壊れる仮面(ミア視点)
兄を馬車に送り届けた後パーティー会場に
入って見た景色は衝撃的だった。
赤が、弾けた。
ガッシャーン。
パリーン。
一瞬、音が遅れて聞こえた気がする。
お姉さまの頭から、ワインが流れる。
床に落ちる赤。
静まり返る会場。
――血。
違う。
ワイン。
そう思った瞬間。
周りから声が聞こえた。
「ミア様……あんな姉でお可哀想に」
誰かが、わざと聞こえる声で言った。
「下級の子供を庇うなんて」
「家の評判を落としますわ」
「本当に、感情的な方」
「片目も隠していますし、毎回何か起きているので呪われているんじゃ。」
「厄介ごとに。」
…ああ。
そういう方向に持っていきますの。
また。
またですか。
似た光景を、嫌というほど見てきた。
舞踏会。
夜会。
茶会。
弱い立場の誰かが標的になる。
そして。
皆、見て見ぬふり。
私は、そのたびに仮面を被った。
にこやかに。
丁寧に。
角が立たないように。
囲まれながらも、壊さないように。
怒りを飲み込んで。
場を整えて。
“賢い娘”でい続けた。
……ですが。
お姉さまに手を出されては。
さすがの私でも。
無理と言うものです。
それと
お姉さまが悪い、と。
守った側が愚か、と。
胸の奥が、静かに熱くなる。
だが。
まずは順番です。
私はお姉様の方へとあわてて駆け寄って行き、心の中では怒りで煮えたぎっているが
いつものようにと言い聞かせ。様子を見る。
唇に血。
頬にも。
腕にも細い傷。
それでも子供を抱き寄せ心配する姿。
……本当に。
この人は。
「お姉様」
静かに言う。
「後で医者に診てもらいましょう」
一拍。
視線を、震えている男の子へ。
「ですがその前に――」
ゆっくりと微笑む。
「その子の耳を塞いで下さい」
お姉様が、わたくしを見る。
一瞬だけ。
理解した顔…?
何も聞かずに、男の子の耳を両手で優しく覆う。
その仕草が。
さらに火に油を注ぐ。
ふぅ――。
息を吐く。
胸の奥に溜め込んでいたものを。
一度、全部。
吐き出すみたいに。
その間も周りの貴族達は「姉が悪いのよ。」「馬鹿ね。」「ミア様は優しいのね。」
(何で…何で見てたんじゃないの?)
そして。
パッキ、と。
何かが壊れた。
その瞬間、声が、会場を裂く。
「っ…ふざけんなよ」
空気が凍る。
可愛い声ではない。
低い。
怒りの声。
(無意識に拳を握る)
「私の大切なお姉様を侮辱しやがって」
ざわり、ざわと揺れる。
「しかも、この男の子が瓶で殴られそうになってるのに笑いやがって」
貴族達の顔色が変わる。
「お姉様は助けたんだ」
一歩、踏み出す。
「それをただ笑って見てただけのお前らが」
視線をなぎ払う。
「悪く言う資格なんてない」
沈黙。
完全な。
だが。
ひとりが震える声で言う。
「……姉に支配されているのよ、ミア様」
その声に続きヘラヘラと別の声。
「そ、そうですわ、そんなに怒らなくても」
「そうです、悪いのは姉のほうでしょう?」
「もめ事に頭を突っ込んで、みっともない…」
頭が、ゆっくりと傾く。
「はぁ?」
笑う。
乾いた笑い。
「ふざけてんのか」
会場の空気が、さらに冷える。
「何もしないくせに」
言葉が、鋭くなる。
「権力と地位しか目に入らないクズ共が」
息を呑む音。
だが、止まらない。
止めない。
ひとりの男が声を上げる。
「なぜですか?私は助けようとしたのですよ?」
視線を向ける。
覚えている。
この男。
さきほど手で口元を隠して、笑っていた。
「……馬鹿じゃないの?」
静かに言う。
「あなたは何をしたの?」
一歩、近づく。
「ただ立って見てただけでしょう」
男が口を開く。
言い訳。
保身。
全部見える。
「助けようと“思った”?」
鼻で笑う。
「行動しない善意なんて、ただの自己満足でしょ」
会場が、完全に沈黙する。
誰も動かない。
誰も反論しない。
私は、最後に言う。
ゆっくり。
はっきりと。
「覚えとけ」
目を細める。
「今日ここで笑った奴らの顔、全員覚えたから」
ふぅー。と息をはいてから続けて
「二度目はありませんでしてよ」
「このミア・ホープの名に誓って。」
ぞくり、と空気が震える。
そのとき。
お姉さまの声。
小さく。
「ミア」
優しい声。
怒りを包む声。
……だから。
だから困るのです。
私は息を吸う。
仮面に壊れた。
でも。
後悔はない。
文章の表現は一部 AI を補助として利用しています。アイデア・プロット・設定は全て私のオリジナルによるものです。




