扉の向こうの、想定外
取っ手が回る。
扉が、静かに開いた。
その瞬間、部屋の中に沈黙がはしる。
次の瞬間、
「……お姉さま?」
ミアだった。
ふーぅと息を吐きながら
ミアを見ると、
両手に、山ほどのクッション。
なぜ……と言うかどうしたんだ?
「入っても?」
もう入っている。
「何をして…」
「防御です」
真顔。
(……)
クッションを、机の前、椅子の横、扉の横に積み上げる。
「……何の」
「分かりませんけれどと言うか勘ですが」
手は止まらない。
「とりあえず、衝撃吸収は大事かと」
意味が分からない。
「誰がぶつかる」
「お姉さまかもしれませんし、わたくしかもしれませんし、あの人かもしれません」
“あの人”。
言い方が雑だ。
「根拠は」
「ないです」
即答。
でも止まらない。
ついにベッドの周りまで囲い始めた。
「やりすぎなんじゃ?」
「やりすぎくらいが丁度いいの」
「それに私の勘は凄いの、お姉様も知っているでしょ」
口調が戻った。
戻っているのに、手つきは必死だ。
その真剣さと、クッションの量の不釣り合いさに、笑いが込み上げる。
「……城攻めか」
「籠城です」
即答。
迷いがない。
次の瞬間、ノックが響く。
今度は本物。
ミアがぴたりと固まる。
「……誰ですの」
「兄だ…いや鴻だ」
静かな声。
ミアは一瞬、天井を見る。
「撤退します」
「待て」
もう遅い。
クッションの山に足を取られて転ぶ。
無音で。
見事に。あっぱれと言うべきか。
「……大丈夫か」
「完璧です」
床から返事が返る。
全然完璧ではないと思うが。
扉が開く。
兄が部屋を見渡し、止まる。
視線が、クッションの要塞に移る。
…沈黙。
「……何だこれは」
「防御です」
床から声。
兄の眉が、ゆっくりと上がる。
「敵は誰だ」
「未確定です」
「ほう」
兄が少し冗談交じりにこちらを
見ながら言う。
「姉上、説明を」
首を振りながら言う
「…分からない」
正直に言う。
兄は一度、深く息を吐いた。
「三回目の席順、見たな」
空気が変わる。
ミアが、ぴくりと反応する。
「見ました」
「どう思う」
「前回と違う」
「それだけか」
兄の視線は鋭い。
冗談ではない目。
「婚約者が真正面」
「それが?」
「……視線が固定される」
言葉にすると、形になる。
兄はわずかに頷いた。
「ようやく気づいたか」
「何に」
兄は答えない。
代わりに、机の上の席順表を指で叩く。
「三回目は、見る側と見られる側が固定される」
ミアが、ゆっくり起き上がる。
さっきまでの転倒はどこへやら。
目が、真剣だ。
「何を」
「それは、当日分かる」
曖昧だ。
わざとか。
「兄上は、何を知っている」
「全部は知らん」
即答。
「だが、これは偶然じゃない」
部屋の空気が、重くなる。
クッションの山だけが、場違いだ。
その時。
廊下で、足音が止まる。
今度は、複数。
三人。
いや、四人。
兄の視線が扉に向く。
ミアが、無言でクッションを一つ持ち上げる。
武器にする気か。
「……静かに」
兄が低く言う。
扉の向こうで、声がする。
「確認を」
「ええ。今夜のうちに」
その瞬間。
取っ手が、ゆっくりと動いた。
鍵は、かけていない。
回る。
止まらない。
兄が一歩前に出る。
ミアがクッションを構える。
意味は分からないが、構えている。
扉が、開く。
そこに立っていたのは――
婚約者だった。
しかし。
その目が、笑っていなかった。
文章の表現は一部 AI を補助として利用しています。 アイデア・プロット・設定は全て私のオリジナルによるものです。




