聖女祭の続き
ざわめきが遠くで揺れてる。
祭りの音。
祈りの歌。
笑い声。
それなのに。
私の耳には、ほとんど入ってこなかった。
ただ。
さっき見た“彼”の目だけが残ってる。
――信じてくれ。
助けて、ではない。
それが余計に引っかかった。
「お姉さま?」
ミアが私の袖を軽く引く。
「どうしましたの?」
「……いや。何でも」
私は小さく首を振る。
「少し人が多いなと思って」
「確かに多いですわね。聖女様もいらっしゃいますし」
ミアはちらりと聖女の方を見る。
広場の中央。
白い布と花に囲まれ。
“彼女”は祈っている。
静かに目を閉じ。
手を組み。
光を受けて。
誰が見ても。
――聖女だ。
民衆の歓声がまた上がる。
「……」
私はその姿を見ながら思う。
やはり。
薄い。
笑顔も。
祈りも。
何かが足りない感じがする。
「お姉さま?」
ミアがまた声をかける。
今度は少し小さな声で。
「何か、気になりますの?」
「……あぁ、まあな」
「あ、もしかして彼女(聖女)が気になりますか?」
ミアはそう言って。
それから。
少しだけ真剣な顔になった。
「ですが」
「?」
「お姉さま、無理に関わる必要はありませんわ」
「……」
「周りはもう、色々言っています」
そう言ってミアは周囲を見わたす。
確かに。
さっきから聞こえる。
小さな声で。
噂話。
「隣国の王太子様が…」
「求婚って本当かしら」
「でも聖女様は…」
「よりにもよって…」
言葉が混ざる。
噂はもう広がっている。
早い。
早すぎる。
「お姉さま」
ミアがぽつりと言う。
「人は、選ばれた人を好きになります」
「そして、その逆もあります」
「……」
「でも」
ミアは続ける。
「選ばれた理由までは見ません」
その言葉に。
さっきの聖女の声が重なる。
――選ばれるというのは特別なこと。
「……ミア」
「はい?」
「今日は屋台、まだ行くんじゃなかったのか?」
私が言うと。
ミアは一瞬ぽかんとした。
そして。
ふっと笑う。
「そうでしたわ!」
「お姉さま、まだ半分も回ってません!」
「じゃあ、急がないとな」
「はい!」
ミアは立ち上がる。
その瞬間。
護衛が一歩前に出る。
人の流れが少し変わった。
私は最後にもう一度だけ。
人混みの向こうを見る。
もう。
彼の姿はなかった。
代わりに。
遠くの塔の鐘が鳴る。
聖女祭の祈りの時間。
民衆が静かになる。
その中で。
私は思う。
さっきの目。
あれは。
嘘をつく目ではなかった。
だけど。
もし。
もし本当に。
何かが動いているのだとしたら。
――もう。
祭りの後では、遅い。
鐘の音が響く。
遠くで。
祈りの歌が始まった。




