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二章 動揺する心

「なんで呼んだのって、顔してるね」

 心の声を読まれたようだ。腰に手をあてて岡上さんは満面の笑顔でこちらを見ている。

「ディジュリドゥのこと聞かせてよ!」

 ディジュの事?組む事は断ったはずなのに、ディジュの事をなぜ知りたいのだろう?

「楽器の事だったら、僕よりネットのほうが情報いっぱいあるよ」

「楽器の事は、昨日帰って調べたよ」

 だったらなんだろう?彼女は人差し指をゆっくりとまっすぐ僕に向けた。

「あなたの事が知りたくなったの」

 彼女の言葉の意味が、分からなかった。

「あんな楽器どこで知ったの?どのくらいやってるの?」

 思いがけない言葉に口から言葉が出ない。

「ねぇ、あなたのこと教えてくれない?」

 僕の事を話しても、また馬鹿にされるだけだし言いたくないんだけど、どうやら彼女は見逃してくれないようだ。

「分かったよ。ジュース飲みながらで良い?」

「えぇ」

 僕達は学校の自販機でジュースを買って、近くのベンチに座った。校庭からは運動部の元気な声が聞こえてくる。

「で、知ったきっかけだったよね」

 どこから話せばいいかな。そういえば知ったきっかけを、人に初めて話すな。

「十歳の時に大濠公園の池の周りで、吹いている人がいたんだよね」

「大濠公園ってあの、福岡市美術館の横の?」

「そ。大池の周りってマラソンコースがあるんだけど、その時は父さんのジョギングの付き合いで、毎週行ってたんだよね」

「お父さんの付き合いで?」

 彼女はきょとんとしていた。

「う〜ん、僕のお父さん走るのが趣味みたいな人で、日曜に一、二時間走りに行ってるんだ。僕も子供の時からたまに一緒に走ってるんだ」

「お父さんと仲いいんだね」

「そうかな?そこで僕も走ってたんだけど、僕は当時一周位で疲れてたんだ」

「確か一周二キロだったっけ?」

「そうそうよく知ってるね。その日、走ってると椅子に座ってディジュリドゥを吹いている人がいたんだ」

「え、偶然?」

 彼女が不思議そうな表情をする。

「うん。その時はお父さんが、この楽器はディジュリドゥって言うんだよって教えてくれたんだ」

「お父さんは知ってたの?」

「昔オーストラリアに旅行に行った時に知ったみたい」

 こんなこと話すことはないからなんだか緊張してしまう。

僕はジュースを一口飲んだ。冷たい感触が少し緊張をほぐしてくれた。

「たしか原住民の人が吹いてたのよね?」

「ちゃんと調べたんだ」

「基本的な事はね。さっき言ったじゃない」

「ごめん。嘘だと思ってた」

 彼女は少しムッとしたみたいだ。

「まぁ、いいわ。それからその人に教わったの?」

 僕はその時の事を思い出して、苦笑いする。

「その時は聞き慣れない音だったし、怖くて帰ったよ。それからディジュリドゥの事を気になって調べたんだ」

 今、考えるとあの時の、僕の行動力はすごいな。

「そして次の週だったかな。お父さんに話してみたいって言ったら一緒についてきてくれてね」

「優しいお父さんだね」

「そうだね。走るついでにって感じであまり考えてなかったんだと思う」

「で、どうだったの」

 彼女が身を乗り出して聞いてきて、一瞬ドキっとしてしまった。恥ずかしくて飲みかけのジュースに目線を落とした。

「その人は趣味で吹いてて、色々教えてくれたよ。その人に吹いてみないかって言われて、それから吹くようになったんだ」

「その人には、まだ教わっているの?」

 僕は首を振った。

「その人は一年くらいしたら転勤で、東京に行ったんだよ。僕が小五の時かな。それからはたまにメールとか電話で連絡を取ってるくらいかな」

「楽器は持っているんだよね?いつ買ったの?」

「ほんとグイグイ来るなぁ」

 その言葉に彼女の表情は、クシャッと曇った。

「ごめんなさい。迷惑だったかしら」

 僕は慌てて、手を横にふった。

「違う。違う。こんな事って、初めて話すから少し戸惑っているだけだよ」

「ほんと?」

 僕は何度も頷いた。彼女はホッとしたようで、胸を撫で下ろした。

「えっと、いつ買ったかだよね。僕が中二の時かな。お小遣いとお年玉を貯めて買ったんだ。それまでは練習用でネットで買ったやつで練習してたんだ」

「ここらへんで売ってないよね?」

 僕は頷いた。

「家族旅行で東京に行った時、教えてもらってた人に、お店に連れていってもらったんだ」

「それからずっと演奏しているの?どこで演奏してるの?」

「僕は外で吹かないよ。目立つこと嫌いだしね」

「え、やってないの!そんな楽器やっているのにもったいないよ」

 彼女の言葉はまっすぐに僕に突き刺さった。昔そう言ってくれた人がいたが、結局見せたら馬鹿にされて終わった。それから人前で吹いたことがない。

「ねぇ、なんかやんないの?」

 また馬鹿にされて、終わりそうだけど一応言っていたほうがいいかな。 

「一応、去年から動画はあげてる。まぁ視聴回数とかはあまりないけど」

 彼女が、目を見開いてこっちを見る。

「やってるじゃん!教えてよ!」

 僕は彼女に、僕のチャンネルを教えた。

「今日はありがとう。楽しかったよ。遅くなったしまたね」

 彼女はそう言って足早に帰っていった。なんか嵐みたいな人だったな。もう今度こそ話すことはないよね。

 ・・・次の日の放課後、また目の前に岡上さんがいた。

「それで、今度は何?」

「君の動画全部見たよ!」

 ぜ、全部!一つ一、二分だけど、三十本くらい上げているんだけど。

「それでね。よかったら何だけど話を聞いてほしくて、今日は来たの。また少し良いかな?」

 あの動画を見て、まだ僕と話したいの?岡上さんってどんな人か気になってきた。

「いいよ。昨日と同じところでいい?」

「ありがとう。えぇいいわ」

 僕達は昨日と同じ所に座った。

「で、僕の動画を見て、感想を話しに来てくれたの?」

 少し間が空いて彼女の声が聞こえた。どうせつまらないって言うんだよね。

「えぇ、凄く楽しかった。あの楽器って穴が縦に空いているだけ何だよね。あんなに表情が豊かにどうしてなるのってなったよ」

 ん?思ったものと反応が違う。

「でも、全体見れないのは少し残念かな。少し迫力がないっていうのかな」

 僕の動画は確かに楽器の先体しか移してない。誰もみてないと思うが恥ずかしいからだ。 

「だけどね。あの音と私のギターを、合わせたらきっと新しい世界ができると思ったの」

 彼女はこちらを見て話し始める。声が少しずつ大きくなっていく。

「私はね。ギターが好き!音が繋がって物語を作っているように思えるの。あなたが演奏している音楽は、リズムの一つ一つが物語を伝えているように思えたの!」

 岡上さんの感じた事は、きっとディジュリドゥができた原点なのだろう。もともとはオーストラリアの原住民が、精霊と会話するために使っていたとも言われる。

「みんなはかっこいいからバンドをしたいって感じだけど、私は音楽で物語を感じてほしいの」

 彼女はすっと立って、僕の前に立った。

「山下くん。私はあなたと物語を紡ぎたい。あなたと新しい世界を作りたい。あなたの動画を見て改めて思ったの」

 窓から差し込む夕日に照らされながら、彼女は右手を差し出した。

「改めて、私と一緒に組んでくれない?私と一緒に物語を作らない?」

〜続く〜

ディジュリドゥの話とギターの2話目はいかがだったでしょうか?

興味を持って嬉しいはずなのに過去のトラウマで断ってしまう山下。それでもまっすぐ誘っててくれる岡上。二人はどこに向かうのでしょうか?

ご意見、ご感想がありましたらご連絡ください。

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