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兄と婚約者
昼下がりの庭。
兄は剣を振っていた。
「……相変わらず、真面目だな」
「兄様も」
玲は汗を拭いながら返す。
「社交界はどうだ?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……勉強になる」
嘘ではない。
全部、学びだ。
「そうか」
兄はそれ以上聞かない。
その“踏み込まなさ”に、
玲は少しだけ安心した。
少し離れた場所で。
ミアは兄の剣をじっと見ている。
「……兄様、少し力みすぎですわ」
「?」
「肘、です」
兄が直すと、
剣筋がわずかに変わった。
「……鋭いな」
「えへへ」
すぐ照れる。
すぐ誤魔化す。
その“鋭さ”が、
時々だけ覗く。
数日後。
婚約者が屋敷を訪れた。
玲は、まだよく知らない。
礼儀正しく、穏やかで、
完璧に“正しい”人。
「初めての社交界、お疲れでしょう」
「……はい」
会話は穏やかだった。
なのに。
(……距離、測られてる?)
そう感じたのは、一瞬だけ。
ミアが割って入る。
「お姉さま、紅茶が冷めてしまいますわ!」
「ありがとう」
その瞬間、
視線がすっと外れる。
(……気のせいか)
玲はそう思った。
夜。
ミアはノートを閉じる。
「……増えた」
何が、とは書いていない。
「でも、
まだ笑ってる」
だから大丈夫。
そう、自分に言い聞かせる。




