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三章 動き出す世界

「前も言ったけど、僕は岡上さんと音楽はしないよ」

 僕は彼女から目線をそらした。

「なんで?理由だけ教えてくれない?」

 僕に断られて、彼女の声は急に元気がなくなった感じがする。

「僕に他の楽器と、合わせるような技量はないよ」

 これ以上話していたら、また誘われそうだ。

「ディジュに興味を持ってくれてありがとう。もうこれ以上話すことはないよ」

 僕は逃げるようにその場をあとにした。後ろの方で彼女の声が聞こえた。

「私、諦めないから!」

 僕は急いで外に向かってバス停に向かった。

 なんで、なんでだ。なんで彼女は僕にこだわるのだろう?もの珍しいだけなら、そろそろ諦めていいはずだ。

「あ、バス」

 いつの間にかバス停に着いていた。いつも乗っているバスが、ちょうど着ていたので飛び乗った。

 そもそもなんで僕の演奏で、ギターと合わせれると思ったのだろうか。全く彼女の考えが分からない。まずは彼女を知らないといけないかな。

 次の日の昼休みに、付き合いたての彼女のところに向かおうとしている井原を呼び止めた。

「どうした?用事がないようなら、早く行きたいんだけど」

 首だけこちらを見て、早く行きたいアピールをする井原。

「岡上さんのことで、聞きたいんだけど」

 井原は何かを察した様子で、体ごとこちらを向いてくれた。

「なんか毎日呼び出されているな」

 呼び出されていることには、気づいていた様子だ。

「あいつと何かあった?」

 なんか感じがいしているようだ。僕は慌てて首を振った。

「音楽のことで話しててね」

 嘘は言ってない。井原は納得した様子だ。

「音楽ね〜。あいつ好きだからね〜」

 すこしうんざりしている様子だった。

「何かあったの?」

「あいつとは家が近所だから、よく遊んでたんだけど、ギターのことになると問題を起こすんだよね」

 ため息をつく井原。

「あいつギターの腕は凄いんだけど、俺が知っているだけで、十組はバンド誘われてるんだけど、何回かやっただけでなんか合わないって、すぐやめてるんだよね。実際はもっとありそう」

「そうなの?」

 井原がうんざりした表情で頷いた。

「音楽のことで、今でもたまに聞くんだけど、そのたびに辞めたって言ってるんだよ」

 井原が言った言葉が、少し気になった。

「誘われてって、自分から誘うじゃなくて?」

 井原は少し考える。

「言われてみると、いつも誘われた所が合わなくてって言ってる気がする。誘ったって聞いたことがないな」

 岡上さんは普段は誘わないのか?

「まぁ、おかげで彼女を紹介してもらっただけどね。なぁもう行っていいか」

「悪い、ありがとう」

 井原は走り去っていった。

 そしたらなんで、彼女は僕を誘ったんだ?その事を考えていたらあっという間に放課後になってしまった。

 僕は恐る恐る教室の扉を見たが、彼女は来ていなかった。今日はまっすぐ帰れる。今日はバス停に少し早めに着いてしまったが少し待つことにする。

「そもそも、僕はなんでこんなに断ろうとするんだ?」

 あんなに誘ってもらえるのは嬉しいことだ。今までにないくらいに。

「やっぱり気にしてるのかな」

 まだ初めて間もない頃、同じように興味を持ってくれた友達がいた。でもいざ見せてみると、

「なに?それ楽器?面白いの?」

 友達の顔が変なものを見るような表情をしていて、見るからにがっかりしていた。

 友人を裏切ってしまった。

 今思えばできることも少なかったし当然なのだが、当時はそれ以上言葉が出なかった。それからは友人の前では楽器をしているって言わなくなった。

 あぁ、そうか。僕は怖いんだ。あの人の期待を裏切ってしまうのが。期待されているのが怖いんだ。夕日が地面に向かってゆっくりと沈んでいくのが見えた。

 次の日、僕は動画の撮影をしようとしたが、気が乗らず久しぶりに大濠公園で散歩をする事にした。

 久しぶりに来てみたけど、やっぱり広い。

 近くのカフェでコーヒーを買ってベンチに座る。最近は気温も下がってきて、いい季節になってきた。

「よし、リズム考えよう」

 僕はバックから、ディジュリドゥのリズムを書いているメモ帳とペンを取り出した。コーヒーを一口飲む。香りが良くて空を静かに見上げる。池に視線を落とすと、池に空が反射してとても綺麗だった。

 ・・・どのくらい経っただろうか。コーヒーを一杯飲み干してしまった。リズムも書いてない。ただ空を見上げたり池を見ていただけだった。

「せっかく大きいの買ったのにな。まぁ、そんな日もあるのかもね」

 僕は立ち上がって背伸びをした。岡上さんに外周の話をしたのを思い出し、久しぶりに歩いて見たくなった。

 太陽の光が池に反射してキラキラと輝いて見える。歩いているとギターの音が聞こえてきた。とても軽やかで綺麗な音色だった。

 音の方に歩いていくと、何人か立ち止まってその曲を聞いている。弾いている人は池の方を向きながら弾いていた。

こんな曲と一度合わせてみたいな。ずっと先の話だろうけど。僕も立ち止まって曲が終わるまで聞いていた。

 僕は曲が気になって、ギターを片付けている彼女に声をかけて見ることにした。

「あの、すいません」

「はい」

 片付けを止めて、彼女はこちらを向いてくれた。彼女を見て僕は言葉が出なかった。

「山下くん?」

 岡上さんだった。彼女が弾いていたのだ。

「なんでいるの?」

「岡上さんこそ」

「私は、ほら、この間山下くんが大濠公園の話をしたでしょう。それでここで弾きたくなっちゃって」

「僕も同じようなもんだよ」

「そうなんだ」

 彼女は軽く笑った。そして彼女はゆっくりと立った。

「私の演奏どうだった?」

 岡上さんはまっすぐに僕を見ている。

「私の演奏良くなかった?」

 不安そうな表情を浮かべる岡上さん。僕は慌てて首を振った。

「いや、いやその逆だよ。とても綺麗で素敵だったよ」

「そっか。ならよかった」

 彼女は満足そうに片付けを再開した。てっきりまた誘ってくるのかと思ったが、そうではなかったようだ。

「山下くんはさ、なんで動画を上げ続けているの?」

 唐突に質問をされて、言葉に詰まってしまった。

〜続く〜

ディジュリドゥとギターの第3話はどうだったでしょうか?

自分の気持ちに気づいた山下、少しづつ近づいていく二人の距離。

そのまま交差するのでしょうか?

次回が最終回となります。

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