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聖女祭 屋台

鐘の音が、広場の上にゆっくりと静かに広がる。

祈りの歌が始まり、空気が少しだけ静かになる。


けれど。


屋台の通りだけは別だった。


香ばしい匂い。


甘い匂い。


焼ける音。


人の笑い声。


賑やかな音。


祭りの熱がそこには残ってる。


「お姉さま、あれ見てください!」


ミアが指さす。


串に刺さった肉。


甘い蜜をかけた焼き菓子。


揚げたての芋。


甘辛の肉串焼き。


色とりどりの屋台が並んでいる。


「……本当に半分も回ってないんだな」


私が呟くと、ミアは少し得意げに胸を張る。


「ですから言いましたでしょう?

聖女様の祈りを見る前に、ちゃんと食べておくべきでしたの」


「それはそれで怒られる気がするが」


「ふふ」


ミアは楽しそうに笑う。


「お姉さまは何を食べます?」


「そうだな……」


私は屋台を見渡す。


そのとき。


一つの屋台が目に入った。

少し珍しい料理だった。

薄く焼いた生地に、刻んだ野菜と肉を包んでいる。


「あれ」


「あれですの?」


「見たことない」


「確かに」


ミアも少し首を傾げる。

屋台の男は陽気そうに笑った。


「祭り限定だよ!

山の葉っぱと一緒に焼いた包み焼き!」


「山の葉っぱ?」


「香りが良いんだ」


男は気軽に言う。


私は少し考えて。


「じゃあ一つ」


「お姉さまだけですの?」


「ミアは?」


「私は甘いものを後でたくさん食べますわなのでお腹を空けとくのです。」


「じゃあいい」


包み焼きを受け取る。


熱い。


香ばしい匂い。


葉の香りも確かに混ざっている。


一口。


「……」


少し苦い。


けれど。

肉の味と混ざると、悪くない。


「どうです?」


ミアがいかにも興味津々な顔で聞いてくる。


「変わってる」

「美味しい?」

「まあ」


私はもう一口食べる。

それから。


「……?」


少しだけ、違和感があった。

舌に残る。

妙な苦味。


「……お姉さま?」


「いや」


気のせいかもしれない。


祭りの食べ物はだいたい雑だ。


気にするほどじゃないな。

私は残りも食べた。


そして。

その日は、何事もなく終わった。


——


夜。

屋敷。


「……」


私は目を覚ました。


天井が揺れてる。


いや。


違う。


私の視界がぼやけてる?。


身体が重い。


「……?」


起き上がろうとして。

失敗した。

腕に力が入らない。


「……これは……」


頭が妙にぼんやりする。


熱い。


体が熱い。


そのとき。

扉が開いた。


「お姉さま?」


ミアの声。

そして。


「……え?」


足音が近づく。


「お姉さま?」


顔を覗き込まれる。

ミアの表情が変わった。


「熱い!」


すぐに護衛が呼ばれる。

執事も。

医師も。

部屋が急に騒がしくなる。


「熱が高いな」


医師が眉を寄せる。


「毒か?」


護衛が低く言う。


「……いや」


医師は少し考えて。


「強い毒ではない」

「では」

「軽い中毒だな」

「中毒?」


ミアが驚く。


医師は頷いた。


「祭りの食べ物だろう」

「!」


ミアが私を見る。

「お姉さま……!」


私はぼんやりした頭で思い出す。

包み焼き。

山の葉っぱ。


「……」


医師が続ける。


「恐らく、食材の組み合わせだ」

「組み合わせ?」

「本来は無害な葉と、油の多い肉」

「だが」

「稀に、混ざると軽い毒になる」

「……」


「珍しいが、時々ある」


執事が顔をしかめる。

「故意ではないと?」

「ほぼな」


医師は冷静に言う。

「この程度ならな」


「症状は?」


ミアが心配そうに聞く。


「熱と倦怠感」


「一日ほど寝れば治る」


「……本当に?」


「長くても一日半だ」


ミアは少しだけ安心した顔になる。


私は。

「……ミア」

声を出す。

自分でも驚くほどに掠れていた。


「お姉さま!」


ミアがすぐ手を握る。


「大丈夫ですか!?」


「……大丈夫」

嘘だ。

体が重すぎる。


「‥水」

「はい!」

ミアがすぐに水を渡す。

少し飲む。

それだけで疲れる。


「…ありがとう……」


「……」


ミアがぽつりと言う。


「だから屋台は怖いんですの……」

「……」

「お姉さまが倒れるなんて」



私は目を閉じる。

体が沈む。

熱の奥で。


ふと。

思い出す。

祭りの広場。

人混み。


そして。

あの目。

――信じてくれ。

「……」


もし。

本当に。

何かが動いているなら。

最悪のタイミングだ。


私は心の中で呟く。


「……最悪だな」


そのまま。

意識が沈んだ。


私が目を覚ましたのは。

——翌日の夕方だった。

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