あの夜の視線 兄編(鴻編)
三回目の二日前。
鴻は一人で書庫にいた。
蝋燭の灯りが揺れる。
机の上には、古い席順表。
三年前のもの。
その中央に、自分の名前。
真正面に、侯爵家の令嬢。
(っ…あの時と同じだ)
紙の端を、無意識に強く握る。
あの夜。
音楽が流れ。
笑い声が満ち。
視線が集まった。
真正面から。
逃げ場のない位置。
最初は違和感だけだった。
言葉が、少し遅れる。
返事が、半拍ずれる。
それだけ。
だが。
「素晴らしい夜ですね」
そう言うはずだった。
実際に口から出たのは、
「問題ありません」
違う言葉だった。
言うつもりのない言葉。
周囲は気づかない。
笑っている。
自分だけが、分かる。
そこでようやく気づくいた。
(今、何かが書き換わったいや言葉が変換されたのか?)
背筋が凍る。
真正面の令嬢は、微笑んでいた。
だが、目だけが、笑っていなかった。
その瞬間。
鴻は視線を外した。
強制的に。
ワイングラスを落とした。
パリーンと割れる音と共にざわめき。
視線が散る。
固定が崩れる。
その夜、鴻は逃げた。
二度と、その席順に座らなかった。
令嬢は翌年、婚約破棄の末に社交界から消えた。
理由は“気鬱”。
表向きは。
(あれは、未完成だった)
自分が洗脳されたと思ったがまだ、浅かった。
上書きは不安定だった。
だから壊せた。
だが――
今回。
婚約者の目。
(俺と同じ、いやそれ以上かもしれんな)
あれは、深い。
進行が早い。
三回目で固定するつもりだ。
完全に。
(…にしても、誰が何のために……)
その時、三回ノック音がなり書庫の扉が音を立てながら開く。
「…お兄様」
玲の声。
鴻は即座に表情を整える。
それから
席順表を閉じ背中側に隠す。
「何だ」
「少し聞きたいことが」
鴻は立ち上がる。
まだ、何も知らない目。
そのままでいろ。
気づくな。
三回目までは。
「席順は、ただの配置だ」
静かに言う。
「だが、戦場にもなるかもな」
玲は眉と首をわずかに動かす。
理解していない。
それでいい。
(今回は、壊させない…いや、やらせない……)
鴻の拳が、見えない場所で握られる。
蝋燭の火が揺れる。
三回目は。
あの夜の、続きだ。
文章の表現は一部 AI を補助として利用しています。
アイデア・プロット・設定は全て私のオリジナルによるものです。




