聖女祭─その後
馬車に乗る。
扉が閉まる。
外の音が、一気に遠くなる。
静か。
揺れだけが残る。
ミアは向かいに座ってる。
だがミアはさっきから、少しだけ落ち着かない様子。
手を組んで。
ほどいて。
また組んで。
「……お姉様」
「何?」
「さっきの人たち」
少し間。
「変でした」
「そうかも。」
短く答える。
ミアは少しだけ眉を寄せる。
「なんか……」
言葉を探してる。
「怖いっていうか」
「気持ち悪いっていうか」
曖昧な表現。
だが、感覚としては正しい。
「見方が、嫌でした」
私は頷く。
「そうだね。」
ミアは少しだけ安心した顔をする。
「ですよね」
「私、なんか変なこと言ってるのかと思った。」
「ううん」
「変じゃないよ」
沈黙。
馬車の揺れ。
外の音。
遠い。
ミアがふと顔を上げる。
「あの子、大丈夫でしたかね」
「問題ないとは思う」
「泣いてましたけど」
「外傷はなかった」
ミアは少しだけ頷く。
「……よかった」
本当にそう思ってる顔。
それから。
少しだけ迷って。
「でも」
私は見る。
ミアは言う。
「お姉様、血……」
私は手元を見る。
乾きかけている。
「軽いものだ」
「軽くないです」
即答。
少しだけ強い。
「帰ったらちゃんと診てもらってください」
「……分かった」
ミアはそれで少し落ち着く。
だが。
完全ではない。
何か引っかかっている。
でも。
言葉にできない。
屋敷に戻る。
扉が開く。
いつもの空気。
静かで。
整っている。
変わらない。
だが。
使用人の動きが、ほんの少しだけ違う。
止まらない。
声もかけない。
だが。
視線が、一瞬だけ向く。
そして、すぐ逸れる。
ミアは気づかない。
私は気づく。
「お姉様、早く」
ミアが手を引く。
「傷、ちゃんと見てもらいます」
「ええ」
歩く。
廊下。
静か。
いつも通り。
部屋に入る。
扉が閉まる。
外が遮断される。
ミアが振り返る。
「座ってください」
少し命令口調。
私は従う。
布が用意される。
水。
手が少しだけ乱暴。
でも丁寧。
ミアらしい。
「……もう」
小さく呟く。
「なんでこんなことになるんですか」
私に言っているわけではない。
状況に対してか。
私は何も言わない。
ミアが血を拭く。
動きが止まる。
ほんの一瞬。
だが。
気づかない程度。
すぐに再開する。
「……痛くないですか」
「問題ない」
「あります」
小さく言う。
さっきより弱い。
手当てが終わる。
ミアは少しだけ息を吐く。
「……今日は、もう休んでね」
「そうする」
ミアは満足そうに頷く。
だが。
完全ではない。
夜。
屋敷は静か。
遠くで。
噂が動き始める。
まだ小さい。
形も曖昧。
だが。
確実に。
「目の色が違うらしい」
「不吉だ」
「だからあの時も――」
事実と嘘が混ざる。
誰も止めない。
誰も確かめない。
それはまだ。
玲にも。
ミアにも。
鴻にも。
届いていない。
ただ。
歪みだけが、残る。




