時
――一ヶ月が経った。
最初の数日は、
毎日が、ただ過ぎていく感じだった。
朝が来て、
着替えて、
食事をして。
名前を呼ばれて、
返事をして。
それだけで、精一杯だった。
でも、気づけば。
朝の空気が、冷たいと
分かるようになっていた。
屋敷の廊下で、どこが軋むかも覚えた。
自分の部屋の窓から、湖がどの角度で見えるかも。
(……慣れたんだ)
そう思うと、
少しだけ、怖くなる。
忘れてしまっている気がして。
何を、とは言えないのに。
体も、少しずつ動くようになった。
最初は、庭を一周するだけで
息が上がった。
今は、
軽く走っても、倒れない。
(……まだ、弱いけど)
でも、前よりは確実に違う。
湖から這い上がった、
あの必死さを思い出すたびに、
体を動かしたくなった。
理由は、まだ言葉にできない。
ただ、
もう一度、あの状況になっても
立っていたい
それだけだった。
ミアは、毎日のように顔を出す。
「お姉様!」
呼ばれるたびに、
胸の奥が、ちゃんと温かくなる。
兄も、屋敷にいる時間が増えた。
相変わらず、
少しだけ距離があるけれど。
それでも、
視線は、いつも私を追っている。
執事は、何も言わない。
けれど、
私の変化を、全部見ている。
(……一ヶ月)
短いようで、
長い時間。
日常と呼ぶには、
まだ少し不安定。
でも……
夜、窓から湖を見る。
水面は、静かだ。
あの日の声は、
もう聞こえない。
それでも。
(……私は、生きてる)
それだけは、
はっきりしていた。
この一ヶ月が、
どれほど大切な時間だったのか。
それを知るのは、
まだ、少し先の話だ。




