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四章 混じり合う音 

「別に動画で食べていこうと、していないんでしょう?」

 なんて応えようか、正直に上げたいから上げているって言っていいものか。考えていると片付けが終わった彼女が立ち上がった。

「ねぇ、少し歩かない?私、あまりここ来ないんだ」

 え、僕と?岡上さんは何を考えているんだろう?僕が返答しないから怒ったのかな?

「あ、もしかして予定あった?」

「予定はないけど、僕と一緒に歩いても楽しくないよ」

 岡上さんが、僕を睨みつける。

「山下くんって、どうしてそんな事を言うの?楽しいか楽しくないかは、私が決めるの!でどうなの」

 なんか断れない感じがする。

「分かったよ」

 僕達は公園を歩き出した。この時期は涼しくなってきた事もあって、走っている人や散歩している人が多い。すれ違う人を見ながら、彼女をちらっと見る。やっぱり岡上さんって綺麗な人だよね。少し緊張してきてしまった。

「ねぇ、さっきの質問だけど」

「は、はい」

 急に話しかられて、声が裏返ってしまった。僕を見て彼女がくすくす笑った。僕も釣られて笑ってしまった。

「どうして動画を上げているかって事?」

「うん。どうして?」

 答えが見つからず、正直に答えることにした。

「僕の自己満足かな。なにか作ったものを形に残したいって感じ。あとはどこまで上げ続けることができるか、僕の挑戦みたいな所はあるかな」

「そうなんだ。楽しい?」

「楽しいよ。いろんな表現ができて、音の表情っていうのかな?それが作るたびに新しい表情が見えるんだ」

「私がギターやっている理由と似てるね。私もずっと弾いていると感情が乗ってくるんだよね。よく周りが見えなくて衝突しちゃうんだけどね」

 岡上さんは乾いた表情を浮かべる。きっと井原が言っていた辞める原因のことだろう。

「でもね。人とやるのが嫌って事じゃないんだよ。人と一緒だと、もっと知らない可能性を知れるから」

 彼女は空を見上げた。秋の風が静かに彼女の髪を揺らす。

「だけど、たまに一人で弾きたくなっちゃうんだ」

「それが今日だったって事?」

「そうだよ」

 彼女は急に僕を見た。

「弾いてて思ったんだよね。私の中の新しい扉を開きたいって、私の音楽に君の楽器を合わせたら、どんな表現ができるのかって知りたくなった」

 彼女は僕の前に少し駆け足で前に出て、くるっと回った。

「改めて、私の可能性を広げる手助けをしてください」

 彼女は体から僕に向かって一礼する。

「お願いします」

 正直、昨日までの僕だったらすぐ断っていた。だけどさっきの音楽、今の気持ちを聞いて僕の答えは変わっていた。

「岡上さんと話してて、僕も新しいディジュリドゥの表情を知りたくなった。とりあえず一度合わせてみようか」

 彼女は顔を上げて喜んだ。

「ほんとに!やった!」

「とりあえずだよ」

「とりあえずでも嬉しいよ」

 彼女は子供のように喜んでいた。

「どんな曲にする?」

 彼女は新しいおもちゃで遊ぶように、ワクワクしている様子だ。

「実はさっきの曲がいいなって、思っているんだ」

「最後に弾いてた曲?」

「うん。聞きながらここで音を入れると、面白いなって思ったんだ」

「そうなんだ。さっきのわたしのオリジナルだよ。音源も取ってるからあげるね」

「ありがとう」

 岡上さんの声がさっきより、明らかに少し高くなっている。

「どのくらいでできる?」

「やったことないから、一週間考えてみるよ」

「分かった。そしたら、来週の日曜日に、この公園で合わせてみよ」

 彼女の勢いに負けてしまった。

「いいよ。頑張ってみる」

 それからの一週間は忙しかった。

 日、月曜日もらった音源を分析する。火曜日で入れれそうなところにどのリズムが合うか書き出し、水曜日にこのリズムで良いか岡上さんに確認してもらい、木、金曜日でとりあえず音源と合わせてみる。できたディジュの音は岡上さんに送って確認してもらう。もちろん全部放課後でしたことだ。そして土曜日、ひたすら練習する。でもやりながら楽しくもあり、とても充実していた一週間だった。

 そして、日曜日に僕は大濠公園にいた。横には岡上さんが立っていた。

「そんなに長いんだ。重いの?」

 岡上さんがディジュリドゥを見て驚いている。

「まぁ、木だからね。持ってみる?」

「良いの?」

 僕はそっとディジュを渡した。

「重いね」

 彼女は目をキラキラさせて、こちらを見てくる。僕はなんだか照れてしまってうつむいてしまった。

「準備とかいる?」

「楽器を少し吹いて、温めないといけないんだ。そうしないと割れちゃうんだ」

「へぇ、そうなんだ」

「まぁ、生木だからね」

 僕はベンチに座って、ゆっくりと池に向かって音を鳴らし始める。今日は良く晴れていて気持ち良く吹けそうだ。

 ディユー、ディユーディユー

 うん。今日も音の伸びが良い。考えてみると外で吹くのは、どのくらいぶりだろうか?ずっと家の中で吹いていたから、なんか不思議な気分になってきた。

「緊張してる?」

 岡上さんが優しく声をかけてきてくれる。

「いや。大丈夫だよ。準備できたよ」

「じゃ、やるよ」

 岡上さんがギターを鳴らしはじめる。ギターの音は心地よく僕の耳に入ってくる。僕はゆっくりとディジュを鳴らし始めた。ギターの音はすっと爽やかな風が吹いているようで心地よく、僕が鳴らすディジュは大地の鼓動の様に響いてくる。二つの音は溶け合い、聞いたことがない音楽が出来上がっていく。目を閉じれば僕はどこにいるのだろかと、錯覚するような感覚になっていく。

 あっという間に一曲が終わってしまった。僕は岡上さんの表情を恐る恐る見た。

 彼女は顔全体が真っ赤になっていた。

「山下くんにもらって音は分かってたけど、実際合わせてみると、何倍も良かった。想像以上だよ!」

 良かった。満足してくれたようだ。

「ねぇ、もう一回しよう!」

 いつもより高い声で誘ってくれた。

「いいよ。僕もしたかったんだ」

 それから僕達は、途中でアレンジを加えつつ数回やった。

僕達の前に、ちらほらと立ち止まって聞いてくれる人がいた。正直嬉しかった。僕がここにいて良いんだと感じた。

 結局一時間くらいしていた。楽器を片付けていたら同い年くらいの男性が近づいてきた。

「とても良かったです!楽しい時間をありがとうございました」

 と感謝されて、僕と岡上さんは顔を見合わせて笑いあった。

 地下鉄のホームで電車を待っていると岡上さんが話しかけてきた。

「今日どうだった?」

「楽しかったよ。知らないディジュの世界が広がった気がした」

「良かった。私もね。楽しかったんだ」

 それから岡上さんは言いにくそうに訪ねてきた。

「だからね。これからも一緒にやってくれないかな」

 あ、その話か。

「やってみてもっと、一緒にやりたいなと思ったんだ」

 僕も岡上さんと演奏したことで、新しい可能性を開いたよう感じがした。この感じを僕は知りたくなった。僕は岡上さんにゆっくりと声をかけた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 岡上さんはばっとこちらを見る。僕は彼女に頷いた。

「僕はもっと色々な音楽を知りたくなったよ。君のせいだよ」

「フフ、そしたら責任取らないとね」

 そこで岡上さんの乗る電車が来た。岡上さんは勢いよく乗り込んでこちらを振り返った。

「ありがとう。これからよろしくね」

 彼女は手を降って帰っていった。

 僕は家に帰って、暗くなった部屋の電気も付けずにゴロンとベットに横になった。疲れたな。こんなにもディジュの新しい一面を見るとは思わなかった。

 岡上さん、僕が作ってくれた音楽を楽しんでくれていたな。急に僕の瞳から涙がこぼれ落ちた。

「え?なんで?」

 自分の感情が分からなかった。

「あぁ、僕は嬉しかったのか」

 こんなにも僕の事を知ろうとしていてくれた彼女が、こんなにもディジュリドゥを吹いている自分を認めてくれた彼女が、笑顔で帰ってくれたことがとても嬉しかったのだ。

「ありがとう」

 心の中で何かが溶けていく感じがした。

〜終わり〜

ディジュリドゥとギターの話し最後までお読みいただきありがとうございます。

ディジュリドゥという楽器を初めて知ったという人も多いのではないでしょうか?

私は長年この楽器をやっていて、この楽器を題材にした物語を以前から書きたいと思っていたので今回書いてみました。

二人の今後が気になる方やご意見ご感想がありましたら、ご連絡ください。


※最後にもう一度、参考までにディジュリドゥの音を知りたい方は、私のYouTubeチャンネルがあります。

ユーチューブチャンネル名:ディジュオグ

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