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三日後

朝。

屋敷の空気は、いつもと変わらない。

使用人は静かに動き。

廊下は整えられ。

音は最小限に抑えられている。


玲は窓際に立っていた。

差し込む光を、ぼんやりと見てる。


「お姉様」


ミアの声。

少しだけ不満そう。


「まだ無理はだめです」


玲は振り向かずに答える。


「してない」

「してます」


即答。


玲が少しだけ振り返る。


ミアは腕を組んでいる。


完全に納得していない顔。


「顔色、ぜんぜんよくないです」


「そう?」

「そうです」


ミアは近づいてくる。

そしてじっと顔を覗き込む。


「ほら」


玲は少しだけ視線を逸らした。


「……気をつける」


ミアはしばらく見つめていたが。

小さくため息をつく。


「“気をつける”って言う時のお姉様、だいたい気をつけてないです」


玲は少しだけ考えて。


「否定は…しない」


ミアは頬を膨らませた。


「もう……」


でも。

それ以上は言わない。

無理に止めても意味がないと分かっているから。


その時。

扉が軽くノックされる。


「失礼いたします」


執事の声。


ミアがすぐに扉へ向かう。


「はーい」


少しだけ軽い返事。


扉を開ける。


「どうしました?」


執事は一礼する。

それから

「王城より通達が届いております」


ミアの表情が少しだけ曇る。


「……またですか」


執事は静かに続ける。


「聖女祭への再出席要請でございます」


ミアははっきり顔をしかめた。


「また出るんですか?」


玲が後ろから言う。


「ええ」


ミアは振り返る。


「この前も出たばっかりですよね」


「そうだね」


「じゃあ別にいいじゃないですか」


少し拗ねたような声。


執事は何も言わない。


玲が静かに続ける。


「今回は理由がある」


ミアは納得していない顔のまま聞く。


「……どんなですか」


「“噂の鎮静”だそうだ。」


ミアは数秒止まる。


それから。


「……それ、お姉様が行かないとダメなんですか?」


少しだけ低い声。


玲は答える。


「形式上は」


ミアは視線を落とす。


床を見る。

少しだけ、指先が動く。


「……嫌です」


小さく。

はっきり。


玲はミアを見る。


ミアは顔を上げないまま続ける。


「なんか」

「好きじゃないです」


うまく言葉にできない。

でも。

感覚で分かってる。


「お姉様が行くと、なんか……」


少し考えて。

言葉を探して。


「嫌な感じがします」


玲は少しだけ目を細める。


ミアらしい、曖昧で正直な言い方。


「そっか。だが…」


玲は静かに言う。


「行かない方が面倒になる」


ミアはすぐに顔を上げる。


「じゃあ私も行きます」


間髪入れず。


玲は少しだけ驚く。


「……止めないの?」


「止めても行きます」


ミアはきっぱり言う。

少しだけ子供っぽい意地。


でも。

迷いはない。


玲は小さく息を吐く。

それから少し微笑んで。


「では、お願いします」


ミアは少しだけ表情を緩める。


「はい」


執事が静かに頭を下げる。


「準備を整えます」


「ありがとう。」


扉が閉まる。


部屋に静けさが戻る。


少しの間。

何も起きない。


ミアがぽつりと呟く。


「……ほんとに何もないのに」


玲が視線を向ける。


「何が?」


ミアは少し考えて。


「周りだけ、勝手に動いてる感じです」


玲は窓の外を見る。

青い空。

変わらない景色。


「そうかもしれない」


短く答える。


ミアは少しだけ不満そうに言う。


「そういうの、ずるいです」


玲はわずかに首を傾げる。


「ずるい、か。」


「だって」


ミアは言う。


「何もしてないのに、勝手に巻き込まれるの」


少しだけ子供っぽい理屈。

でも。

本質は突いている。


玲はほんの少しだけ目を細める。


「……確かに」


小さく認める。


ミアはそれで少し満足する。


そして。


「でも大丈夫です」


急に明るく言う。


玲が視線を向ける。


ミアはにこっと笑う。


「私がいますから」


根拠はない。

でも。

揺るがない。


玲は一瞬だけ目を細める。


「……あぁ。」


静かに答える。

外は、変わらない空。


何も起きていない。


本当に。


まだ、何も。

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