目が覚め交わす言葉
扉が開く。
ミアはほとんど飛び込むように部屋へ入った。
「お姉様!」
カーテンの隙間から、夕方の光が差し込んでいる。
ベッドの上で。
玲がゆっくり体を起こそうとしていた。
「……」
ミアはすぐに駆け寄る。
「無理しないでください!」
背中を支える。
玲の体はまだ少し重そうだった。
「まだ休んでいないと」
玲はぼんやり瞬きをした。
それから小さく言う。
「……ミア」
声は少し掠れている。
でも、意識ははっきりしている。
ミアの顔が少し緩む。
「はい」
「ここにいます」
その時。
部屋の入口で、足音が止まった。
玲の婚約者だった。
部屋の中には入らない。
扉の近くで立ち止まる。
距離を保ったまま。
玲はそちらへ視線を向けた。
少しだけ目を細める。
「……来ていたんですね」
婚約者は小さく頷く。
声は穏やかだった。
「様子を見に」
短い言葉。
それ以上は言わない。
玲は数秒、彼を見た。
それから視線を戻す。
「心配をかけました」
静かな声。
謝罪なのか。
ただの事実なのか。
分からない言い方だった。
婚約者はゆっくり首を振る。
「いや」
「無事なら、それでいい」
その言葉はとても自然だった。
優しい声。
だが。
どこか少し、慎重でもあった。
玲はそれを聞いて、少しだけ瞬きをする。
「……そうですか」
それ以上は続けない。
ミアが横から言う。
「お姉様、まだ熱があります」
「今日は絶対安静です」
玲は少し困ったような顔をした。
「そこまでは…」
「あります」
ミアが即答する。
婚約者の口元がほんの少し緩む。
その様子を見て、玲は小さく言った。
「……ミアは強いね」
ミアは胸を張る。
「お姉様相手なら、いくらでも」
玲は少しだけ目を閉じた。
疲れがまだ残ってる。
婚約者はそれを見て、静かに言う。
「長く起きていない方がいい」
玲が目を開ける。
婚約者は続ける。
「体力が戻っていない」
医者のような言い方だった。
玲は少しだけ考え。
それから頷く。
「……分かりました。ありがとう。」
ミアは満足そうに息をつく。
玲は再び枕に体を預けた。
その時。
ふと。
玲が婚約者を見る。
ほんの数秒。
静かな視線。
婚約者は気づく。
その目は、何かを確かめている。
「……何か?」
玲は小さく首を振る。
「いいえ」
それだけ言う。
でも。
心の中では。
少しだけ違うことを思っていた。
(あの人の目)
前に見た時より。
少しだけ。
――優しかった。
婚約者はその視線の意味を知らない。
ただ静かに言う。
「……また来る」
玲は答える。
「はい」
短い返事。
それだけ。
婚約者はそれ以上は言わず、部屋を出た。
廊下の静けさが戻る。
ミアは玲を見る。
「お姉様」
玲は目を閉じたまま答える。
「何?」
ミアは少しだけ笑う。
「ちゃんと心配されてますよ」
玲はしばらく黙った。
それから静かに言った。
「……そうだね」
部屋はまた、静かになった。




