”評価“─ミア視点
パーティーの話は、
音もなく屋敷の中に広がっていった。
誰かが大声で告げたわけじゃない。
掲示が出たわけでもない。
それでも――
朝になると、空気が少しだけ違った。
廊下を行き交う使用人たちの歩幅。
声の抑え方。
装飾品を扱う手つき。
(……来る)
ミアは、そう思った。
正式な場。
“見られる”日。
姉――玲は、いつも通りだった。
朝は鍛錬に出て、
戻ってきて汗を拭い、
何事もなかったように食事をとる。
その姿に、
ミアはほっとする。
(大丈夫、噂の事も)
(まだ、何も始まっていない)
そう、自分に言い聞かせる。
使用人の一人が、
ミアに声をかけてきた。
「妹様、こちらの花はいかがなさいますか?」
「ええ、とても素敵ですわ」
自然に、笑顔が出る。
そのやり取りを、
周囲が静かに見ているのを、
ミアは感じていた。
視線が、
揃っている。
(……あ)
その瞬間、
胸の奥で何かがかすかに鳴った。
「妹様は、本当にお優しいですね」
別の使用人が、
ぽつりとそう言った。
褒め言葉。
ただ、それだけ。
けれど――
ミアはすぐに理解してしまう。
(また、だ)
“姉がああだから”
という言葉が、
その後ろにくっついている。
誰も口にしない。
でも、皆が知っている。
ミアは、
何も言わない。
笑って、
「そんなことありませんわ」と返す。
それが一番、
場を乱さない。
それが一番、
姉を守る。
そう信じているから。
廊下の角で、
使用人同士の小さな会話が聞こえた。
「……でも、妹様は本当に良い子だ」 「ええ。あのお姉様がいらっしゃるのに」
足を止めない。
聞こえていないふりをする。
背中に、
言葉が刺さる。
(違う)
(姉は、そんなふうに言われる人じゃない)
けれど、
その言葉を口にすることは、
しない。
ここで言えば、
“感情的な妹”になる。
それは、
今は違う。
ミアは、窓辺に立つ。
庭では、
玲が体を動かしている。
真剣で、
静かで、
どこか楽しそうで。
(……あの人は)
(本当に、何も気づいていない)
それが、
少しだけ怖い。
「ミア」
玲が、
こちらに気づいて手を振る。
ミアは、
すぐに微笑んで応える。
完璧な笑顔。
何度も練習した、
“優しい妹”の顔。
(大丈夫)
(私が、ちゃんとしていれば)
(姉は、
ちゃんと笑っていられる)
その日の夜。
ミアは、
一人でドレスの色見本を並べる。
派手すぎないもの。
柔らかい色。
“妹らしい”もの。
自然と、
そういうものばかりを選んでいる自分に、
気づいてしまう。
(……いつからだろう)
(私が、
こういう役を
選ぶようになったのは)
答えは、
分かっている。
守るためだ。
ミアは、
そっと布を畳む。
そして、
何事もなかったように微笑む。
まだ、壊れていない。
まだ、間に合う。
そう、信じて。
けれど――
この日から。
屋敷の中で、
一つの評価だけが、
静かに定着し始めていた。
姉は問題がある。
妹は、それを補う存在だ。
誰が決めたわけでもない。
だからこそ、
誰も疑わない。
ミアは知らない。
この“評価”が、
後に――
自分自身を追い詰めることを。
そして、
三回目のパーティーで、
仮面が壊れる種になることを。
屋敷の中を静かに巡り始めていた。
文章の表現は一部 AI を補助として利用しています。
アイデア・プロット・設定は全て私のオリジナルによるものです。




