近くに来る部隊があればアリスが囮となって引き付ける。

 それらの間に洞窟奥の転位陣でアインツ帝国まで逃げ、出口付近で待機している帝国軍の部隊に身柄を保護してもらうというものである。

 その作戦において村人たちが驚きを隠せなかったのは二点。一点目はアインツ帝国と関りがあり、部隊まで動かせるということ。二つ目は村長しか知らなかったこの魔導陣の存在を知っていたということ。

 村人たちがこの二つについて訊ねても、守秘義務の一点張りで答えることはなかった。

 リットはその時の悶着を思い出し溜息を吐くと、逃げ遅れた村人が居ないかを確認する作業に戻った。その時、昨日話し掛けてくれた少女がフェルスの服を引っ張った。

「どうしたの?」

「オニイチャンガ、デテイッタヨ」

「ヘッ?」

 リットは洞窟内にいる村人を見回して確認するがやはり少年の姿が確認できない。

「ウキト様。少年が一人居ません。どうやら出ていったみたいです」

「何だって? あの子がかい?」

「あたしが探しに行きます」

 ウキトが頷き、リットが少年を探すために外に出ようとした時声が掛けられる。

「譲ちゃん。ルーシを探しに行くのか? ならば俺も共に行く」

 その人物はジェミニ街道で追い回したザミーマ三兄弟が三男、ゴリアテ。嫌な思い出があるリットは思わず渋面する。

「今までのことを水に流してくれとは言えん。だが何が起こるか分らん。お譲ちゃんに何かあったら村の恩人に顔向けできん。それにあの子は一人だからな」

 リットは彼の目をじっと見ると満面の笑みで快諾する。そして二人は洞窟か出た少年を追うために駆け出す。

「どこにいったか心当たりがあるんですか?」

「恐らくは騎士団と戦っているもう一人の譲ちゃんのところにいったのだろう。あの子は鏡心(ナイトメア)が使え、人一倍責任感が強い。最近この村に流れ着いたんだが、村を救うために労働にも加わった程だからな」

「......そうなんですか」

 思いがけず聞いてしまったあの少年の身の上話にリットは心が痛んだ。あんな少年も家族や友達、隣人たちを失うという地獄を見たのだろうか。

 リットたちは、フェルスに与えられた指輪の付加法(エンス)によってアリスの居場所を突き止めそこに急いだ。もし少年が運悪く処刑人や騎士団に遭遇すれば、いかに鏡心(ナイトメア)は使えようとも戦闘のプロに敵う訳がない。

 森を走って如何程か、リットたちはアリスとその周りに処刑人と騎士団が倒れている場面に遭遇した。

「アリス! 大丈夫?」

「ちょっと君。何してるんだよ?」

 ここに居る筈でないリットたちの出現をアリスは不機嫌な表情で迎える。

「悪いと思ってるけどこっちにも事情があるのよ。一昨日助けた少年が洞窟からいなくなっちゃったのよ。ここに来てない?」

「えぇ? また面倒ごと?」

 そこでリットは気付く。アリスがその場に座り込んで動かないことに。

「アリス、怪我してるの?」

「怪我もしてるけど、どっちかというと疲労かな」

「見せてみなさい」

 リットはアリスの怪我を見るために、アリスに近付き屈む。――キーン。この時、リットの額に僅かな疼痛が走った。それは本当に些細な違和感。しかし次に起きた事態は些細では済まされなかった。

 ドスッ。

『えっ?』

 鈍い音がしてリットは周りを見回す。しかし、何が起こったか理解できない。何故ならその事態を生み出したのはリット自身であるからだ。この事態を本人はおろか、アリスとゴリアテも飲み込めなかった。

 リットの手にしたナイフがアリスの腹に深く突き刺さっているのである。

 しかも、突き刺すだけでは留まらなかった。リットはナイフを掻き回して傷を抉ると更に下に引いて腹を切り裂く。そしてナイフを抜くと血が飛び散り、リットの顔を染める。一方、致命的な負所を負ったアリスは口から血を流し地面に倒れる。

「......だから言ったんだよ。ロクなことがないないって......」

「イヤァァァァァァァァァ!」

 喉が潰れんばかりの絶叫が森に木霊する。それはまさに絶望の音色。だが精神を犯されても尚、リットの手は執拗にアリスの体を突き刺し続ける。

 あまりにおぞましい状況にゴリアテは動くことすら出来ない。ナイフが抜き差しされる度に、飛び散る鮮血。これ程の陵辱を受けて生を繋ぐ人間などいないだろう。ならば執拗に死体を傷つける行為に及ぶ者は既に常人の思考を持ち合わせていない。

 それが例え、己の意思でなくとも。

「イヤァ、イヤァ、イヤァ」

 己の行っている行為を受け入れられず、既に精神が壊れたリット。遂に意識を保つことが出来ず糸の切れたマリオネットの如く全身の力が抜けて崩れ落ちる。

「これだけやれば流石に死んだよね? 流石、最上級魔導機、素人が使っても簡単に刺さっちゃうね」

 そして狂気の舞台に一人の演出家が降り立つ。

「ルーシ、どういうことだ?」

 彼は、リットとゴリアテが探していた少年。しかし、とても同一人物には思えない。朗らか笑みは、残虐なそれに変わり、纏う気配も酷薄。彼はアリスの無残な姿を見ると腹を抱えて笑い転げる。

「フフフ。これが、かの美しい氷獄の妖精の死に様。ダサ過ぎッ! 家に持って帰って標本にしたいなぁ。でも持っていくのが面倒くさいか。ザーンネン」

 ルーシはリットの持っていたナイフを拾うついでに、アリスの死体を路傍のゴミの様に蹴り飛ばす。

「どういうことだと聞いているッ!」

 まるで存在しないかのように無視されたゴリアテは怒気を漲らせて叫ぶ。

「うるさいなぁ。人が折角気分良くなってるってのに。 なんですかゴリアテさん?」

「お前はいったい何をしているのだ」

「見て分らないわけ? お馬鹿な女が、勘違い女を刺し殺したのを楽しく見てただけだよ。まっ、なんでこうなったかは教えないけどね」

「ふざけるなァァァ!」

 ゴリアテは怒りの余り、拳を固めてルーシに殴りかかる。しかし、その拳はルーシに届く直前で停止した。ゴリアテの全身が石像になったかの様に動かないのだ。

「ゴリアテさん。僕はあなたのことが好きだから助けてあげる。お兄さんが来たら伝えておいて。あなたの妖精は穴開きになりましたってね。フフフ」

 ルーシは倒れ伏すリットを担ぐと刹那にして姿を消す。漸く硬直から回復したゴリアテは目の前で起きた事態についていけず、己の無力に打ち震えるのみであった。

 

 洞窟からルーシが居なくなり、それを追ったリットとゴリアテが戻ってこないことで混乱をきたしている所に、昨日襲撃した処刑人の一団が現れ、村人たちはパニック状態に陥っていた。

 ウキトがその場を何とか治め、処刑人たちが魔人であり、味方であることを証明したことにより、パニック自体は沈静化したものの村人たちの不安を完全に解消するまでには到らなかった。

 それから十数分後、アリスを抱えたフェルスがゴリアテと共に帰還した。

「お主らだけかのう?」

「ああ。リットと少年は既に移送されたと考えていい。この場所が割れるのも時間の問題だ。という訳でさっさと転位を行うぜ」

 フェルスはあっさりと二人が敵の手に落ちたことを認め、転位の指示を飛ばす。しかし、仲間を見捨てることを良しとしない村人たちも存在した。

「おい、あんた。仲間を見捨てろというのか? そんなことは納得できない」

 フェルスはわざとらしく大きな溜息を吐くと彼の方をポンポンと叩く。

「さっきも言ったが、じきにここもばれる。助けるなら二人だけの方がやり易いからな」

「助けに行くというのか?」

「言ったろ? 俺は全員を脱出させるってな」

 フェルスの自信に満ちた返答に村人たちは安心すると魔導陣の中央へと集まっていく。しかしゴリアテを除いた全員が気付かなかった。フェルスの表情が妙に明るすぎたことに。

 そしてフェルスは厳かに言葉を紡ぐ。それは転位に必要なパスワード。

「接続:コード8199。転位:ポート3。開始」

 それに呼応し、紺碧に輝いていた壁の光が消え失せ、代わりに魔導陣が激しい光を放つ。次いで、魔導陣の外円から外が白光で区切られる。次第に魔導陣の中に居た全員が重力を遮断された様に体が浮き始め、その状態で数秒。一瞬、世界が極彩に染まったかと思うと全員の重力が戻り地面に落下。 

 その時には既に周りの景色が一変していた。何かの建造物の中だろうか。上に吊るされた明かりに照らされた部屋の壁は金属製で窓の一つもない。唯一扉らしき物が存在するだけである。

「はい到着。束の間の幻想はお楽しみできたでしょうか?」

 フェルスは面白くなさげに報告するとアリスを抱いたまま扉の前に立つ。するとその扉は自動に左右にスライドし村人たちを驚かせる。彼らの驚きを無視して外に出ると暖かい陽射しが照り付けていた。だが、フェルスは暖かな日の光を楽しむ時間も与えられていなかった。彼の前には黒塗りの鎧を身に着けた騎士の一団。凡そ三十名ばかりが整然と並んで待っていたのである。

「おい貴様。到着時刻を超過しているぞ。しかも目標が一人足りていない。どういうことだ?」

 その騎士団の前に立っていた男がフェルスに詰め寄る。漆黒の軍服を些かの乱れなく着込み、整えられた髪の色は目に掛けたサングラス同様に燃え立つ様な紅。二十代前半と思しき細身の青年は、直立して微動だにしない騎士団の手前で自由に振舞っているので高位の階級に位置していることは明らかだろう。

「落ち着けよスレイン。禿げちまうぜ? それよりなんで近衛騎士団がいるんだよ? まさかと思うが......」

「禿るだと? ならば完璧に仕事をこなせ、この能無しが。我々の代わりにリード殿が城に残られた」

「つうことは来てるのか?」

「その通りだ」「その通りなのだ!」

 甲高い少女の声がテンション高めに響き渡る。騎士たちは踵を鳴らすと同時に腰に差した鞘から剣を引き抜き、切っ先を天に向けて、胸の位置で構える。それはアインツ騎士団における礼。そして現れたのは年の頃十代前半の少女。装飾の少ない質素なドレスは漆黒。それを身に纏いながらも衰えることのない気品を湛え、膝まで届く明るい水色の長髪を風に靡かせ優雅にフェルスに歩み寄る。

「お久さ! 元気にしてた?」

 などと放つ雰囲気を明らかにぶち壊した気軽な挨拶をする。

「......あのなぁソフィ。近衛騎士団を動かすと何かと面倒になるだろうが? そもそも今回は隠密任務だろ。目立ってどうする、目立って!」

「私だって、少数でこようと思ったんだけど、頭の固い役人が無理やりついてきのさ。メーワクだよねー」

「すまんが一つ訊ねてもよろしいか?」

 フェルスの言葉をウキトは聞き逃がさず流石の彼女もその仮定を訊ねずには居られなかった。

「どうぞどうぞ」

「あなた様が、もしや、ソフィーティア・アンビエンテ様であらせられますか?」

「その通り。私がアインツ帝国皇帝、聖なる十神の最大の敵にして、魔人の皆さんの爪弾き者、かくしてその正体はプリティーなお姫様、ソフィーティア・アンビエンテその人なのだ!」

「うわ。頭が悪い紹介。皇帝でお姫様って無理があるだろ......、しかもプリティーって自分で言うか」

「そこ、人の悪口禁止! っていうか君に言われたくない」

 彼女の口上はともかく、彼女の正体に村人たちも騒然となる。それもそのはず。アインツ帝国皇帝ソフィーティア・アンビエンテはパンゲアを二分する大権力者で、彼女の姿を直に見ることが出来るのは政治の最高役職に就いた者か彼女直属の側近、そして彼女の城を護る総勢五十名の近衛騎士団のみ。長い歴史上で巨大な国を作ってマグダリア教と対抗する唯一の存在にして、魔人と人間の共存を維持している稀有な国の支配者。生きる伝説といっても過言ではない人物が敵国で暮らしていた一般住民の前に姿を見せるなどどう考えても有り得ない。

「そうだ、今度また連れて行ってよ! 城に居ても暇なだけだし、居てもい居なくても変わらないんだし。 ねっ? そうしよう!」

「嫌だよ! お前を連れて行くと、事態がいつもややこしくなるんだよっ!」

「いいじゃん、いいじゃん! アリスばっかりずるい! 私もフェルと乳繰り合う!」

「俺がいつお前と乳繰り合った!」

 二人の遣り取りに唖然とする村人たち。彼女の言動からとてもかのアインツ帝国の皇帝だとは思い至れない。そして、村人の一人がその想いを口に出す。空気を読めないのはまたしてもあの大男。彼はフェルスに殺されかけたことを忘れたのだろうか。

「ふざけるのも大概にしろ! このような小娘がマグダリ教の最大の敵であるアインツ帝国の皇帝であるわけがないだろうッ!」

 大男の言を聞いたソフィは、不機嫌そうに眉を潜めると、世にも邪悪な笑みを湛える。フェルスはその様に肩を竦める。

「ねぇ君。頭を垂れなよ」

 可愛らしい少女の声とは裏腹に逆らうことを許さない威圧感がある。しかし、大男を襲ったのは別の恐怖。少女と視線が合った瞬間、無意識に全身が震えだし、汗が滲み、一秒と持たずして腰が抜ける。大男は何が起きたかは理解できない。しかし、目の前に居るアレは自分とは違う何か。まさしく埒外の化物。本能が逃げることすら拒み、唯少女が興味をなくすことを望むだけ。ソフィはそんな彼を一瞥すると薄ら笑いを残して視線を外す。一連の出来事が彼女が只者ではないことを村人たちに示す。

「ソフィーティア様、村の者の御無礼、どうかお許し下さいませ」

 ウキトはその場に膝つき許しを請う。ソフィはそんな彼女の手を取り立ち上がらせると、気にしてないとあっさりと許す。顔に血の気の戻ったウキトはフェルスに訊ねる。

「お主、只者ではないと思っていたが、皇帝様と面識があるとは思わなんだ。一体何者じゃ?」

「あれ、話してないの? フェルと私はアインツ帝国結成時からの戦友。そして私の頼れる騎士様だよ」

「補足するとこの男は皇帝直属の機関、墓無し(グレイブレス)の一員だ」

「更に補足するとガルムが本業で皇帝様のパシリは副業だ」

「何を言ってるんだよ! フェルはいつか私と結婚して皇帝代理となるんだから」

「誰がお前と結婚するかっ! 皇帝代理なんてゴメンだッ!」

「ぶー」

 フェルスの素っ気無い物言いに口を尖らせて抗議するがそれを完全に無視する。

「ああ。そういえばスレイン。あんた、新しい人材が欲しいって言ってたよな? スカウトして来たぜ」

 フェルスが指差した先には急激な変化の中でも冷静さを失っていない四人の姿。スレインはサングラス越しに彼らを見定める。

「あの白髪は即戦力になるな。他の三人も鍛えれば良いか。貴様の人を見る目だけは価値がある」

「いつもながら厳しいねぇ。それじゃ俺はもう行くわ。アリスの治療を頼む」

「あのアリスがこんなにされちゃうなんて......」

「気を抜きやがったんだろうよ。情けないぜ」

「そんなこと言ってハラワタ煮えくり返ってるくせに」

「うっせ!」

「あっ、フェル! 汝往く道に光あれ!」

「おう、見とけよ。今回は飛び切りいかれた光があるぜ」

 ソフィの述べたマグダリア教の祝福に冗談めかした言葉で返し、フェルスは再び扉の向こうへと消えていった。

「意外に冷静でしたね。あの狂人がお人形を傷つけられたというのに」

「君がフェルたちを嫌いなのは仕方ないけど、その言い方はどうかと思うよ。それと全然冷静じゃないね。アリスをこんな風にした奴は多分死ぬよりひどい目にあうんじゃないかな? あーあ、本気で切れてたから、任務を忘れてなければいいけど......」

 ソフィの不安を宿した瞳はフェルスの消えた扉をずっと眺めていた。

 

 リットが目を覚ました時、自分が何故ここに居るのか分からなかった。凡そ四米四方の木造の部屋。窓は一つもなく天井から吊るされた電灯だけが唯一の光源である。リットは鋼鉄製の扉を開けようとするが押しても引いてもびくともしない。彼女がどうしようかと思案するために床に座り込んだ時、鍵の開く音がし一人の男が入って来た。

「......レイム様、これは一体どういうことです?」

 純白のローブを纏い、穏やかな笑みを浮かべるのは守護士レイム。そして処刑人の話から推察する村を襲わせ、自分を処刑しようと目論む人物。

「イングリット様、お父上が何故生まれて間もない我が子を、人里離れた教会にお預けにならねばならなかったか、お考えになったことがありましたか?」

 質問の意図が読めず困惑するリット。レイムは彼女の返答を待たずして話を続ける。

「あの方は守りたかったのですよ。愛おしい我が子に待つ死の運命から。御自分が命を捨てる覚悟をなさってね。これが私から貴方様に捧げる最後の手向けです。さて、行きましょうか」

 断片的ながらも父親の真実を聞かされ呆然となるリット。そして彼女の意識とは関係なく体がレイムの後を追う。夜風が冷たき刃となりて切り裂き、リットを我に還させる。

 そして彼女が目にしたのは眼前で鮮やかに輝く虹彩とその光を背に浮かび上がる十字の影。

 それは自分を張り付けるための十字架。しかもそれだけではない。その十字架の周り、数多の人々が囲む様に集まっていた。皆言葉こそ発しないが、霊君の娘が行った神への背信行為に憎悪の炎を瞳に宿し、罪人を睨み付ける。

 リットが彼らの激情に怖気を感じている内に、彼女は十字架の前まで到達していた。彼女の心には諦観の念しか残ってはいなかったが、ふと目を遣った先に己を貶めた人物を見つけ怒りに震える。

 あの少年ルーシは灰色のローブを着、十字を象った銀剣を携え、眠そうに目を擦っていた。

 彼が自分に剣を刺す役のようだ。湧き上がる憤怒がリットの心を焦がすが体が自由に動かない。何かを言おうにも口も動かない。皮肉にもそれは生への執着を膨れ上がらせる。

(くそっ! このまま死にたくない! 終わりたくないッ!)

 彼女の願いは虚しく、両手両足に拘束帯が巻かれ十字架に固定させる。そしてルーシは満面の笑みを浮かべ銀剣を構える。せめて最後の一瞬まで怨敵に屈しない。リットは心に誓うとルーシを瞳に捉え外さない。そして、剣が刺し出される。

 だがその時、十字架の真上で、眩い光が夜闇のみならず泉から漏れる虹彩すら飲み込んだ。

 その輝きが収まった時、十字架の上に降立った者に、その場に居た誰もが目を奪われた。閃光より現れたのは一人の騎士。夜風に流れる長髪は身に付けた鎧と同じ灰色。真紅のようとう(ようとうを)は手にした蒼き長剣と対を成し、仮面に覆われた瞳は何も語らない。

 物語に謳われた神の代行者。真なる救世の勇者。灰被りの騎士。突如具現化した神の奇跡に、信心深い市民たちは皆膝を突き祈りを捧げる。

「聞け、愚かにして愛しき神の子らよ。汝らは再び大過を犯そうとしている。今まさに磔刑に処されようとしているこの娘。この娘こそが次なる救世の勇者である。私は汝らの過ちを正すために天より使わされた。この罪深き愚行に神は断罪の刃を下ろすであろう。即ち、紅ノ塔をこの街にお立てになる。神の大いなる慈悲を解した者は直ちに街から去れ! 紅に呑まれることは咎人の証明。死後は地獄に堕ちることとなる!」

 灰被りの騎士は厳しく衆人を見回すと、静かに、そして慈しみを孕んだ声音で宣告する。

「見よ、第一の徴が現れた」

 彼は天に乞う様に手を大きく広げる。すると泉から虹彩が消え去り、その上空を浮遊していた空中聖堂が徐々に高度を落とし、遂には泉に着水。盛大な飛沫を上げ、打ち上げられた水が雨となって市民に降り注ぐ。

灰被りの騎士の宣託は真実となった。住民たちは紅ノ塔に呑まれまいと我先にと逃げ出す。そして聖堂前広場から誰も居なくなった。騎士は街の混乱を気にも留めず磔のリットを開放する。

「よう、リット。敵の偵察を頼んだ覚えはないぜ」

 騎士の口から紡がれたのは聞き慣れた嫌味。リットは感極まってフェルスに抱きつく。

「遅いよ、馬鹿。......来てくれてありがとう」

 フェルスもリットを落ち着かせるために優しく抱きしめる。

 しかしその温もりが己の罪を呼び起こす。

 リットは悲鳴を上げてフェルスから飛び退くと頭を押えて疼くまる。おぞましいトラウマが呼び起されたのだ。

「......私、......アリスを。......ごめんなさい、ごめんんさい......」

 嗚咽を漏らして繰り返し謝るリットを再び抱きしめる。

「大丈夫だ。あいつは死んでない。安心しろ。それよりもあの場で何があった」

 彼の優しい声音と語った事実がリットに正気を取り戻させる。リットはフェルスからゆっくりと離れるとあの場の出来事を話し出す。フェルスも一応の事情をゴリアテから聞きはしたが確証を得られなかった。しかし、リットの話で確信する。

「確実にあのガキに操られてたな」

 フェルスはそう言うと徐にリットの体を探り出す。

「ちょっと! 何してるのよ!」

「あのおっさんの体にも貼ってあったんだよ」

 フェルスはリットの手を掴むと注視し、何かを剥がす。それは薄い透明のシール状の物。カリムの報告から、他の処刑人を操っていた魔導機は体に張られたシールであることが判明していた。体の自由が一時的に奪われたゴリアテの体からもそれが発見され、リットの体にもあるのではないかと思えば案の定である。

「これでよし。もう体の自由は奪われないだろうよ」

 シールを丸めて捨てるとフェルスは何処かへ歩き出す。

「ちょっと、何処に行くのよ?」

 自分の体は操られていただけだと知り少しばかり罪悪感から開放されたリットはいつもの調子を繕う程度に自分を取り戻す。

「いい所さ」

 フェルスはあの、見た者全てに万事上手くいくと思わせる笑みを浮かべると月光が降り注ぐ夜道を歩き出す。

「おっと、忘れてた」

 フェルスが足を止めると全身が光に包まれ、その光が止んだ時にはいつもの黒服に戻っていた。手に持った模造剣を地面に突き刺すと告げる。

「んじゃ、気を取り直して行きますか」


 フェルスが向かったのは、泉の脇に存在する小屋。彼は躊躇なくその中に入る。五米四方の空間には何も無く、寒々とした空気のみがこの場所の存在。フェルスは虚空から水晶を取り出すと小屋の中心に置く。

「なによそれ?」

「こいつは魔導陣に無理やり介入して操作する品物さ」

 途端、水晶が白光し、それに呼応して床に描かれた魔導陣が浮かび上がる。そしてガラスの割れる様な音とともに床の一部が消失。地下へと続く階段が現れる。

 フェルスが握った手を開くとこぶし大の光球が生まれ、それを光源に暗い階段を下って行く。

 この先に自分の望む真実がある。リットは確証が無いながらもそう感じていた。先の見えない暗黒、一段降りるたびに気温が下がっていく錯覚を覚える。

 徐々に増していく暗闇の恐怖に耐えるリットにフェルスが不意に訊ねる。

「なあ。俺は世に出回ってる灰被りの騎士の最後がどうなった知らないんだわ。最後にはどうなったんだ?」

 意外な質問に面を食ったが、リットは咳払いをすると語り始める。

「そんなこともしらないで灰被りの騎士のふりをしたの? 危ないわね。三大魔王、最後の一柱、ベリウスを倒され魔人たちは西へと帰っていった。そして、天命を成就した勇者は天に還るまでの一時を、大陸中央の小国で過ごしたの。そこには二人の姫君がいた。どちらも美しい少女だったけれど、勇者は心の清らかな妹君と結ばれた。しかし、そのことを妬んだ姉君は魔女になって妹君を八つ裂きにし、その余りに惨たらしい妹君の死体に勇者は嘆き、天へと還っていったの。その後魔女は国を支配したのだけれども、神の怒りに触れてその国は浄化された。 

 けれど、魔女の放った魔獣(アルコン)が聖都を襲い、八百年近く無事であった中央聖堂が焼け落ち、当時の霊皇様も犠牲になられたのよ。その後魔獣(アルコン)は十神様によって浄化されたって話よ」

 物語を語ったリットは何故そんなこと聞いたのか不思議に思う。

「この話がどうかしたの?」

「いや、ちょっと興味が湧いてな」

 フェルスは真意を語らないまま歩みを進める。そして到着した最下層。そこには巨大な空間が存在していた。壁は泉と同様の虹彩の光を放ち、それとは別に床には魔導陣が白光していた。

「よう、お二人さん。ここに居たか」

 フェルスが友人にかける様な気軽さで声を掛けたのは魔導陣中央に立つレイムとルーシ。

「後は任せるよ」

 レイムにそう言い残すとルーシの姿が掻き消えた。

「お仲間は逃げたみたいだぜ。あんたはどうする?」

「私は君の足止めだ。神の威光を汚さぬためにもこの儀式は必要だからね」

「先に魂を掻き集める気か?」

「ちょっと私にも説明しなさいよ!」

 全てを知っている二人の話についていけず口を挟む。しかしそれは仕方ないだろう。彼女の身にも深く関係しているのだから。

「オーケイ。説明してやるよ。但し、真実を知ることになるぜ?」

「あなたが言ったのよ、自分を信じろってね。私は決めたの」

 彼女の覚悟を察したフェルスはレイムの動きを警戒しながら語り始める。この国の裏側を。

「全ての始まりは一振りの剣だ。それは強大な力を秘め、大いなる使命を帯びていた。その担ぎ手こそが、かの聖女にして零代目の救世の勇者ディアナ・マグダリアだったのさ。彼女はその剣を手に使わされた天使たちと共に敵と戦った。しかし、それを良しとしない者がいた。そいつはディアナと天使を封印すると、彼女に縋った人々を纏め一つの宗教と国を作りあげた」

 そこで一区切りを入れると話しに聞き入るリットに目を向ける。

「人間を纏めたそれには維持するための敵と大義が必要だったのさ。そこでそいつは絶対無敵なるその剣に目をつけた。しかし、神剣には意思があり正当な担ぎ手にしか力を貸さない。そいつは研究の末に一つの儀式を思いついた。勇者の遺伝情報を引き継いだ子を作り出し、そいつらの魂と引き換えに剣の意思を従属させた。そしてもう一つ、神剣の力を引き出し、且つ極限まで高めるために出来るだけ多くの人間のマキナ、魂を捧げた。つまりだ。百年に一度立つ紅ノ塔とは、世の理を遥かに逸脱した付加法(エンス)を使用したために起こる、世界からの修正力。俺たちが神秘法(セクト)を継続的にマキナを流さないと維持できないのと同様の現象。しかし、その付加法(エンス)があまりに規格外のために通常よりも遥かに強力な吹き戻しが発生して、結果、紅ノ塔が立った場所はその現象に関連する人間を根こそぎ消し去るのさ」

 フェルスの語った真実はリットの想像を凌駕していた。一守護士の企みとは訳が違う。それはこの国の歴史と在り方を根本的に破壊するものであった。しかし、リットの心は折れることはない。何が正しいかはまだ分からない。だが、この旅で培った現実が彼女に可能性を考察させだけの余裕をもたらしたのだ。フェルスは彼女の毅然な様子にニヤリと笑みを零し続ける。

「ここまで話せば分かるだろ? つまり、リーガルリリー家の父娘はこの世に唯一現存する勇者の血の末裔。アーノルドはこの国の真実を知り、生まれ来る我が子を守るために自分の息が掛かった教会に預け守った。まぁ、人生ってのは思いの外上手くいかないから、現状に達するわけだ」

 リットは父の真実を知り、涙を流す。今まであの様な場所に預け滅多に会いに来てくれない父を心の底から恨んでいた。しかし、違ったのだ。父は自分を守るために外界との交流が少ないあの場所に預け、代わりに死に行く覚悟を決めた己に想いを持たせないために突き離していたのだ。

(それでも、私は父さんといっしょにいたかった......)

「......流石は灰被りの騎士殿といった所ですね。私も聞かされなければ知ることなく生を終えていたでしょうに。しかも、私も少々知らない部分もありましたし」

 涙を拭いたリットはその聞き逃せない言葉にフェルスを驚き見る。

「俺が灰被りの騎士だって? んなわけあるか」

「私も聞いただけですので」

 肩を竦めるフェルスに、微笑を崩さぬレイム。

「んで、あんたはどうするんだ?」

「言ったでしょう? 足止めですって。これが何か分かりますか?」

 レイムが懐から取り出したのは、七色の色彩を閉じ込めた宝石。それを何か知っているフェルスは顔を歪めて睨め付ける。

「神威の種。正気か?」

「ええ、私は自分の願いのためには命も惜しくはありません」

 ふと、フェルスは何かを思い出したように訊ねる。

「そういや、単純な興味なんだが、なんであんたは魔人に慈悲をかける?」

「変なことに興味を持ちますね。私は人間と魔人は同じだと知っています。そして私は願っているんですよ。魔人と人間が共に歩める未来を。あの方は私におっしゃった。ついてゆけば全てのヒトは等しき存在になると。その未来のためなら私の命など喜んであげましょう。叶えたまえ我が想い!」

 レイムは躊躇いも無くその宝石を額に押し付ける。するとそれは頭部が泥かの様に肉体に沈み行き、ついで響くは獣の絶叫。あの知性に満ちた守護士の口から発せられるとは思えないその狂気にリットは後ずさる。

「何が起きてるのよ......」

「あの神威の種は人工的に作り出した鏡心(ナイトメア)。古からある技術で適応できれば後天的な魔人になれる。ができなければ、ああだ」

 レイムの肉体が不均衡に膨れ上がり、肌が白濁化していく。顔も膨れ上がった肉に飲み込まれ、残ったのは肥大化した四肢と禍々しく延び切った爪。それは醜悪な怪物としか形容の仕様が無かった。

「......四肢が残ってるだけマシな方か。ここを動くなよ」

 リットに念を押すと紅剣と封剣を召喚し駆け出す。その場で立ち尽くし不気味に爪を蠢かしているだけだったレイムも、フェルスの動きに反応するように動き出す。

 フェルスは大雑把に振りかぶって放つレイムの一撃を、僅かにしゃがんで避けると封剣を横に一閃、レイムの上半身を斬り飛ばす。しかし、上半身は一瞬にして黒い粒子になると下半身から即座に生えてくる。

 フェルスは即座に飛び退くがレイムの腕がゴムの様に伸び、わき腹を裂く。次いで放たれるのは熾烈な連続攻撃。レイムが腕をフッリカーの様に振るう度に、それが伸び、隙も少なくフェルスに襲いかかる。

 小傷を増やしながらも回避を続け、機会を見計らって両手を切断。その瞬間に後方へ駆爆で下がると、紅剣を構え光流・雨を放つ。派手な爆発が咲き乱れ残されたのはレイムの足のみ。 

 だが、それだけの肉体でも瞬時にして再生してしまう。

「ちっ!」フェルスは額に滲んだ汗を拭うと敵の行動を待たずして肉薄し戦闘を再開する。

 確かにレイムの再生能力は脅威だが、リットはフェルスの方にも原因があるのではないかと感じていた。レイムの行動は確かに早い。しかし、フェルスの動きは今まで見せたどれよりも精彩を欠いて気がしてならない。何よりも表情。いつもは飄々としているのに、顔が苦痛で歪んでいる。

 やはり、フェルスに何かしらの異常が起きていると考えていいだろう。フェルスが光流・雨で爆砕させる。その隙を突いてフェルスを呼び寄せる。

「お前、戦闘中に声を掛けるとか、まじ危ねぇだろ!」

「悪いとは思ってる。でもあなた、何処か調子がわるいんじゃない?」

「ちっ。ああ、最悪だ」

 惚けても無駄だと感じ率直に答えるフェルス。ふと、考え込みリットの肩に手を掛ける。

「作戦がある。協力してくれねぇか?」

 彼の焦りを感じたリットは無言で頷く。

「観察したところ。奴が反応する対象は二種類ある。一つ目は動いている物体。二つ目はマキナを発する物体。順位は前者が優先されている」

 苦悩をする様に目を閉じて数秒。再び話を続ける。

「そこでだ。俺は奴を仕留める奥の手がある。だが、時間がいる。お前に神法(グレイス)を施すから時間を稼いでくれ」

 リットは大きく深呼吸をすると躊躇い無く頷く。この場に来てフェルスが勝算の無い賭けをしないことを知っているからだ。

「あたしはあなたを信じてる」

「上出来だ。凡そ一分間、あんたの筋力と反射速度を高める。三十秒あいつの気を引いてくれ。頼む」

 リットは再び大きく頷く。フェルスは彼女の瞳に宿る覚悟を見据え、託す。

「我乞うは雷神ペリシス 我欲するは高き御技 雷神の翼 応え・示せ 求め・助けよ 我は膝折り乞う者 汝導きしは光 雷翼の光駆」

 フェルスの右手の光に紋章が輝き、同時にリットの体が金色の光を纏う。

(体が軽い)

 床を蹴れば生まれてから今まで到達できなかった高みまで跳んでいきそうな気がする。

「行ってこい!」

 フェルスの掛け声と共にリットは駆ける。かつてない速さ。景色が凄まじい勢いで後方に流れていく。

「ウバアァァァァァ」

 最早頭部の存在しない化物が雄叫びを上げる。その奇怪さだけでリットの心臓は鼓動をます。

 怖くないわけが無い。だが、あのフェルスに頼られたのだ。ならば応えるしかない。今この時こそが彼女のガルムとしての第一歩なのだ。顔の直ぐ横を爪が走り、頬が僅かに裂ける。

「お返しよ!」

 リットは叫びと共にレイムに光弾を放ち仰け反らせると速力を込めてレイムの体を蹴り飛ばす。床を何度か転がりはしたがレイムは直ぐに立て直すとリットに襲い掛かる。

「まだまだよッ!」

 

 リットがレイムに向かうと同時にフェルスは封剣を地面に突き立てる。その瞬間、水面に落ちた墨の様に封剣から地面に魔導陣が流れ開く。

「第一次拘束封印解除」

 無感情な響きと共にフェルスの全身に幾何学模様が現れる。激しい耳鳴りが木霊し意識が薄れるのを感じる。額から汗が噴出し、右腕が俎上の魚の様に大きく跳ねる。

「テメェなんかに喰われてたまるかぁぁぁぁ!」

 迸る咆哮、空気が振動し、地面が鳴動する。そしてフェルスの右腕に光が纏われ、ガラスの割れる音と共に変化が起こる。右腕の光が飛び散るとそこには黒き腕。そして右の背には漆黒の翼。右の瞳のみが金色に変化している。何よりも纏う空気が明らかに変化している。彼のマキナが鼓動を打つ度に大気が震える。

「ちっ。最低の気分だ」

 フェルスはそう零すと、紅剣を天に掲げる。すると紅剣から鮮やかな蒼光が放たれ、剣が変化する。それは蒼く透通った刀身を持つ美しき大剣。数多の魔人を葬ったフェルスの得物、葬剣トートの真の姿。

「リット! 全速力で離れろッ!」

 フェルスは叫ぶと構えをとる。半身に構え、切っ先を相手に向けるそれは突き。そして突き出す動作と共に放たれたのは必殺の輝き。それは蒼き光の洪水。飲まれた者はその存在をこの世に残しはしない。

「......アイリス」

 蒼き激流がレイムを飲み込む直前。既に人としての意識を失っているはずの彼は一人の女性の名を呼んだ。そして彼は眩き光の中で天へと還っていった。

 蒼き輝きが収まった後、リットはフェルスに駆け寄ると頭をぶん殴る。

「もう少し早く言いなさいよッ! 危なく巻き込まれるところだったじゃない! ていうか、それよそれ! あなた、本当に灰被りの勇者なわけッ? それにその姿は何よッ? ああッ! 聞きたいことが多くありすぎよ」

 仮定と事実は違う。リットは目の前のフェルスが、幼い時からずっと敬愛してやまなかった灰被りの騎士だということに混乱をきたし頭を抱えて唸る。

「認めるぜ。俺が灰被りの騎士だ。残念だったな大層な人物じゃなくて」

「別にいいわよ。本の中よりも本人に話を聞ける方が素敵じゃない?」

 吹っ切れたように明るく笑い飛ばすリットに、若干の驚きを隠せない。

「それよりもその姿はなによ? 魔人じゃないって言ってたわよね?」

「その話は後だ。おっぱじめる気だ」

「きゃっ」

 フェルスは話を遮るとリットを抱き寄せ、蒼剣を天井に向ける。

「何するのよっ!」

「葬龍・滅蒼」

 勿論リットの抗議を無視し、加減した蒼き光を天井に向けて放つ。それは天井をいとも容易く貫き通すと地上までの大穴が開き、そこより泉の水が雨の如く降り注ぐ。目の前で伝説の魔獣を葬った一撃を目の当たりにしたリットは恐怖と感激で口を閉じるのも忘れる。

「しっかり掴まっとけよ」

 そんな彼女に一応一声掛けると片翼を大きく開き、床を打つ様に羽ばたく。すると瞬く間に床を離れ、矢の様に景色が流れ、数秒の内に街の上空へと躍り出る。リットは眼前に広がる展望に状況を忘れて見入る。

「ちっ! やっぱりか、あのクソガキ!」

 フェルスは忌々しげに毒づく。ジェミスの街の上空に巨大な魔導陣が展開されていたのだ。彼は大きく手を開き天を仰ぐ少年の下に降り立つ。

「拘束封印施術」

 その言葉と共にフェルスの翼が消失し右腕が元に戻る。地上に足の着いたリットは足手まといにならないように距離を取って彼らを見守る。

「今の蒼光......。成程ね。通りで早いと思ったら切り札を使ったんだね」

 少年は朗らかな笑みを湛えると歌うように話す。

「んなことよりも、上空のアレ、消したらどうだ? 俺の所為でここいら一帯に居る人間なんてたかが知れてるぜ?」

「それなら、これでどうだい?」

 少年が指を鳴らすと、上空に展開されている魔導陣を中心に、その周りに更に六つの魔導陣が展開される。

「君があんな手で人を逃がすとは思わなかったよ。信心深いってのも考えようだね。でも僕らの主の方が一枚上手さ。この連結魔導陣なら街全体を覆うことができる。門も閉じてるしね」

「新技術って奴か。お宅らも必死だねぇ。なら核を壊すまでだ」

「させると思う?」

 ルーシが懐から取り出したのは何の変哲もない一丁の拳銃。

「......おいおい、そんな銃で俺を殺れると? ......なんていうと思ったか? この局面で出すんだ、喪失機(ミッシングワーク)か?」

「ホント、口が減らない。屍になったら静かになるかな?」

 ルーシが冷笑を浮かべると虚空に光が溢れ、ガラスの割れる小気味の良い音と共に外套が出現する。ルーシはローブを脱ぎ捨てると代りにその外套を纏う。そして、舞台上の役者の様に芝居がかった一礼をする。

「これより開演しますは死を題材にした喜劇。どうぞ最後までお楽しみ下さい。開演」

 少年が地面に突き刺した銀剣を引き抜くと一瞬にして姿を消す。

 ざわりと背中に悪寒が走り、フェルスは透かさずその場から飛び退く。すると今しがた自分を居たところを一条の光線が翔け、その光が刺さった石畳に深い穴が穿たれる。

 フェルスは咄嗟に反転し紅剣を構え光弾を撃つ、が既にルーシの姿は消失。

 そしてなんと、彼はフェルスの懐に現れる。フェルスは少年を蹴り飛ばそうとするが僅かに間に合わず消失。あとには少年の笑い声が響くだけ。

「うぜぇ。跳躍がお前の鏡心(ナイトメア)か?」

「ピンポーン」

 フェルスの正面に出現したルーシは銃を構える。流石のフェルスも光の速さを回避すことは出来ない。故に銃口から射線を割りだし、銃爪(トリガー)が弾かれる前に避ける。光線はフェルスの僅か横を穿つとルーシは再び消失。

 しかしフェルスは無理矢理に体を反転させると封剣を構え、虚空目掛けて突き出す。

 フェルスは予知でもできるのだろうか? 

 丁度その位置に出現したルーシは迫りくる刃を見るや即座に転位する。

 フェルスは空ぶった封剣の刃を収束させつつ左斜め上に紅剣を構えると光弾を放つ。

 なんと、再び彼の狙った場所に少年が現れ、避けること適わずに命中。吹き飛ばされた少年は石畳を無様に転がる。

「なんで分かったのかな?」

 むくりと起き上がった少年の顔には変わらずの笑み。しかし、頬は引き攣り、眉間には青筋が立っている。

「なぁに、手品の種は簡単さ。人間の転位には強大なマキナ反応が伴う。集中してそれを追えばドンピシャってわけさ」

 フェルスは余裕げに誇るとルーシに冷たき殺気の満ちた瞳を向ける。遠目で見守っていたリットも彼の殺気に背筋を震わせる。

「お前がリットを操ってアリスを刺したんだろ? お前は許さねぇ。一生残る屈辱を味わわせてやるよ」

「......ホント、目障り。死になよ」

 不気味なくらい平坦な声音を残してルーシは消失。出現を予測したフェルスはそこに封剣の切っ先を向け頃合を見定めると滅龍・瞬突を放つ。

 しかし予想外の事態が発生する。ルーシは狙った場所ではなくまったく別の場所に出現し、光線を放ってきたのだ。フェルスは咄嗟に回避するが間に合わず、右腕を掠る。

「君の勘違いを正してあげる。確かに転位には莫大な反応が伴うけど、小回りが結構きくんだよ。こんな風にね!」

 ルーシは小刻みに転位を繰りかえしその度に光線を放つ。それは光の乱舞。フェルスは駆け、跳び、転がり、あらゆる手を尽くして回避を続けるが、ルーシの速度について行けず、初めは僅かに掠る程度だった攻撃を遂にはかわすこと適わず、身に数条の光線を受ける。だが、それでもフェルスの闘志は衰えない。

「もう飽きちゃった」

 何処より少年の酷薄な声が響いた。フェルスは既に読むことの出来なくなったルーシの攻撃を殺気だけで回避を試みようとする。

 しかし、フェルスの体は凍り付いた様に動くことを拒み、ルーシの放った光線が腹部を撃ち抜く。次いで、両腕を打ち抜かれ得物を落とし、徒手空拳となったところで銀剣を携えた少年がフェルスの眼前に出現。その剣をフェルスの左太ももに突き立て引き抜く。

 盛大に血飛沫を流しその場に崩れるフェルス。そんな彼を卑下して冷たく言い放つ。

「何が屈辱を与えるだよ? 今のきみの姿の方がよっぽど屈辱的だと思うけどな?」

 フェルスは起き上がると怒りで揺れる瞳を向ける。

「......何をしやがった。お前の鏡心(ナイトメア)は跳躍じゃねぇのか?」

「ああ、そうか。自己紹介がまだだったね。僕の名前は......、面倒くさいからルーシでいいや。

 霊皇直属の機関"アルカナ"が十三席目。吊るされた男を宿す者。そして僕の能力は跳躍と心身の支配」

「成程。元々は進展者(プログレス)で、更に神威の種を宿したのか?」

「その言い方は嫌いだよ。偽善者の戯言だ。半魔人(デミヒューマン)といいなよ」

――進展者(プログレス)、或いは半魔人(デミヒューマン)。それは人間の進化とも、魔人の成り損ないとも言われるヒト。その特徴は鏡心(ナイトメア)ではない別の特殊能力を宿す異能の者たち。その性質故、人間にも魔人に馴染めない放浪者である。

「だが、進展者(プログレス)は神威の種を宿せないはずだ」

「......君ねぇ。それも技術の進歩って奴だ、よッ!」

 ルーシは言い方を正そうとしないフェルスに苛立しさを隠し切れず、剣を振り上げると激情に任せてフェルスの止めを刺そうとする。徒手空拳かつ肉体の支配をされたフェルスに何かを起こす力はない。だが、ルーシは彼の瞳が気に入らなかった。消えていないのだ、意志が。

 そして、振り落とされた刃がフェルスの頭部までわずかの時、ルーシの姿が掻き消え、その位置を光弾が通り抜ける。

「大丈夫?」

 その声の主はリット。彼女は堪らず飛び出してきたのだ。

「危ないから離れてろよ」

「それはできない相談ね」

 呆れて溜息を吐くフェルスに得意げな笑みを返し仁王立つリット。そんな彼女にルーシは不思議そうに訊ねる。

「ねぇ、お姉さん。その男がどんな奴か知ってるの?」

「灰被りの騎士でしょ?」

 質問の真意が読めず自分の知った彼の正体を問いの答えとする。しかし続くルーシの言が容易に想像できたフェルスは苛立たしげに目を細める。

「ほら、やっぱり知らない。その男の正体は百万人殺し。そいつは、自分の愛した少女が処刑されたことを許せず。無辜の民もろとも一つの王国を滅ぼし、さらには中央聖堂を消し去って、当時の霊皇を含めた数多の聖職者を殺し尽くした、最悪の大量殺戮者。誰もが気狂いと証すその男を信じられるの?」

 ルーシの話を聞いたリットは流石に恐怖を隠しきれない。前大戦の後に起きた出来事はある種、大戦中の災禍よりも恐ろしく伝わっているからだ。リットは震える手を強く握り締めると、ひたすらに真っ直ぐとフェルスの瞳を見詰めて問う。

「本当なの?」

「ああ、本当だ」

 返ってきた答えは単純にして、何の感情も込められていない。リットは瞳を逸らさずに数秒静思するときっぱりと言い放つ。

「私は、自分で見て、聞いて、感じたことを信じる。昔がどうであれ、こいつには何度も助けてもらった。だから雇用主としてこいつを信じる」

 彼女は信じると言った。世紀の大量殺戮の罪人を、常識を遥かに逸した化け物を。そのことがルーシの琴線に触れ、憧憬と嫉妬の入り混じった灰色の感情を解放させる。

「......偽善者なんていらない。消えてなくなれぇぇぇぇぇぇぇ!」

 銃身がスパークし、今までと明らかに違う輝きが漏れ出す。無表情のルーシが銃爪(トリガー)を引こうとした、その時。不可視の弾丸が宙を翔けルーシの頭に命中、彼は錐揉みしながら地に転がる。

「......おい。遅いんだよ。見てないで早く出て来いよ」

「あれ? 余裕が無いね。てっきり状況を楽しんでるかと思ったのに」

 不機嫌なフェルスとは正反対の、青空の様に清々しい笑みを浮かべるアリス。

「何故、君が生きてるんだ?」

「僕は簡単には死なないよ。幽霊だから」

 まさに幽霊でも見たかのような表情で凍り付くルーシ。その様をニコニコと見詰めるアリス。

「それよりも、あれ、どうにかしろ」

「うん。そろそろマズイね。じゃあ、任務をこなしますか」 

 アリスが徐に手を開くとルーシの手にあった銀剣が眩く輝く。そして、その光が収まった時、銀剣は彼の手からアリスの手へと移っていた。

「何だよコレ......、知らないんだよ......」

「えっ、知らなかったんだ? この神剣はね、担ぎ手を選ぶんだよ? しかもね、忠義に厚いんだ」

「どういう意味だよ? 救世の勇者はあいつだろ?」

「ああ、そうか正当な担ぎ手は僕が二代目だったね。特別に教えてあげるよ。彼は灰被りの騎士ではあるけど勇者ではなかったんだ。それは僕の役目。しかも、ディアナ以来、剣と意思疎通をはかれる正当な二代目担ぎ手だよ」

「しかし、おかしな話だ。俺が灰被りの騎士だって知ってるならそこら辺もばれてるかと思ったんだが......」

「びっくりだよねー」

 想定しない事態が発生し、ルーシは見た目相応の感情で慌てふためく。そんな彼に天使の如き笑みを送るとアリスは神剣を高らかに翳す。

「そしてこれがこの子の本当の力だよ」

神剣から溢れ出す純粋なる白き光。それは見たものの心を洗い流すかの様な穢れ無き輝き。

 かつて魔が蹂躙した世界で、この輝きを手にした少女が人々救っていたのだとしたら、彼らが少女に神を見出したのも仕方ないことかもしれない。

 そしてその輝きが世界を包み収まった時、天空に存在した魔導陣が幻の様に消え失せていた。

「......嘘だろ」

「嘘じゃないよ。これがこの子の力。拒絶。まあ、今はあんまり使えないけどね」

 アリスは述べるとその神剣をリットに預け、意味深な笑みを投げ掛ける。

「ねぇ、フェル。見せ付けてあげようよ」

 囁きと共に彼の唇を奪う。リットは、月の光を浴びて重なる二人を純粋に美しいと感じた。

――その刹那、アリスの肉体が光に包まれその光はフェルスへと融けていき、最後には衣服を残して完全に消え去った。

「霊体だって! いや肉体は確かに存在していた。一体君たちは何だよッ!」

 髪が灰色に染まり双眸が金色に変化したフェルスは、混乱の極みにあるルーシを一瞥すると、今までの傷が無かったかの様に悠然と立ち上がり、いつもの嫌味な笑みを向ける。

「......そうだな。灰被りの騎士の話をしてやろう」

 その言葉はルーシよりもリットに向けられたもの。

「あるところで一人の悪魔が目を覚ました。己の名と我が身を焦がす憤怒しか残っていなかったそれは、己の激情のままに目に付いた全てを破壊して回った。そしてある日、一人の少女と出会う。数日にも及ぶ戦い末、それは破れた。しかし、彼女は止めを刺さず唯それを抱きしめた。それはその時、憤怒以外の感情を知り、彼女を守ると決めたのだ」

 フェルスは己の無力さを嘆いているのか。夜空を仰いだその表情は虚無。

「しかし、誓いは果たせず、少女を失う直前までいった。それは最後の手段として少女の魂を喰らい、内で留めることで命を繋いだ。そして今、それには叶えたい夢がある」

 断片的ながらもフェルスの想いは感じ取れた。リットは二人の歩んだ過酷な道とその結末に感じ入る。

「悪魔? 馬鹿かッ! そんな創星期の伝説を信じる奴が何処に居るッ?」

「まっ、信じないならそれで良いさ。さて、話が長くなったな。それじゃあ、戦ろうか?」

 自分が幼かった時から何度も読み直した物語。現実にあったと言われてもそれは彼方に過ぎ去った物でしかなく、遠い幻想でしかなかった。

 しかし、その物語には二人の血の通った愛憎が確かに存在したことを実感し、その物語が確かにあったという真実に、眼前に立つ青年の嘆きに、リットは衝撃を受けて立ち尽くすことしか出来なかった。

 そんな彼女の様子を察してか、フェルスはリットを抱え跳躍し、被害の及ばない所に下ろすと大胆不敵な笑みを向け、

「見てろよリット。お前が見たかった物語を今見せてやる」

 高らかに宣言する。

「目覚めよ我が憤怒 我が名は"支配者"踏み躙る者なり!」

 瞬間、大気は凍りつき音を伝える事を忘れ、地も冷たく黙した。それも一瞬、その死にも似た静寂を打ち破ったのもまたフェルス。彼から放たれた狂った程に高密度かつ多量のマキナが荒れ狂う嵐と成りて停滞したもの全てを振るわせる。そしてそれが収まった時、背中から一対の黒白の翼が広がり、陽炎の如く立ち昇るマキナを纏ったフェルスがそこに居た。

「嘘だろ......、人間の体から溢れるマキナが肉眼で見えるなんて......」

 フェルスは羽を大きく羽ばたくと飛翔、ルーシと向かい合う位置に降立つ。

――彼の者 纏いし神気は金剛の如し

 ルーシはフェルスから発せられるおぞましい程のマキナを目の当たりにし半狂乱となって銃を連射、光線が次々とフェルスの体に突き刺さるが、陽炎に阻まれ一条も肉体に到達しない。

――彼の者 翳す蒼剣は光

 ゆっくりと歩み寄るフェルスに恐れをなしたルーシは転位を行い逃れる。しかしその先には完全に先回りをしたフェルスの姿。蒼剣を振るうと、斬撃が蒼光となりて飛び、後方の建物を両断する。ルーシは僅かにそれた太刀筋から自分が情けをかけられたことを知ると悔しげに表情を歪め、転位して逃げる。

――彼の者 仮面に一切の嘆きを隠す

 ルーシは最早逃げ惑うことしか出来ない。それでも彼方に逃げないのは彼にもまだやらねばならぬことがあるから。しかし、ルーシが転位すればその眼前に必ず奴が居る。少年の心は折れかかっていた。

――彼の者 その灰色に世の嘆きの一切を担う

 数十回に及ぶ転位の果て、疲労により一瞬逃げ遅れる。それを見逃さなかったフェルスはルーシを蹴り飛ばす。空中から地面に叩きつけられ、石畳が鈍い音を立てて陥没した。

 吐血し腹を押えて身悶えるルーシの傍ら。フェルスは静かに舞い降りた。

「君は本物の化け物だね」

「それは光栄だ」

 絶対の窮地に立たされたことがルーシに冷静さを取り戻させる。彼は起死回生を懸けた転位を行う。それはリットの真後ろ。

「人質か?」

「どう足掻いても勝てそうにないからね」

 そしてルーシは静かな声音で言葉を紡ぐ。

「目覚めよ我が鏡心(ナイトメア) 汝の名は"吊るされた男"栄光を望む愚者なり」

 全身が光に包まれ、ガラスが割れる音と共に光が四散する。そこに現れたのは非現実的な姿。

 仮面と外套だけが宙に舞っている。

鏡心(ナイトメア)第三階梯、無心(エス)。それがあんたの鏡心(ナイトメア)の姿か?」

「滑稽だろ? まるで半魔人(デミヒューマン)の僕を表すように空っぽだ。でも能力は一級だよ」

 仮面と成ったルーシは人質にしたリットの顔に取り付き、リットは抵抗す間もなくルーシに心身を奪い取られる。

「成程。そうやって他人に寄生し、支配するのか? いやらしい能力だ」

「けれど効果は覿面だよ。このお姉さんは心すらも僕の支配下にある。精神を壊されたくなければ鏡心(ナイトメア)を解いて武器を捨てなよ」

 忌々しげに吐き捨てるフェルスにルーシは薄ら笑いを飛ばす。少年の命令に従い蒼剣と封剣をルーシの僅か横に投げ飛ばし、得物は地面に突き刺さった。

「危ないじゃないか。お姉さんが串刺しになるよ? さて鏡心(ナイトメア)も解いてよね」

「おいおい。これで幕だ」

 フェルスは嫌味な笑みを深める。ルーシは何か策があること察して転位しようとする。だがそれよりも早く、投げた封剣から魔導陣が展開。その効力かルーシの体は微動だにすら許されずその能力すらも発動しない。

「意趣返しってやつだ。その封剣には文字通り、封印の術式が込められている。常時は俺を拘束しているが、今は必要ねぇからな」

 フェルスはこともなさげに説明し、右腕をゆらりとルーシの方へと向ける。

「分かってるの? 僕に攻撃するということは同時にお姉さんを攻撃するということだよ」

「分かってるさ。だが、関係ない」

 冷たく言い切ると同時に漆黒の光を灯した右腕を払うと、その闇は一本の剣と成る。その暗黒は夜の闇よりも深く冷たい。

 ルーシは己の能力に絶対の自信を持ってはいるものの、その剣の宿す闇が有り得ない未来を想像させ、恐怖が心を揺さぶる。しかし、ここでフェルスに下るわけには行かない。ルーシとて辿り着きたい未来があるのだ。

 そしてフェルスはその剣を躊躇なくリットへと投げつける。闇を宿した剣は逸れることなく淡々と虚空を進み終には彼女の心臓を貫いた。

「ギヤァァァァァァ!」

 次いで轟くは少年の悲痛なる叫び。仮面が光に変わり、そして唯のルーシへと戻る。少年の恐れた未来が現実となり、少女の信頼は成された。放たれた剣はリットの体を貫くことはおろか、ルーシの命を奪うものですらなかった。

「何だよこれ......」

 ルーシは己の中から鏡心(ナイトメア)はおろか能力すら感じることが出できず呆然と呟く。

「俺の力は支配、万象の支配。抗えなければ、殺すも消すもお手のものだ。翼を失くした鳥ほど憐れなものはないからな」

「何だよそれ......、ありえないよ......」

「世界ってのは可能性の方が多いんだぜ」

 フェルスはそう言い残すと神剣を回収し、気を落としているリットに近付く。

「......また足を引っ張った」

「おいおい。今まで足を引っ張らないことがあったか?」

 フェルスの小馬鹿にした物言いにリットはキッと睨み付ける。

「今はまだそれでいいんだよ。せいぜい悔しがれ。まっ、いいもん見せてやるから今回はそれで我慢しとけ」

「ちょ......、何するのよッ!」

 急にお姫様抱っこをされたリットは抗議のために暴れるが一切無駄な抵抗。

「おっと言い忘れた。おい少年。霊皇にあったら伝えとけ。真の救世の勇者の一行が天使の揺り篭を頂きに参上するってな」

 フェルスは不遜に宣言すると、一際強く羽ばたく。そして、風に吹き上げられた羽根が舞い上がる速度よりも疾く天高くへと駆け上る。


   終章 Connection#1

フェルスの胸に抱かれ、空に舞い上がったリットは天上の景色を見た気分だった。地平の彼方より金色の太陽が姿を現し、黒く塗りつぶされた大地を眩く染め上げていく。空を見上げれば光と闇が溶けた淡い瑠璃色が天に輝く。今が変化していく世界の縮図。

「日ごろ見慣れた景色も見る角度を変えると一変する。真実もそうだ。見る者によってそれぞれの現実に加工される。まっ、前だけ見てひたすらに走るのも悪くねぇが、たまには寝転がって空でも見げるのも大切だってこった」

「ねぇ、ひょっとして、あたしへのアドバイス?」

「人生を楽しくする俺の秘訣だ。試すも試さないもお前次第」

 近くの街道に降立ったフェルスはリットを地上に下ろす。そして、封剣を大地に突き立てると何やら詠唱を始める。

「肉体形成 魂固定 物質化 開始」

 するとフェルスの全身に魔導陣が浮び上がり、呼応して全身から光が飛び出す。それは一ヶ所に集まり人型を形成、その光が消失した時一人の少女が現れる。しかもマッパで。

「これで任務完了だな」

「だねっ!」

 何時の間に回収したのかフェルスは彼女の衣服を召喚し渡す。アリスの裸体を直視したリットは鼻を押えて蹲る。

(あたしって女の子にときめく性分持ってたかな?)

 リットが自分の性癖について激しく自問自答している内にアリスの着替えが終わり、フェルスとアリスは彼女に向かい合う。

「さてと、君を次の街につれていったら君との契約も終わりだね」

「結局、当初の目的は達成できなかったから報酬はいいぜ」

 それは次の街で別れることを意味する。リットは大きく深呼吸すると覚悟を決める。彼女にとって彼らの世界は全くの別次元かもしれない。唯の足手まといかもしれない。それでも見たいのだ彼らが歩む景色を。

「何でもするからお願い! 私もつれていって!」

 フェルスとアリスは二人して顔を見合わせる。そしてニタリと笑い合う。

「まっ、しょうがないか。給仕が欲しかったしな」

「まっ、しょうがないね。給仕が欲しかったしね」

 二人の息の合った提案に何やら怪しい雲行きを感じて早くも後悔するイングリット・A・リーガルリリー、十七歳。

 二人は呆然と立ち尽くすリットを放置して歩み出す。我に返ると彼女も彼らについて行く。――ふと、リットは疑問に思い質問する。

「結局、二人の任務って紅ノ塔が立つのを防ぎ、神剣を奪取することだったんでしょ?」

「そうだよ、僕らの任務は、ウキトさんの保護、神剣の奪取、紅ノ塔の阻止、そして君が生贄になるのを防ぐこと」

「それなら、あの森であたしと会ったのは偶然じゃないでしょ?」

「当然だよ。君が旅立った時からしっかり横にいたよ」

「俺たちの指輪には、強力な認識障害を引き起こす付加法(エンス)がついてるからな。お前が協会の目前で慌てふためいている姿も、ガルムに追われてずっこけた姿も」

「道に迷って反泣きになってる姿も、トイレが見つからずに慌てふためく姿も。パンを落として心の底から悔しがってる姿も全部見てたんだよ」

「流石にお前が眠っている間に教会の手先が来て、攫われそうになった時は焦ったけどな。お前あれでも起きねぇんだもん」

 二人は何とも楽しそうに、リットの珍道中を語る。そんな二人に思い切り叫ぶ。

「なら、初めから声を掛けなさいよぉぉぉッ!」

 秋も中頃、麗かな空に鳥が歌い、涼しげな風が冬の足音を連れてくる、心地よい朝の一幕。

 少女の絶叫が木霊するも穏やかな日常。先に如何なる闇があろうとも、三人が出会いを嘆くことはない。

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