最初のパティー――切り取られる言葉
屋敷は、いつもより少しだけ賑やかだった。
使用人たちが行き交い、
灯りが増え、
音が重なる。
それなのに、
どこか息をひそめているような空気がある。
玲は、鏡の前で肩を回した。
「……うん。
ちゃんと立ててる、よね」
ドレスは動きやすく、
色合いも落ち着いている。
派手すぎず、
地味すぎず。
うん、良い感じ。
(動ける。
視線も、悪くない)
鍛えた体は、裏切らない。
礼儀作法も、
座学も、
一応、頭に入っている。
(大丈夫……なはず)
でも、
胸の奥が、ちょっとだけ落ち着かない。
「お姉さま」
ミアが近づく。
使用人がいる場所だから、
姿勢も声も完璧だ。
「ご準備、整っておりますわ」
そう言いながら、
玲の袖を直す。
指先の動きは、
丁寧で、慣れている。
「…ありがと」
玲が小さく言うと、
ミアはにこりと微笑む。
「当然ですわ」
――ここまでは、いつもの“ミア”。
廊下を進み、
使用人の気配が消えたところで。
ミアの肩が、
ふっと下がる。
「……はぁ」
小さく息を吐いて、
玲を見上げる。
「ねえ、お姉様。
緊張してる?」
「え、顔に出てた?」
「ちょっとだけ」
ミアはくすっと笑う。
「でも大丈夫だよ。
ちゃんとしてる」
その声は、
年相応で、柔らかい。
玲は少し肩の力を抜いた。
「そっか。
ミアがそう言うなら、信じる」
「えへへ」
ほんの一瞬の、
素のミア。
会場に足を踏み入れた瞬間、
空気が変わる。
視線が、
ふわりと集まる。
露骨じゃない。
でも、確実だ。
「……」
玲は小さく息を吸う。
(一気に見られてる感じがするな)
「ええ」
ミアは、
もう“ですわ”に戻っている。
「ですが、ご心配なさらず。
皆さま、形式を重んじる方々ですもの」
(……形式、ね)
玲は、
その言葉を噛みしめる。
挨拶が始まる。
「お久しぶりですわ」
「お変わりありませんか」
どれも、
角の取れた言葉。
でも――
下に敷かれている前提が、
はっきりしている。
「最近は、お忙しいとか」
「うん、まあ……色々と」
玲は曖昧に笑う。
強く否定しない。
深く語らない。
それが無難だと、
体が覚えている。
その少し後。
笑顔の貴族が、
何気ない声で言った。
「ですが、妹様がいらっしゃるから、
ご安心ですわね」
「……?」
玲は、
一拍だけ考えてから答える。
「…そう、ですね」
軽く。
自然に。
その瞬間。
場の空気が、
ほんのわずか、緩んだ。
誰かが頷き、
誰かが微笑む。
それを、
ミアは見逃さない。
(……今の)
(切られた)
玲は、
まだ気づかない。
今の一言で、
「姉は不安定」
「妹が補佐役」
という図が、
共有されたことに。
「まあ、姉妹仲がよろしいのですね」
「素敵ですわ」
言葉が、
ミアに集まる。
ミアは、
一歩前に出る。
「姉は、とても努力家ですの」
声は丁寧で、
正しい。
でも――
誰も、そこを拾わない。
拾われるのは、
別の部分。
「妹様がお優しいから」
「支えていらっしゃるのですね」
ミアは、
笑顔を保ったまま、
玲を見る。
(……今は、まだ)
(気づかなくていい)
音楽が流れ、
会話が広がる。
パーティーは、
何事もなく進む。
表向きは。
帰り道。
「……正直、ちょっと疲れた」
玲が小さく言う。
「ふふ」
ミアは、
使用人がいないのを確認してから、
声を落とす。
「初めてだもんね。
よく頑張ったよ、お姉ちゃん」
その言葉に、
玲は少し笑った。
「ミアがいて助かった」
「でしょ?」
一瞬だけ、
子どもっぽく胸を張る。
文章の表現は 一部AI を補助として利用しています。
アイデア・プロット・設定は全て私のオリジナルによるものです。




