準備期間
――ミア編
パーティーまでの一ヶ月は、あっという間だった。
礼儀作法、所作、歴史、経済。
それに、体を鍛える時間。
姉――玲は、
ほとんど休まず、それらをこなしていた。
ミアは、
その様子をいつも少し離れた場所から見ている。
朝、庭に出ると、
玲はすでに身体を動かしている。
無駄のない動き。
呼吸も安定している。
(……前より、ずっと)
体が出来てきているのが分かる。
それに、表情も悪くない。
汗を拭いながら、
玲は軽く笑う。
「悪くないな」
その一言に、
ミアは胸をなで下ろす。
(大丈夫。
ちゃんと前を向いてる)
屋敷の中では、
別の準備が進んでいた。
装飾。
料理。
招待客の確認。
使用人たちの動きは丁寧で、
一見、何も変わらない。
けれど――
ミアには分かる。
視線が、
揃っている。
姉を見る時と、
自分を見る時で、
微妙に質が違う。
(……始まってる)
まだ、何も起きていないのに。
廊下の突き当たり。
人目につかない、作業用の小部屋。
花瓶を抱えた使用人が、
小声で言った。
「……次は、正式な場ですって」
別の者が、
肩をすくめる。
「そう。だから、なおさらでしょう」
言葉の意味を、
互いに説明する必要はなかった。
「妹様は、本当に助かるわ」
「ええ。
ああして笑っていてくだされば」
「場が、乱れませんものね」
一瞬の沈黙。
それから、
ごく自然に続く。
「……お姉様は」
言い切らない。
でも、
結論は共有されている。
花を生けていた使用人が、
ふと手を止める。
「でも、妹様……
お気づきなのかしら」
「何に?」
「……全部に」
もう一人が、
小さく笑った。
「お気づきだから、
ああしていらっしゃるのよ」
その言葉で、
会話は終わる。
誰も、
悪意がある顔はしていない。
ただ――
役割として、納得しているだけ。
その時。
廊下の向こうから、
足音が近づく。
ミアだ。
使用人たちは、
一斉に表情を整える。
「お疲れさまです、ミア様」
「ありがとうございます」
ミアは、
いつもの笑顔で返す。
完璧で、
柔らかくて、
何も疑わせない。
使用人の一人が、
思わず言った。
「やはり、妹様はお優しい」
ミアは、
ほんの一瞬だけ――
瞬きする。
けれど、
すぐに微笑んだ。
「そんなこと、ありませんわ」
その声は、
少しだけ
遅れていた。
勉強の時間。
玲は、
経済の話に少しだけ眉を寄せる。
「覚えること、多いな」
愚痴というより、
確認に近い声。
ミアは、笑って答える。
「でも、ちゃんと理解してますわ」
毎回、やっぱり、使用人達の前では
素の自分をあまり出せないな。
玲は肩をすくめる。
「生きるって、
こういうことかもな」
その言葉を、
ミアは聞き逃さない。
(……生きる)
軽い言い方だけれど、
そこに込められた覚悟を感じる。
ある日。
ドレスの最終確認で、
使用人が言った。
「妹様は、
どのお色でもお似合いになりますね」
続けて、
ごく自然に。
「お姉様には、
少し落ち着いた色がよろしいかと
眼帯の事もありますし」
ミアは、
一拍だけ置いた。
本当に、
一瞬。
「……そうですね」
そう答えた自分に、
すぐ気づく。
(否定しなかった)
理由を聞きもしなかった。
(今は……)
今は、
波風を立てない。
それが、
姉を守る選択だと信じて。
夜。
ミアは、
玲の部屋を訪れる。
「お姉様、疲れてません?そ、れ、と、
くれぐれも、無理はしないでね!」
「‥分かった、まあ。でも、悪くないかも。」
玲は、
どこか楽しそうな感じがする。
「身体を動かすのも、
勉強も」
ミアは、
安心する。
(まだ、
折れてない)
玲は、
ミアを見る。
頼りにしている、
という視線。
そのことに、
ミアは気づいている。
(……依存させない)
(私は、
支える側でいい)
そう、心に決める。
その夜
ミアは自分の部屋に戻る廊下を
歩きながらふと想う。
パティー…と言う事は
お姉様のドレス姿が見れる!
楽しみ!!絶対かわいい❤
楽しみが増えた!よし、頑張ろ。
月の終わり。
正式な招待状が届く。
封を切る音が、
静かな部屋に響く。
ミアは、
その文字を見つめる。
(ここから、だ)
玲は、
深く息を吸う。
「やるしかないな」
その覚悟は、
真っ直ぐで、
前向きで――
ミアには、
少しだけ危うく見えた。
この一ヶ月で、
すべては整った。
知識も、体も、立場も。
そして――
“評価が入り込む隙間”も。
文章の表現は 一部AI を補助として利用しています。
アイデア・プロット・設定は全て私のオリジナルによるものです。




