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兄との対面

その日は、少しだけ胸が軽かった。兄に会うと聞いたのは、朝食のあとだった。


「本日、兄君が戻られます」


 執事の声は、いつも通り落ち着いている。


「……兄」


 言葉にすると、


 胸の奥が、少しだけざわついた。


 知っているはずの存在。


 でも、どう接すればいいのか分からない存在。


(……大丈夫かな)


 何が、とは言えない。


 ただ、少しだけ緊張した。


 昼過ぎ、


 屋敷の空気が、ほんのわずかに変わった。


 使用人たちの動きが、早くなる。


 声が、低くなる。


 玄関ホールで待っていると、


 扉の向こうから、足音が響いた。


 重い。


 迷いのない、まっすぐな足音。


 扉が開く。


 そこに立っていたのは、


 背の高い淡い青色の髪をした青年だった。


 整った顔立ち。


 騎士の装い。


 そして――疲れた目。


 その目が、私を見た瞬間。


 ほんの一瞬だけ、


 何かが揺れた。


「……玲」


 名前を呼ばれて、


 喉が、少しだけ詰まる。


「……お兄、さま」


 そう呼んだ瞬間、


 自分でも驚いた。


 自然に、出た。


 青年――兄は、

 ゆっくりと歩み寄る。


 距離が、近づく。


 そして、

 強く、抱きしめられた。


「……無事で、よかった」


 耳元で、低い声が震える。


 強い。


 でも、どこか必死な力。


(……あ)


 抱きしめられながら、


 私は、思った。


 この人は、


 私を心配してくれてるんだな。

 理由は分からない。


 でも、それだけは、はっきり伝わってくる。


「……苦しい」

 小さく言うと、


 兄は、はっとして腕を緩めた。


「すまない。湖に行った後、濡れて帰って来たと聞いたから。」


 そう言って、


 少し距離を取る。


 改めて見ると、


 やっぱり、疲れている。


「……変わったな」


 ぽつりと、兄が言った。


「え?」


「いや……」


 言いかけて、


 言葉を飲み込む。


 その仕草が、


 なぜか、胸に引っかかった。


 応接室で、向かい合って座る。


 兄は、私をじっと見る。


 探るように。


 確かめるように。


(……見られてる)


 悪いことはしていないのに、


 背筋が、少し伸びる。


「……何か、困っていることはないか」


 優しい声。


 でも、


 どこか、張り付いた感じ。


「……大丈夫です」


 本当かどうか、


 自分でも分からない。


 でも、


 今は、それしか言えなかった。


 兄は、少しだけ黙ってから、言った。


「そうか」


 その一言に、


 微かな安堵が混じっていた。


(……安心、してる)


 それを感じて、


 なぜか、胸がちくりとする。


 別れ際。


「……俺が、守る」


 兄は、はっきり言った。


「もう、同じことは繰り返さない」


 何を指しているのか、


 私には分からない。


「……はい」


 そう答えると、


 兄は、少しだけ微笑んだ。


 でも、その笑みは――


 どこか、固かった。


 夜。


 部屋に戻ってから、


 ふと考える。


(……お兄さま)


 優しい。


 強い。


 守ろうとしてくれている。


 なのに。


(……なんで、少しだけ、怖いんだろう)


 理由は分からない。


 でも、その違和感は、


 確かに、胸に残った。


 私はまだ知らない。

 この再会が、

 後戻りできない分岐点だったことを。

 

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